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中編4
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親子

埼玉に住んでいる友人から聞いた話。

友人は某ショッピングモール内にあるフードコートの、ラーメン屋でバイトをしていました。そこで頻繁に見かける親子がいたそうです。

母親は20代後半くらい、派手ではないけどオシャレで常に清潔感のある女性。息子は3歳くらいで、大声で騒いだりする事もない良い子。親子はいつもアイスクリームやドーナツを購入しフードコート内で食べていたので、友人の勤めるラーメン屋に来る事はなかったのですが、見ていて感じが良いので一方的に好感を抱いていたそうです。

しかしある時、友人はふと「しばらくあの親子を見ていないな」と気付きました。友人の勤めるラーメン屋に来る訳ではないので曖昧な記憶ですが、もう2、3ヶ月程姿を見かけなかったそうです。友人は「子供を預けてお母さんが働き始めたとか、まぁ色々あるよな」と考え、特に気にとめる事なく働き続けていたそうです。

それから更にしばらく経たある平日、お昼時を過ぎて客足が緩くなった頃、何気なくフードコート内を見回した友人はギョッとしたそうです。

ふらふらした足取りでフードコートに入って来た女性、それが例の母親だと友人は始め気付けませんでした。綺麗に纏められていた髪はボサボサ、オシャレだった服装も上下柄物でちぐはぐな印象、背中を丸めて足を引きずるように歩く姿は、失礼ですが異様としか言えなかったそうです。

しかし友人が「あのお母さんだ」となかなか気づけなかった最大の理由は、連れている子供が全く知らない、5歳くらいの男の子だった為でした。

男の子は母親にまとまりつくように周りをうろちょろしながら、ひっきりなしに何かを話しかけている。母親は聞いているのかいないのか、何も買わずに椅子に腰を下ろし、猫背で俯いたまま置物のように座ったまま。男の子は母親の隣の椅子に座り、延々と何かを話しかけていたそうです。

友人は唖然とその光景を眺めていましたが、例の親子は友人が一方的に認識して好感を抱いていただけなので「どうしたんですか?」と声をかける訳にもいきません。気になりつつも、ただ見ている事しか出来なかったそうです。

翌日から、母親と男の子は毎日フードコートに来るようになりました。何も買わず座っているだけの母親と、相変わらず延々何かを喋り続けている男の子。日を追う事に母親の様子がおかしくなる事は、見ているだけでも分かったそうです。オシャレママの面影は微塵もなく、言ってしまえば浮浪者のようになってしまった母親。

友人はラーメン屋の同僚たちに「あれどう思う?」と聞いてみたそうですが、「あー、そう言えばよくいるね」程度の返事しかなく、何だかヤキモキした気持ちを抱えたまま働いていました。

友人だけが異常を感じたまましばらくが過ぎ、ある週末の事です。

その日フードコートは非常に混み合っていて、友人の勤めるラーメン屋もてんてこ舞いでした。普段なら通知ベルを鳴らしてお客さんに食事を取りに来てもらうシステムですが、オーダーのミスがあり提供までに時間がかかってしまったので、友人はお客さんの席まで謝罪がてらメニューを運んだそうです。

店舗に戻る途中、あの母親と男の子が目に入りました。ボロボロの母親と、ぴったり体を寄せてひっきりなしに喋り続けている男の子。

その様子を見て、友人は唐突に怒りを感じたそうです。きっと親戚か近所の子供の世話を押し付けられて、息子と一緒の時間を奪われて、あのお母さんはおかしくなってしまったに違いない。全部あの男の子がいけないんだ、友人はそう考えました。

大人気ないし大きなお世話だと分かっている、でも一言言ってやらないと気が済まない。

謎の正義感に燃えた友人は2人の元へ近寄りました。しかし2人を目の前にした時、「止めておけばよかった」と心底後悔したと言います。

俯いたまま微動だにしない母親は、ボサボサの髪も邪魔して顔が見えません。テーブルの上に置いた手は薄汚れていて、爪の先が真っ黒だったそうです。

そして、絶え間なく喋り続けていると思っていた男の子は、何も喋っていませんでした。ただ何かを喋っているような仕草で、母親に向かって口をぱくぱく開閉しているだけだったのです。

友人は怯みました。このまま通り過ぎようか、とも考えましたが「ここまで来たならもう言ってしまえ」と覚悟を決め、友人は男の子に向かって、

「ねぇ、本当のお母さんのところへ帰ったら?」

と言ってしまいました。

すると男の子がぴたりと動きを止めました。本当にビデオの一時停止のように、ぴたっと止まったのだそうです。

2、3秒の間があり、突然母親ががばりと顔を上げました。力なく置いていただけの手をテーブルの上に叩きつけ、ぐりん、と下から覗き込むような仕草で友人の顔を見上げ凝視しながら、母親は

「あーーあ、バレちゃったかーー」

と言ったそうです。

その声は女性のものでなく、幼い男の子の声のようだった、と友人は言います。

その後2人の姿も、本当の息子の姿もフードコートで見る事はなかったそうですが、友人はラーメン屋を辞めてしまいました。「戻って来たら嫌だから…」だそうです。

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最近読んだ中でダントツで怖かったです…
なんだったのかよくわからないのがまた不気味ですね。

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