『ねぇ、聞いて欲しい話があるんだけど。』
当時付き合っていた看護師Aちゃんから聞いた話です。
Aちゃんの勤務していた病院は県の中でも指折りの大きな総合病院でした。
大きな国道に面して、交通の利便も良く、夜には救急患者も多く運ばれてくるような病院でした。
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とある夜。 一人の患者が運ばれてきました。
年齢は17歳の女子高生でした。
自宅のマンションの5階から飛び降り、かなり危ない状態だったそうです。
でも、この女子高生、後から聞いた話によると、とても明るい子で、学校でも活発に
楽しく過ごしていて、とても自殺するような子じゃなかったそうです。
手術は奇跡的に成功し、女子高生は一命を取りとめました。
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ただ、事故の後遺症は大きく病院に搬送された時点で、両足を複雑骨折しており、
術後には、両足切断を余儀なくされました。
手術から二週間後、容体も安定した女の子は、車椅子でのリハビリに専念し始めました。
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Aちゃんや他の看護婦さんが補助でリハビリに立ち会うらしいのですが、
本当に本当に一生懸命に頑張るそうです。
リハビリ中も、テレビや最近話題のテレビの話など、楽しい会話が尽きなく出てきて、きついリハビリの間も終始笑顔で頑張るんだそうです。
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そんなリハビリの甲斐もあってか、女の子は一人部屋だった治療室から、四人部屋の部屋に移され、車椅子での生活にもかなり慣れてきたそうです。
そんなある日、Aちゃんが女の子の部屋に行くと、ぼーっと窓の外の道路を眺めていました。
時折見せる笑顔とは別の寂しそうな顔に心配になったAちゃんは女の子に話しかけました。
『早く退院したいよね、リハビリ頑張ってるから、きっともうすぐ退院できるよ!』
女の子はふっと頬を緩めながら『はい!頑張ります。』
と答えました。
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Aちゃんはどうにか女の子を元気づけてあげたくて、何か、気の利いた言葉を探しました。
『あ!そうだ!もし退院して、元気になったら、何がしたい? 目標を決めてリハビリすると、グッと効果も上がって、とっても良いんだよ!』
『え、そうなんですか? うーん、なんだろう、、、』
『ほら、家族と一緒にあそこに行きたいとか、あのお店のあれが食べたいとか!』
『うーん、、、そうだなあ、、、あ!私、元気になって退院したら、、、
もう一回自殺します』
『は?』
呆気にとられるAちゃんの顔をいつもの笑顔で見返す女の子。
Aちゃんはもう何も言う事が出来ず、黙って病室をあとにしました。
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それから数週間後
女の子の退院の日がやってきました。
リハビリの成果か、車椅子の扱いにもかなり慣れた様子です。
女の子の両親が迎えに来て、担当だった看護婦や医師が見送りの為にロビーに集まりました。
Aちゃんや他の看護婦さんが花束や色紙、色々な退院祝いを渡します。
女の子の父は大量のプレゼントを持って、駐車場の車を入口まで動かしに行きました。
女の子はAちゃんから貰った熊のぬいぐるみだけをちょこんと抱えて挨拶しました。
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『お世話になりました。』女の子は車椅子の上から深々と頭を下げ、母に車椅子を押されながらロビーから出入口に向かいます。
出入口の自動ドアを超えた時、女の子がぽろっとぬいぐるみを落としました。
女の子が拾おうとすると、車椅子を押していた母が、
『あ、無理しないで、転んじゃうわ。拾ってあげるからね。』
そういって、車椅子を離し、ぬいぐるみを拾い上げました。
と、その瞬間、
shake
女の子はいきなり車椅子を漕ぎ出し、猛スピードで病院前の国道に飛び出しました。
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shake
ドンッ
車に撥ねられた女の子は即死だったそうです。
そう、女の子はAちゃんに言った通り、元気になって退院してまた自殺したわけです。
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両足を切断した事に絶望してなのか、
何か、自殺する理由があったのか、
今となってはもう分かりませんが、
『ねぇ、なんでだと思う?』
話を聞き終え、Aちゃんに尋ねられた俺は、何も答える事が出来ませんでした。
執念、、、
作者ヒロキ