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中編3
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山の話三題

登山を趣味にしている澤田さんの話。

山道ではすれ違う際に挨拶をするのが通例だが、あるときすれ違った男に舌打ちをされた。

不躾な奴だと思いながらも違和感を覚え、もう一度彼の方へ振り返ると。

《真っ赤な赤ん坊》が大勢、背中や足にしがみついていたという。

目も鼻もなく口だけが大きく裂けた小さな体躯は、男の身体を器用に這い登りながら、二、三度こちらを見てにやりと口を歪めたそうだ。

そのあとのことは判らない。

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木崎さんの知人が登山に行った。

土産と一緒に、携帯電話で撮影された写真を三枚、興奮ぎみに見せられた。

物々しい注連縄。

今にも倒壊しそうな赤い屋根の社。

小さな滝と、透き通るような美しい池が写っていた。

知人いわく《誰も知らない道を踏破したい》と無謀にも登山道を逸れ、そのすぐ先に注連縄で囲われた空間を見つけた。

注連縄を乗り越え、興味本意で足を踏み入れた。

そこで、写真の社と水源を見つけたという。

名水が湧き出るとされる地はことごとく巡ってきた知人は、社があるからには人間も来ているだろう、物は試しと口にしたところこの世のものとは思えぬ旨さだったのだそうだ。

水筒に詰めてきた分を下山の段階で飲み干してしまったというから相当なものである。

《今すぐにでも山へ戻り、あの水を飲みたい》という知人に笑い、その場は終わった。

しかし数日後に再び連絡があり《普通の水が飲めなくなった》と困り果てた様子の知人。

水道の水はおろか、市販のペットボトルでさえ吐き戻しそうなほど悪辣な臭いと味がするという。

ジュースなどで堪え忍んでいたが風呂にはいるのも気色が悪いとこぼす知人に《医者へ相談したほうがいい》と助言した。

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その数日後、知人は例の山中で遺体となって発見された。

さほど標高もない平坦な林のなか、かつては池だったと思われる、ただの枯れ果てた窪みの中に倒れていたらしい。

家族に訊いてみたが、周囲には注連縄や社のようなものはなく、なぜあんな場所で亡くなったのかは判らないとのことだった。

写真は知人の携帯電話に保存されているのみで、現在も発見されていない。

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當間さんが山小屋のアルバイトをしたとき、オーナーに聞いたという話。

山小屋には毎年大勢の登山客が訪れるが、たまに近辺でオバケを見たと報告がある。

大抵は寝ぼけているか作り話のどちらかであり笑って聞くのだが、小屋から北へ百メートルほど進んだ方向の開けた場所で見た、という話の場合は真剣に耳を傾けざるを得ない。

それはどんなものだったか?と。

オーナー自身に目撃経験はないが、ごくたまに《妙な光景》を見る者がいるという。

それは十数人の白装束が円環になり、おごそかに踊っている光景で、全員が頭に被り物をしているそうだ。

ただの三角錐のような被り物の場合もあれば獅子舞の面のようだった、という話もありばらばらだが、いずれにせよその光景が目撃されてしまうとシーズン中に山で死者が出るのだという。

死者はそれの目撃者と限ったわけではなく、常連客の中には二度見たという者もいる。

一応心構えはするが、山岳の管理者に報告しても仕方がないとオーナーは言ったそうだ。

當間さんはアルバイト以降、あらゆる山に近付いていない。

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