コンビニでバイトしている時に経験した話。
深夜帯のシフトに入っている時、ウォークインの飲み物商品の表示物が入れ替わるというのでそれに合わせて棚替えをすることになった。実行するのは俺ともう一人のバイト。男性。
俺の相方は慣れているようで、オーナーは簡単な指示だけして帰って行った。
相方をSさんとする。
棚替えは実質Sさん一人でやっているようなものであり、彼がウォークインに入って作業を行い、俺はレジ打ちと普段やっている掃除とかをしていた。
俺の作業は一段落し、客足も落ち着いたためにSさんの作業を眺めながら雑談をしていた。
Sさんは俺よりも何年か先にバイトを始めた先輩で年も近く、気さくな人だったので普段からよく話していた。
何の話をしていたのか忘れたが、話の途中、俺の後ろ、店内の方を見ていたSさんの顔が強張った。
話の内容にそぐわない表情をしていたので話を中断し、どうしたのか尋ねる。
その時は別に何でもない、とSさんは答えた。
でも、俺はSさんの表情が気になりしつこく聞き続けた。
だが、Sさんは急に無口になり、急いで作業を終わらせた。
俺はすごく気になったので少し早めの休憩を提案。
コーヒーを買ってSさんの手に押し付けた。
今からすれば嫌われるんじゃないかと思うほどしつこく聞き続けた。
その甲斐? あったのかSさんは話してくれた。
そのコンビニはレジの中から入れるところに詰め所? というか事務所みたいな部屋があり、タバコが保管してあったり、バイトの荷物を置くロッカーがあったりする。
休憩している今もそこにいる。
事務所はレジ側と店内側に扉が一つずつある。店内側は事務所の中からは開けられるが外からは開けられないようになっていた。
事務所はそう広くはないので俺の座っているところのすぐそばに店内に通じる扉がある。
そこ。
Sさんは俺の近くの扉を指さした。
さっきウォークインの中にいたろ。そこからその扉の前に人が立っているように見えた。
思わず視線を反らして、もう一度見たらいなくなってたけど…。
何となく店内監視カメラの映像を見る。
分かっていたが当然、客は一人もいない。
問題の場所にも誰もいない。
Sさんがあんまりにも真剣に言うので、俺は少し茶化して、怖がらせないでくださいよ、とか作り話でしょ、とかそんな内容を言ったのを覚えている。
でもSさんはマジだと譲らない。
確かに顔色が悪く、本当に見たようだった。
でも、一瞬なんですよね。
別の何かを見間違えたとかなんじゃないですか。
件の扉の前にはコピー機とか、無料のパンフレット等を置いているラックがある。
一瞬であれば、人と見間違える可能性もある。
いや…。
Sさんは首を振る。
ていうかどんな人だったんです?
男? 女?
俺が聞くとSさんは少し戸惑った。
言うか言うまいか迷っているようだった。
少しして唇を舐めてから話し始めた。
男か女かは分からない。すごく背の高い人だった。
背の高い人?
ああ。高すぎて天井に肩までついてたよ。
そのせいで顔は分からなかった。
そう言われた時、背筋がゾッとした。
さっきまで半分笑い話として聞いていたものが一気に豹変し、周囲の気温まで下がったように錯覚するくらいだった。
その背の高い人をその後も含めて俺は結局一回も見ていない。
なのでSさんの嘘かもしれないと思う。
だが、その時から1週間も経たずにSさんがバイトを止めたことを考えると、半分以上は本当に見たのだろうと思っている。
作者某コンビニ店員