うちのばあちゃんは面白いばあちゃんだった。
私が『 ばあちゃーん』と呼ぶと、普通なら
「はーい」
とか
「なんねぇ」
とか
言いそうな返事が 必ず
「よぉ?」
なのだ。
急にばあちゃんの家に行っても
「どぅしたんね」
とか言うこともなく
「よぉ?」と語尾が上がるような返事が返ってくる
そんなばあちゃんから聞いた話
ばあちゃんの家の横には線路がある。小さい頃は電車のけたたましい通過音が嫌いで、カタタン…カタタン と音が聞こえてくる度に「電車が来る」と耳を塞いでじっと蹲ってしまう感じだった。
風圧で家を揺らしながら過ぎてゆく電車も嫌いだったのだ。
ある日ばあちゃんがお母さんにこんな話をしていた。
婆「この間線路で事故があってねぇ…丁度畑におったら電車がワンワン鳴るからなんごつかと見ちょったら、線路にブタがおったとよ」
母「あら、ここら辺で豚なんて誰か飼ってた?」
婆「うーん…でも肌色で、人が裸で線路で四つん這いにはならんじゃろて」
母「で、どうなったと?」
婆「んにゃあ、線路の斜め向かいのHさん所ら辺におったから、大丈夫じゃろかいって思ったら、電車が音をワンワン出すし、ブレーキはギーギー鳴らしながらぶつかったもんじゃが。ドーンち言うてねぇ…でぇじゃがぁ(大変だ)ち、隣の畑のおじさんと話しちょったとよ」
母「えぇ、なんか事故あったのは聞いたけど、豚も可哀想なもんじゃったねぇ」
私は黙って甘柿を頬張りながら聞いていた。
母「ほいで、どうなったと?」
婆「警察やら消防やら色々来て、青いシートやらなんやらで、遠目でブタっちわかるぐらい大きかったかい、片付けじゃないとね、まぁ凄かったわ」
母「見に行かんかったと?」
婆「やーぞ(嫌だよ)、草も取り終わっちょらんし、ブタの仏さんなんぞ見らんでいいわね。じゃけんどよぉ、警察がこっちにも来て
『 お母さんすんません、事故の様子とか見ちょらんですかぁ』ち聞くかい、あそこのHさん方にブタが離れちょって、撥ねられたがねぇち話したとよ。
そしたらあんた まぁ撥ねられたんがブタじゃねぇち言うから恐ろししてねぇ」
ばあちゃんはその後腰を抜かして警察の方に家まで送ってもらったと話していた。
ばあちゃんが 「ブタ」 と話していたのは、痴呆の入ったお年寄りの方で、家の人がお風呂に入れようとしてる時に丁度電話が鳴り、ほんの2、3分対応している間に裸のままそとに出てしまったようだ。
長閑な田舎だから、人通りが多い訳でもなく、いつも家の中から見える電車を近くで見たくて線路に近付いたところ、裸足なもんで、足が痛くて四つん這いになっていたんだろうと。
それを遠目でみたばあちゃんは 「ブタ」 だと勘違いしたと話していた。
家の人はいつも散歩に出る時の道に行ったのではと、線路と逆の方へ探しに行った所、居るはずもなく、けたたましい電車の警告音と、ブレーキと音だけを聞いてしまったと言う。
私『 大変じゃったね…あー!!ゾッとした』
と話しながら空になった皿をばあちゃんに渡すと、ばあちゃんは柿を取り、サリサリと剥きながら
婆「じゃけんどよぉ、まだ続きがあったとよ…」
と話し出した
人身事故があった当日、Hさんのお宅は息子が帰ってきたとかで家族で温泉に行って留守にしていた。
それから夜帰って来たら、どこからか家の中に風が吹いてる気がする。
空き巣か、閉め忘れかと話していた所、線路に面した部屋のドアが半分開いてあり開けるとカーテンがヒラヒラと風を通していた。
泥棒じゃない!?なんて言いながら電気をつけると、畳の上に割れた硝子と毛の生えた肉片が落ちていて、これまた警察沙汰になったそうだ。
母「いやぁねぇ…」
婆「頭のどこの所かじゃがね…」
私「ばあちゃんもぅ柿いらない…」
婆「よぉ?」
そんなばあちゃんのお話しでした。
作者MEG
また皆様のお話をゆっくり楽しみながら、時間があれば投稿できたら、読んでいただけたら有難いなと思いつつ、ばあちゃん思い出に浸ります
今夜のイワナは火が通り過ぎておるようじゃな
まったくだ