中編3
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母の故郷のとある事件

私の母(59)はとある島出身である。今は年寄りしか住んでおらず完全に過疎化している。

が、母が子供の頃は人口が200人ぐらいは居た。

外周で20分しかかからない小さな離れ小島だ。

島の中にいくつかの集落があり皆 漁師、マグロ漁船漁等で生計をたてていた。

その中によっさん(仮名)という、色黒で背が高く寡黙でいかにも軍人あがりの怖そうな目鼻立ちがハッキリとした40代頃の男性がいた。このよっさん、母の自宅の2軒先の住人で、周りの島民(特に大人)から線引きされていた。

不思議に思った母が小学生低学年の時に、「なんでみんなよっさんの事怖がっとるん?挨拶したら優しいおっちゃんに見えるけんど。」と父に聞いたそうだ。

父「う~ん…他所であんまり言うなよ。今は優しそうやけんどなあ、昔、人を殺して島に戻ってきたんや。しかも常習や。」

ここからは母の父(私の祖父)の話

よっさんはここの島出身で、年頃になると島の娘と結婚し出稼ぎ漁師をしていた。(多分マグロ)

よっさんはヤキモチ焼きな性分で、自分が長い間留守をしている間、嫁が浮気をしているんじゃないかと疑っていた。嫁のそんな噂話も小耳に挟んだのだろう(島では「夜這い」の風習がまだ残っていた為)。

久々に漁から帰ってきてみると、嫁のお腹が前より大きくなっている。どうやら孕んでいるらしい。

よっさんと嫁はその夜激しく喧嘩をした。

騒いでいるのを聞いた者がいる。

誰の子や!?ホンマに俺の子か!!?お前、他の男と関係しとるんやろ?!

アホか!!あんたの子に決まってるやろ!!

この口論でカッとなったよっさんは嫁の首を絞めて胎児ごと殺してしまった。

よっさんは、殺した後皆が寝静まった頃を見計らって

てんま船(手漕ぎボートみたいなもの)で5キロ以上離れた本土まで一生懸命漕いだ。あえてモーター船を選ばず懸命に漕いだ。エンジンの音で島民が起きるのを恐れた。漁師は3時には起きる。それまでに逃げ切らないといけない。見つかってはいけない。

やっとのことで本土の山中に逃げ、彼の母が握り飯を持っていったりしてしばらく匿っていた。その為山狩りをした警察もなかなか捕まえられなかったようだ。

さて、嫁が殺された次の日警察の一人がこう行った。「これは、初めてやないのう。素人やない、やり慣れとる。前にも殺したことがある手口やのう」と。

当時の女性は浴衣の寝巻きを着て床につく習慣があり彼は嫁の腰紐を使い、

後ろから一気に締め上げた。

その時、下ろした長い髪の毛を挟み 締め上げると首が動きづらく殺しやすいのだそうだ。

髪をアップにして締め上げると首が動いて

抵抗され失敗する恐れがあるので、

確実に殺せるよう長い髪を巻き込み動きを封じ抵抗しづらくさせた上で絞め殺した。

数年後よっさんは刑を服し島に戻ってきた。

島民とうまく共存していた。

島民はなるべく近寄らないように、しかし村八分にしないように腫れモノ扱いした。万が一の仕返しが怖いので親達は子供たちによっさんを馬鹿にするような発言をしないように、あまり深く関わらないように、愛想良く挨拶するように、と教育した。

子供たちは、なんかわからんけど怖いおっちゃんやねんて!ぐらいにしか思ってなかったはず。

島に戻ってきたよっさんは皆が嫌がる仕事

肥え汲み、汚れ仕事、力仕事、修理、老人の世話など、何でも屋をして生計をたてて第二の人生を歩み、静かに島で亡くなったそうだ。

ちなみに解剖で分かったことだが、

殺してしまった嫁のお腹に居た胎児は

間違いなくよっさんの子供だったらしい。

…なんとも悲しい、後味の悪い

とある閉鎖的な島の実話だ。

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