中学2年の夏休み、小学校からの親友2人と一泊でキャンプに行く計画を立てていた。
キャンプ場所は自転車で30分程走った所にある小さな山で、辺りに民家もなく、車もほとんど通らないような場所だ。でも俺とB君はこの山の地形を把握している。
小学生の頃、毎週のように山にキノコを採りに行ってたからだ。
キャンプ当日、大量の荷物を背負って自転車を走らせた。
着いたのは夕方4時過ぎ、持ってきたテントを設置し終え、日が暮れるまでゲームをしたり、キノコを探しに行ったりしていた。
予定では夜になったら火を起こして、花火をやる予定だった。
内容は大した事じゃないんだけど、皆でキャンプは初めてだし、なんか冒険感覚で前日からずっと興奮してたんだ。
日が落ち始めたころ、「お-い!ちょっと来てー」 キノコを探してたA君の声が聞こえた。俺らはゲームを中断してA君の方へ向かった。
「どうしたの?」 A君「ちょっとこれ、何だろう?」
A君が指差す先には、土に半分埋まった箱の様な物だった。
地面からキノコの頭が見えて、根から取ろうと掘ってたら出てきたそうだ。
箱の大きさは30㎝くらいあったと思う。
何これ? タイムカプセル? 札束でも入ってんじゃね?
早く掘り出してみようぜ!
こういう状況下で見つけた物だ、そりゃみんな興味深々だ。
さっそく取り出してみると木で作られた箱のようだ、腐食具合からみてかなり前に埋められた物だと思う。
重さも全然感じなくて、俺たちは中身に対する期待が薄れた。
ん? Aどうした? 早く開けようぜ!
A君「・・止めておこうよ」
何言ってんだよー、お前ビビッてんだろ?笑
A君「そういうわけじゃないけど、なんか気持ち悪くてさ」
すると黙って聞いてたB君が「ちょっと貸してみろ」と言うとA君から箱と奪い、躊躇なく開けてしまった。
B君「なんだこれ?」
箱の中には小さなビンが入っていて、そのビンに蓋をするような格好でお札が貼られていた。
ビンは透明ではなく、中に何が入っているか見えない。
「なんか気味悪いな、閉まっておけば?」俺も興味はあったが、Aが言ってたのもあって、そう思ったんだ。
言ってなかったがA君は寺の生まれで、将来も家を継ぐ事が決まってるんだ。
だからこういう罰当たりの事はご法度だし、本人も若干霊感という物も感じるらしい。
もちろんBもその事は知っていた。
A君「B、、元に戻した方がいいよ、本当に・・」
B君「そうだな、どのみち大したもんじゃないしな」
B君がビンを元に戻そうとした時・・ あっ・・
ビリッ・・
お札に指が引っ掛かり破れてしまった。 と同時にビンの中から砂煙のような物がフワっと出てきた。
俺とA君はその一瞬の出来事に反応も出来ず、ビンから出てきた物を見ていた。
A君が震えてる様に見えた・・
B何やってんだよー、もういいから戻・・ あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ~~~~~~~、、、、、
この世の声じゃない・・と言うセリフは聞いた事があるが、まぎれまもくこの世のモノではないと感じた。
それもすぐ近くから聞こえてくる。
A君はしゃがんだままガタガタ震えている。
俺もあまりの恐怖で隣にいたBの手を握り、下を向いてじっと耐えていた。
あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ~~~
近い・・・ 近いけどどこから聞こえてるのか分からない。
ここに居たらまずいと思った俺はB君の手を握ったまま逃げようとした。
「・・A君っ! 逃げよう!」
A君は下を向いたまま頷いた。
決心して走りだそうと前を向いた瞬間・・
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~!
ソレは目の前にいた・・
目は大きな穴が開いたように真っ黒く、顎が首の下まで伸びていて、その大きな口からこの世のモノでない声を出していた・・・
そう・・まぎれもなくソレはB君だった。
俺は握っていた手を振りほどいてA君と猛ダッシュで逃げた。
辺りはもう真っ暗になっていた為、何度もつまずき、転びながらも無心で走り続けた。
山の下まで降りた所で市道を走る車が見えた。
俺とA君は道路の真ん中に立ち、向かってくる車を必死に止めた。
事情を話そうと運転席に向かおうとした時、車は急発進しだし、猛スピードで去っていった・・
あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ~~~~
すぐ後ろにソレが来ていたんだ。
着ている服は間違いなくB君の物だが、それ以外は完全に人間じゃない。
脚の関節がありえない方向に曲がり、大口を開けたままこっちに向かってくる。
ガタガタガタガタ・・・
俺は恐怖のあまりに腰を抜かしたように動けなくなってしまった。
もうダメだ、逃げられない・・
ソレがもう目の前まで来て俺とA君は覚悟を決めた、、、
『出ていけぇ~~っ!!!貴様はこの世に出てきてはならんっ!!』
山中に響き渡るような怒鳴り声、、
俺の後ろから年配の男がソレに向かって怒鳴っていたんだ。
その男はブツブツとお経を唱え始め、、、 するとA君が・・「お父さん?」
その男はA君の父だった。
A君の父は目を見開き、顔に大量の汗をかいていた。
するとソレが向きを変え、A君の父に向かって行った。
「今だっ!お前ら逃げろっ!」
お経を瞬間的に止めて、そう怒鳴ると再びお経を始めた。
状況を察した俺とA君は全速力でA君のお寺に向かった・・・
separator
あれ?ここはどこだ? 病院だった。
俺の母と父が手を握って、泣きながら俺を見ている。
少し落ち着いてきてハッと思い出した
「・・B君は?B君はどこにいるの?」
・・・後で話すからもう少し休んでなさい。
父にそう言われると、酷い頭痛と怠さが蘇って再び寝てしまった。
数日後に俺とA君は、あの日の後に起きた事をA君の母から聞いた・・
「あの日アナタ達はB君の家に泊まりに行くと言って出て行ったでしょ?
お父さんがね、万が一夜にあの山に行ったらどうしようって不安がっていたのよ・・」
(そうだ、、思い出した・・俺たちはBの家に泊まりに行くと嘘をついてキャンプに行ったんだ)
「それでね、挨拶も兼ねてB君の家に電話したのよ、そしたら家には来てなくて、A君の家に泊まりに行くって出て行ったと聞いてね・・それをお父さんに言ったら急に胸騒ぎがしたらしくて家を飛び出して行ったのよ。
私はここの生まれじゃないから、あの山の事は噂でしか知らないのよ。
ただ夜は近寄るなとしか言われてなくてね・・」
そういうとA君の母は泣き始めてしまった。
泣きながら話す内容に、俺達も号泣した・・
アナタ達が家に来てからすぐに父から電話あったの。
電話に出ると気味の悪い声と一緒に父が・・
「すまない、遅かった・・B君を助けられない、二人が無事帰ってきたら後の事を頼む、、、ごめん」
その電話が父との最後会話だった。
その後すぐ警察に連絡して、翌朝警察と近隣の方々に捜索してもらったらしいだけど、唯一見つかったのはA君の父の携帯電話と、粉々に割れた父の数珠だけだった。
あれから2カ月後、居なくなった二人は未だに見つからない。
警察も何も手掛かりもなく諦めている様だった。
いったい何処へ行ってしまったのだろうか・・
生きてるのか死んでるのかも分からない。
親族は今でもずっと二人の帰りを待っている。
アレは何だったんだろうか、あの時ビンを空けなければ助かっていたのだろうか、A君の父は何か知っていたみたいだけど、残された親族は誰も知らないらしい。
皆は諦めてるけど、俺らはなんとかして原因を突き止める。
そうしなければ俺とA君も一生恐怖に耐えなながら生きていく事になるから・・
誰にも話してない事だけど・・
俺とAは毎晩、、、毎晩、、、毎晩、、、
目を閉じると・・
あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ~~~~~~
作者芋係長