私が小学生の頃、母の実家、つまり祖父母の家にに毎年親戚が集っていた。
祖母の家は島国にあり田舎ではあるが景色も美しく子供たちはこの帰省を
毎年楽しみにしていた。
時期はお盆、正月、特にお盆は海が近いこともあり従兄弟たちは海水浴や
キャンプにバーベキューと、とても楽しみに帰省していた。
その日も海水浴から帰り、お風呂に入り夕食を済ませ従兄弟たちと庭で花火を
していると祖母が西瓜を持ってきてくれた。
家のダイニングでは大人たちが毎晩のように酒盛りをしており、カラオケの音や
ガヤガヤと賑わう音が響ていた。
父母や父母の兄弟たちの友人や近所の仲の良い人たちも毎日のように訪ねて来る事は
当たり前なので日々大宴会である。
ふと私はトイレに行きたくなり、薄暗い廊下を歩いていると伯父が中庭に面する
もう一つの縁側に立っているのが見えた。
誰かといるのかとも思ったが一人で中庭を向いて立っており、なんだか奇妙な感じがした。
何故に奇妙な感じがしたのか理由がわからないのだが、独り言をふつふつと呟くように
言っているように見えるのだが、何故かまるで相手があって喋っているような感じが
気持ち悪く伯父の背中かから這い出るような空気に嫌悪し背筋がゾッとしてしまい
慌ててい見ぬふりをして立ち去った。
あくる日、朝起きると大人達の様子がおかしい。
客間である広い部屋に皆が集まって何か話し合っており、父の実家に電話をして
車の用意をしろとか、誰々さんを呼んでなどと騒いでいる。
暫くすると父方の祖父と何人かの人がやってきて、この家の2階の仏間を使おうと
聞こえて来た。
父方の祖父の家は代々神主の血筋らしく詳しくは知らないのだが祖祖父は神主であるが
父は神主を継いではいない。継ぐ気もない。
だからなんとなく何が始まるのかは予測出来た。
予測通り
子供たちは外で遊んでいるように言われ追い出されてしまった。
しかし好奇心旺盛だった私と一人の従兄弟である同じ年の男の子は
隠れて覗くことにした。
大人達に見つからないように2階のその部屋が見える絶妙な位置を見つけて
隠れながらワクワクしていた。
separator
始めに3人くらいの男性たちが誰かを抱えるようにして部屋に入って来た。
それは昨日薄暗い廊下で見かけた伯父だ。
あぁやっぱり。
様子がおかしい。
正座をしたままの足の状態でひきづられるように連れて来られて仏壇の前に座らされる。
伯父の顔は目が泳いでいるがまだ表情は普通に見える。
すると父方の祖父と神職姿の男性たちが3人と私の父が部屋に入り、何か始まった。
子供心になんか不味い事だとはわかるが、それでも私と従兄弟の好奇心は萎えることなく
その様子を凝視していた。
5分くらいお経があげられて、すると伯父が正座した格好のまま
ピィヨーンと飛び上がった。飛び跳ねた、が正解だろうか。
真上に。
ポップアップトースターのパンの如く、跳ね跳ねるように、それも2回ほど。
伯父の顔を見ると口を半開きにして涎が出ていた。
え、正座したままの足でどうやって?
怪奇な事なのだろうけど、どうやってバウンドした?
どうやって、バウンドした?
大人はそんな事もできるもんなのかな。
などとくだらない疑問を浮かべていると今度は
伯父の肩あたりから何かが生えてきた。
薄黒いモヤモヤに見えたがやがてゆっくりと狐の形に見えてきた。
何が起こっているのか頭がついてこず、それでももう一度目を凝らしてみる。
どう見ても、伯父の肩に狐の顔が生えていた。
それは右肩に乗っかっているようで、はっきりと狐だと認識出来た。
狐⁉おきつねさん?
本当に現実なのだろうか?
私はこんな子供の頃から少し冷めた性分で伯母さん達が騒いでいるようなそんな気持ちには
到底なれなかった。
でもいざこのような怪異を目の前にすると怖いなどと考えるよりも先に
受け入れようとしない心が働いてしまう。
だが目の前に認めざるを得ない現実がヴィジョンとしてはっきりとあるのだ。
やがてお経の声やお払いの中、狐の頭は苦しむようにくねり始め奇声を発しているような
苦しそうな表情をしているのだが 実際に奇声を発しているのは伯父であった。
部屋の入口から親戚が何人か覗いていたが驚愕の表情や小さな悲鳴が聞こえ、
伯母さんに至っては気絶したようだった。
どのくらいだろう。時間の感覚が麻痺していたが相当長い時間それは行われ
気がつけばもう午後を回っていた。
ふと隣にいる従兄弟を見やると、固まっており私が肩を掴むとハッとしたように
私の顔をみたが体は震え、物凄い涙目になっていた。
そりゃそうでしょう、だって自分の父親ですから。
その後、お祓いは無事終わり伯父さんはお狐さんから解放された。
何処で何故憑いてきたのかは聞いていないが、その後の伯父人生はあまり良いものには
ならなかった。
それから30年の間、伯父は不運な人生だったと思う。まだ生きてるけど。
伯父の不幸話は割愛するが、個人的には伯父に対して
なぜ何処で憑かれたというような事よりも 伯父の自立出来ていない生き方による
柔さや弱さが起因しているのでは?
などと思っている。
それはこれまでの人生でたまたま色々な事を見てきたから、そう思うのかもしれない。
この出来事が私にとって人生で初めての「肉眼で見た」ケースだった。
この後の人生でも奇妙奇怪なことに遭遇する事もあるのだが
誰にでもあるのかもしれないし、無いのかもしれない。
またちゃんと思い出した時に文章にしてみたいと思う。
作者arrieciaアリーシャ