最近友達に本当に霊が見えるのかとよく聞かれる、見えると言ってもなかなか信用してもらえない。
そんな時によく使うアプリがある、顔認識機能があるアプリだ。
そう、猫耳やメイクをして遊ぶアプリ…色々なアプリがあるが、俺が使うアプリは決まっている。
つい先日もバイク仲間と5人でトレーラーハウスに泊まりにいった、何となく気配を感じた俺は、
トレーラーハウスの中をゆっくりと歩き回り、最後尾のベットルームを覗いた…、やはり…、いた!
両脇には幅の狭い2段ベットが備え付けられている、そのほぼ中央に佇んで主張しているソレだ。
ソレはベージュのワンピースを着ている。
ワンピースはびちゃびちゃで、べったり体にまとわり付いていた。
黒っぽい下着とも水着とも思われるような物が、うっすらとワンピースに浮きでてみえている。
両足は肩幅ぐらいに保たれ、両手を前方やや下向きに何かを求めるように突きだしていた。
髪の毛は長い、とても黒くて長く、顔全面を覆い真下に抜け落ちるのではないかと重そうに垂れ下げ、得体のしれない液体が先端からしたたり落ちている。
それもスローモーションで再生でもしているかのように、ゆっくり糸を引くように
「ポターン…、ポターーーーン…」
下には、タールでも溜まっているかのようなドス黒い液体の小さな池ができていた。
湿気が多く感じたのは、海辺のトレーラーハウスなのでしかたがないと思っていたが、
原因が彼女であることも瞬時に理解できた。
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泊りでは必ず実施される奇怪な俺の行動を、またかと見慣れたメンバー達が黙認している。
ボディビルダーで屈強なくせに妙に小心者のヨッシーが、不安そうな顔で尋ねてきた。
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「シンさん、いるの?」
「いるよ、女性が…、髪の長い女性がいる。」
「やめてよぉ~、俺そういうのダメなんだよ~」
もはや心ここなあらず、焦点を失った目で、急に荷物を出し始めた。
最年長のトオルさんは、真面目な顔なのに子供っぽく
「ほんとに?いやだな~、勘弁してよ~」
平静を装っているが、その部屋から一番遠い席をしっかり確保していた。
グループではサブリーダー的でしっかり者のミノさんは、
にやにやとややひきつった笑顔で
「シンさん、どの辺にいるんですか~?」
全ての電気を点灯させながら、奥の部屋を見にいった。
そっち系の話をまったく信用しないノンさんは、無口のまま聞こえなかったようにしている。
「………」
メンバーを安心させようと思って、
「大丈夫だよ、こっちを見てこないし、目を合わせるタイプじゃないから!」
俺は言い放ち、自分の荷物に手をかけた…。
各自荷物整理が終わり、スエットに着替え、すぐさまビールで乾杯した。
まだ、夕方5時である。夕食は隣接の施設で7時から宴会だ。
500mlビール缶を一人3缶づつあっという間に流し込み、Harley談議に花が咲いていた。
急に立ち上がったミノさんが、トイレにいこうとするが何となく躊躇している。
ビールをこれほど短時間で大量に胃に流し込んでいるのに、誰もトイレにいっていないのだ、
先ほどの彼女の事が気になっているからだと直ぐに分かった。
なぜならトイレは彼女のいる部屋の手前にあるからだ。
意を決し、ミノさんはトイレに向かった、ヨッシーが慌てて席を立ち、
「俺もと今のうちいっておこう!」
独り言のようにつぶやき、いい大人がビビりながら後に続いた。
トオルさんが頬を赤らめ聞いてきた。
「シンさん、本当にいるの?」
「トオルさん、そんなに見たい?」
何とも不思議そうな顔をしていたトオルさんの要望に応えようと、俺はアプリを起動した。
そう、顔認識機能のアプリを起動したのだ。
トオルさんの顔に合わせてみる。
猫耳と鈴をぶら下げた、酔っ払い爺の出来上がりだ!
「パシャ」
爺もこうしてみると妙に可愛く映る、人間のアイデアと技術の進歩には本当に驚かされる。
「さて本番といきますか!」
誰に言うわけでもなく、俺は携帯をかざしながら奥部屋へと進みだす、
「ん?」一瞬、気のせいかソフトが反応したように見えた。
「気のせいか…」
まだソレに携帯を向けていないし、合わせていない。
携帯の画面を見ながら、さらに先に進む。
佇んでいるソレを画面で探しながら携帯を前方に向けた。
しかし、画面には何も映っていない、無人の部屋が写るだけだ、俺は部屋の明かりを消した。
薄暗くなると、ソレが徐々に見えてきた。
先ほどの場所に先ほどと同じように立っていた。
俺はゆっくりと携帯をソレの顔へと向けていく、画面にソレが写り込む。
しかし、アプリは反応しない。
髪の毛が邪魔で顔を認識しないのか、人間ではないのでカメラが反応しないのか…
その時、
「ガシャン!」
突然通り過ぎた後ろ側のトイレが開き、ドアからミノさんとヨッシーが出てきた。
ビックリした俺は、振り返りざまにミノさんとヨッシーにカメラを向けた。
アプリが二人の顔を認識し、猫耳の中年二人組を映し出した。
「パシャ」
写った二人の猫顔は、笑えるがそれほど可愛くはない。
「なにしてるの?」
ヨッシーに言われた瞬間、背中にぞわぞわと悪寒が走り、俺は急に振り向いた。
振り向いた先の携帯画面には、猫耳と大きな鈴をぶら下げたソレが、目玉の無くなった真っ黒な穴だけの目で俺を見ている。
髪の毛は抜け落ち、おでこは黒く血まみれになり、皮膚がぶよぶよと緑色にふやけ腐っている。
眼球は無く、穴のみがすっぽり開いていて、闇のように黒く吸い込まれそうだ。
顎は細く長い、さらに長く、縦に広がりながら、もうこれ以上開きようがない限界まで開いて、
「バキッ」
下顎が外れ、ぶら下がる。
どす黒い血がしたたり落ちて、血と一緒に白い固形物が散らばる。
歯だ。
「パシャ、パシャ」
思わずシャッターを切ってしまった。
「シンさん、何撮ってるの?」
ミノさんの声で我に返った。
無言のままアプリを確認すると、何も無い空間に、猫耳と鈴だけが写っている写真が2枚あった。
そう、彼女の顔を認識したのだ、アプリは認識したが、彼女は写っていなかった。
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あなたも、夜中に自室で試してほしい。アプリを起動し、ふと気になる空間に携帯を向けてみる
アプリがもしも空間を認識たら、そこには、何かが存在していることを…
作者NIGHTMARE