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短編2
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水たまり

山内さんが雨を極度に嫌う理由は、彼が小学生のころにまでさかのぼる。

ひどい長雨が降り続く梅雨時、下校時のことだった。

あらかじめ天気予報を確認していた親に促され、傘に長靴、レインコートの完全防備だった山内さんは学区内の同級生のなかでも特に長い帰路を、さほどの苦もなく歩いていくことができた。

そのせいかいたずら心が生じ、わざと自分から大きな水たまりを見つけては足を踏み入れる、ということを繰り返して遊んだ。

我を忘れて泥まみれになっていると。

数メートル先にもまた、水たまりが待ち受けていた。

さほど大きい訳でもない。

本来山内さんの興味を引くものはなかったはずなのだが、ちょうどその水たまりの真ん中に浮かんでいたジュースの空き缶が、突然沈んでいくのが目に入った。

まるで飲み込まれるように消えたそれは、山内さんが見張り続けても二度と浮かび上がってはこなかった。

山内さんは水たまりに近付いた。

映り込む自分の顔が、こちらを見上げている。

長靴の足を片方踏み入れようとして、その寸前で思いとどまった。

しゃがみこみ、手で水面に触れてみると。

指を掴まれ、引き込まれた。

そのまま肩口のあたりまで水の中へ沈み、慌てて引き抜こうとした。

ーーがりっ。

二つ下の弟に兄弟げんかで腕を噛まれたときと、同じ感触があった。

反対の手に持っていた傘で水面を殴り付け、水しぶきが飛び散った。

やっとの思いで腕を引き抜き、山内さんは泣きながら逃げた。

背後では、手放してしまった傘の骨がばきばきと折られる音が聞こえた。

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腕には二ヶ所、小さな歯形がついていた。

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親には《傘を盗られた》とだけ伝えた。

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山内さんは今でも梅雨時、水たまりに進路をふさがれることが心なしか多い気がするという。

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