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長編14
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2時15分

高校生だった頃の話。

夏休みも終わりかけ、部活も引退した俺は暇を持て余していた。

数1Aの二次関数で早速躓き、化学のモル質量で「?」を飛ばしまくった俺は高1の時点で大学受験を放棄した。

大学進学を早々に諦めた俺は、高校最後の夏休みを存分に謳歌……

する予定だったが友人達は夏期講習で勉学に励み、ドロップアウトした俺とは時間の使い方が違っていた。

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その夜も勿論暇で未来少年コナンのビデオを見ていたのだが、珍しく携帯が鳴った。

出ると去年卒業した先輩からだ。

帰省したが暇なので遊びに行こうとのこと。

彼は部活の先輩で親がなかなかの金持ちだ。買って貰った車で迎えに来てくれるらしい。

先輩(ボンボン先輩とする)はオタクっ気のある人で、部活の休憩中に当時流行っていたエヴァンゲリオンの考察本を開き、常にモーニング娘を聞いていた。

部活外での交流もなく正直かなり迷ったが、いかんせん暇であり、ボンボン先輩も帰って来たはいいが遊んでくれる友達もいないのだろう。

少し可哀想になったので遊んであげることにした。

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聞くともう一人連れて来るらしい。

一体誰だろう?まさか女子か?

俺の期待はすぐに砕かれた。やって来るのは俺と同学年のよく知る男だった。

そいつはネロという名前だが、別に暴君でもなければ、パトラッシュを飼っているわけでもない。

部活の自己紹介の際に「nero 」と書かれた巫山戯たキャップを被っていた事と、類まれな肌の黒さから一瞬で決まったあだ名である。

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何が悲しくてボンボンとネロの三人で遊びに行かなくてはいけないのか。やはり断ろうかと悩んだが、

卒業後にネロと会うことも二度とあるまい。これも貴重な思い出になるかもしれないと思い留まった。

何処に遊びに行くのか念の為聞いてみたのだが、「着いてからのお楽しみ」と勿体つけたボンボン先輩の言い方に俺はなんだか非常に苛ついた。

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やがて着いたのだろう、外から車の音が聞こえたので家を出る。

階段を降りているとボンボンが生意気にもクラクションを鳴らしたので、俺は車内で食べようと持ってきたモチ入り最中を車に投げつけた。

ボンボン先輩の車は可愛らしいコンパクトカーだった。車種は知らない。

挨拶を交わし助手席に乗り込む。

運転席のボンボン先輩に俺は度肝を抜かれた。

肩まで伸びた髪はサラサラのストレートヘアでボンテージルックを身に纏う彼の姿は本当に気持ち悪かった。

大学デビューを盛大に失敗している。

ネロはこれから拾いに行くのか、と思っていると後部座席から甲高い声が聞こえる。

後ろを振り向くと暗がりからネロが姿を現した。

黒いTシャツとブカブカの中途半端な丈のパンツ姿のネロは、地色の黒さも相まってさながら闇から産まれ出た妖怪のようだ。

そして脛から覗くソックスは何故か真っ白だった。

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俺の絶望と共に車は走り出す。

「何処に行くんですか?」

俺は聞いてみた。

ボンボン先輩は聞いたことのある心霊スポットを口にした。

出来れば人目につきたくなかった俺は少しほっとしたが、やはり来るんじゃなかったと後悔する。

よっぽど次の信号で降りようと思ったが、怖くて逃げ出したと思われるのも癪なので素直に従うことにした。

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道すがら先輩は行き先の心霊スポットの話をしてくれた。

そのスポットは通称「研究所」と呼ばれる場所で、山の上にある俺たちの高校より更に山奥にある。

勿論研究所なんかではなく、元は病院だかホテルだかの廃墟らしい。

うちの高校でも割とよく聞くスポットだが、いかんせん車がないと行けないので、実際に行ったことある奴は少なかった。

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先輩の語るところによると、

2時15分になるとキ○ガイの女の幽霊が出るらしい。

キチ○イの女の幽霊。

未だかつてこれほどのパワーワードを俺は耳にした事がない。

「キ○ガイの女」だけでも怖いのに更に「幽霊」であるという。

盛り過ぎの設定に俺は呆れたが、実際出て来たらこれほど怖いものはないだろう。

俺は密かに心躍らせた。

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俺たちを乗せた車は高校を過ぎ、次第に深い山路に入っていった。

次第に口数も少なくなる。そもそも最初から少ない。

鼻炎持ちのネロの口呼吸の音が車内に響く。

先輩も細い道路の運転に集中しているようだ。長い髪を掻き上げる。

切れよ、それ。

脇道に逸れて暫く進むと、ヘッドライトの先にゲートが姿を現した。

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ここからは歩いて向かうらしい。

「私有地につき、ここから先の立ち入りを禁ず」

看板の脇から抜けられる。

懐中電灯はちゃんと3つ用意してあった。

さすがは大学生だ、と俺はボンボンを褒める。

ボンボン、ネロ、俺の順で進んで行く。

辺りは真っ暗だ。虫の声が凄い。

「外人には虫の声って聞こえないそうですよ。」

俺は聞いたことのある薀蓄を披露しようとしたが、

「そんなわけないだろ。」

と間髪入れずネロが反論したので、面倒臭くなって喋るのを止めた。

懐中電灯に照らされるネロの靴下だけが白い。

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「まだですか?」

「もうすぐだと思う。」

その言葉の後、すぐに研究所が見えてきた。

鬱蒼とした山の中、暗闇に浮かぶその廃墟はなかなかの迫力がある。

廃墟の周囲には鉄条網が張り巡らされ、

「建物内への無断侵入を禁ず。又、建物内外での怪我やその他の事故については所有者に一切の責任はないものとする。」

と大きな看板があった。

侵入を禁止する一般的な文言とは思うが、「その他の事故」というところに無駄に反応してしまう。

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先程のゲート同様、鉄条網に通れる程度の穴が空いている。引っ掛けないよう慎重にくぐった。

目の前の建物を観察する。二階建てで外観は病院にもホテルにも見える。見える範囲の窓ガラスは全て割られていた。

意外と来訪者は多いのだろう。落書きもあちこちに見られる。

取り敢えず、今日の来客は俺たちだけのようだ。

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懐中電灯を頼りに入口を探す。

までもなく、正面に開け放たれた玄関がある。

元々は大きなガラスと自動ドアだったのだろうか。

暗闇が口を開けていた。

ボンボン先輩はずんずん進み、幾分ゆっくりとネロが続く、俺も落ちたガラスに気をつけながら中に入っていった。

立派な受付が見える、やはりホテルだったのだろうか。

いや、ホテルにしては階数が低い。外観を見た限りでは窓も少ない。

病院……ではなく、療養施設か……精神病棟?

先輩の言っていたキ○ガイの幽霊の信憑性が増した気がして、ゾクリとする。

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1階を見て回る。いくつかの部屋があるが中には特に何もない。

ひとつの部屋にだけひっくり返ったベッドがあった。

簡素なベッド、やはりホテルではない。

突き当りの大きなドアを開けると、湿気と据えた臭いが俺たちを包んだ。

浴室だ…タイルも剥がれ、かなり傷んではいるが間違いない。

10人は入れそうな大きな浴槽が闇に浮かぶ。

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「病院でもなさそうだな。」

先輩の言葉に俺は頷く。ネロも同意しているようだが黒くて見えない。

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続いて2階の探索に移る。

1階と大差ない、何もない部屋と廊下にベンチがあるだけだ。

途中、ネロが焼け焦げた新聞を拾った。

日付を見ると一昨年だ、他の来訪者のゴミだろう。

特に何事もなく、1階へ降りる。

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1階で見てない所はないだろうか。

俺はひとつ開けていないドアがあることに気付いていた。

が、階数の脇にあった小さなそのドアは開けてはいけないような気がして黙っていたのだ。

ボンボン先輩が「そういえば」といってそのドアの所に向かう。

なんだろう。開けちゃいけないような気がする。

先輩がドアに手を掛ける。

ダメだ、開けちゃダメだ。

中にはあの女が…

先輩がドアを開けた。

が、予想に反して中には小さな箒が一本落ちていただけだった。

先輩はひょいと箒を拾い上げると、とんでもない事を言った。

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「2時まで暇だな。なにしよっか。」

耳を疑った。え?2時まで居るの?

現在11時である。

ネロも自然な様子で何処からか椅子を持ってきて座った。

こいつら正気だろうか?

もしかしたら取り憑かれてるのでは?

俺を生贄に何か良からぬものを召喚するつもりだろうか?

様々な考えてが頭をよぎるが、妖怪二人は意に介さずいたって自然に雑談を始める。

やはり来るんじゃなかった。

帰りたい。が帰れない。段々腹が立ってきた。

俺は二人の会話に強引に割り込み、「将来はドラえもんのようなAIを作りたい」と抜かすボンボンに、なにがドラえもんだ。もっと人類に貢献するようなAIを作れ。そんな阿呆なことばかり言っているから友達もいないのだ。大体なんだその格好は。と散々にこき下ろした。

するとボンボン先輩は本当に哀しそうな顔をした。隣のネロも何故か同じ顔をする。

その顔を見て俺は、核心をついて二人を傷つけてしまった事を少しだけ反省した。

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哀しみを乗り越え、顔を上げたボンボン先輩が俺を見る。

と、突然

「ひっ…」

と声にならない悲鳴を上げ、目を伏せた。

ゾッとして後ろを振り返る。が、何もいない。

なんだ?仕返しのつもりか?とネロの顔を見る。

その瞬間、俺は全身に鳥肌が立つのを感じた。

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ネロの目がおかしい。

焦点が合わないまま、目だけがあらぬ方向を向いていた。

「うわっ!」

俺は慌てて目を逸らす。

と、ネロも俺と同じ反応をして顔を伏せた。

おかしい。どうしてネロも。

「お前ら、目が。」

ボンボン先輩が言って、もう一度顔を上げる。

一緒だった。

ボンボン先輩もネロと同じ目をしていた。

なんだこれ。どうなってる?

二人ともおかしくなったか?

いや、二人の反応は俺の目もおかしいと言っている。

俺の目もあの二人と同じ目をしているのだ。

全員おかしい。

言いようのない恐怖に襲われ、俺はその場から逃げ出そうとした。

「止まれ!走るな!」

突然ボンボン先輩が叫び、俺たちは固まる。

「落ち着け。走ると危ない。もう一回確認。」

恐怖のせいか、多少カタコトの先輩の言葉に俺たちは落ち着きを取り戻す。

もう一度、一人ひとりの顔をライトで照らす。

やはり、全員目がおかしい。

焦点が合わずあらぬ方を向いた目はとてもじゃないが、正視できない。

再びパニックに陥りそうになるが、堪える。

とにかく全員正気なのは間違いない。おかしいのは目だけだ。

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俺たちはなるべくお互いの顔を見ないように、廃墟を抜け出した。

鉄条網を潜り、山路を歩く。

来た時と同じように一列で、ネロが先頭を歩く。

その次に俺。最後尾はボンボン先輩だ。

なんて頼もしいんだろう。何も言わず先頭を歩くネロに、俺は心から感謝した。

伏せた目線の先には、ネロの真っ白な靴下が踊る。

そうか、このための白だったのか。

まるで赤鼻のトナカイのような、ネロの先見の明に俺は感服する。

ボンボン先輩は最後尾だ。

一番怖いだろうにその役割を買って出てくれた先輩にも俺は深く感謝した。

思えば来るときも先頭を歩いてくれた。

さっきも先輩の指示がなければどうなっていたことか。

俺は二人の妖怪に挟まれる事で冷静さを保てていた。本当に心強かった。

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今、再び俺たちはチームになったんだ。

部活を離れても俺たちはチームだ。

one for me,all for me.

一人は俺のために、みんなは俺のために。

俺はひとり感動に心を震わせ、足を進めた。

やがてボンボン先輩の車が見え、中に乗り込む。

ボンボン先輩は慎重に発進する。顔を見ないよう、ルームミラーの角度はすぐに変えられた。

ようやく市内に入り街並みの明かりに照らさられると、俺たちはほっと胸を撫で下ろした。

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気持ちが落ち着いてくると、俺は段々腹が立ってきた。

大体こんな目に合ったのも元はと言えば、ボンボンが言い出したことだ。

喉元過ぎればなんとやら。

俺の心の中のチームは、あっと言う間に瓦解した。

呑気に「次は何処に行こうか」「カラオケにしようか」などと言い合う二人に、俺は「帰って寝たい」と伝え家まで送ってもらった。

そもそも俺は高校生に有るまじき早寝早起きだ。

普段は11時にはベッドに入り、6時には起きる。

正直かなり眠い。

「色々合ったが、楽しかった。」

と心にも無いことを二人に告げ、ドアを開ける。

ふと何かが足に引っ掛かる。

見ると、あの廃墟にあった箒が座席の下に落ちていた。

持って来たのか?

いや、誰も持っていなかったはずだ。

何故?

心底ゾッとして、よほど教えようかと思ったが面倒なので黙っておくことにした。

車に乗った二人を見送り、俺には何も起きませんように。と手を合わせ俺は帰宅した。

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散々な目に合った。

疲れ切った俺は、歯磨きもせずにベッドに入った。

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~~~~~~~~~~~~~~~~~

物音が聞こえた気がして、俺は目を覚ました。

何時だろうか。

枕元の時計を見ようとして、寝返りを打った俺は固まった。

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部屋の中に女がいた。

薄緑の服を着た女が、俺の部屋で何かを探している。

ガサガサと本棚を漁り、ハンガーラックの服を掻き分ける。

女の顔を見て、俺の背筋は凍りついた。

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目があらぬ方向を向いていた。

キチ○イ女だ……

先輩の言っていた幽霊が目の前にいる。

なんでここに?

俺は混乱した頭で固まっていた。

女は確実に何かを探していた。

何を?

あの箒だ。

目の前で狂ったように箒を探す女に、俺は震えながら心の中で祈った。

ここにはありません……ここにはありません……

俺の祈りが通じたのか、スッと女は消えた。

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目が覚める。

夢だったのか。

俺はさっきと同じように寝返りを打ち、枕元の時計を見た。

2時15分だった。

本当だったんだ………

あの女は箒を探していた。きっとそうに違いない。

だとしたら、先輩のところに。

俺は携帯を手に取ったが、結局電話はかけないことにした。

箒は先輩の車にある。

女が先輩の所に行く。

箒が見つかる。

女は帰る。

問題ないじゃないか。

先輩も多少怖い思いはするかもしれないが、自業自得だ。あんな所に行くなんて言い出したのが悪い。

あそこのドアを開けたのも先輩だ。

全部、ボンボン先輩が悪い。

ネロの事も頭をよぎるが、電話はかけなかった。

そもそも番号をしらない。

俺は寝る事にした。

怖いから電気はつけたままにしよう。

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幸い朝まで何も起きなかった。

先輩からの着信もなかった。

随分遅くまで寝てしまった。やっぱり夜更かしは良くない。

昨日の出来事を友人に話そうかとも思ったが、なんだか馬鹿らしいのでやめた。

結局、その日も俺は暇を持て余し未来少年コナンの続きを観た。

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その夜だった。

物音に目を覚ます。

あの女がいた。

昨日と同じように、部屋の中を漁っている。

なんでだよ……

狂ったように箒を探す女。

俺は恐怖と絶望の中、また祈った。

ここにはありません……ボンボン先輩の所です……

お願いします……来ないでください……

また女はスッと消えた。

時計を見る。2時15分だ。

もういやだ。

携帯を取り、今度は掛ける。

長い呼び出し音の後、先輩が出た。

が、もの凄いムニャムニャ声だった。

寝てやがった。どうやら先輩の所には女は行っていないらしい。

昨日の夜も何事もなく、今日は家族で温泉に行っていたとのこと。

俺は本気で殺意を覚えた。

また遊びに行こうと言われたが、俺は丁重にきっぱりと断った。

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なんでだよ……

俺は頭を抱えたまま、結局は眠りについた。

勿論電気は点けっぱなしにしておく。

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目が覚める。

いつもなら、どう一日を過ごそうかと考える高校最後の夏休みだ。

が、全然楽しくない。夜になるのが怖い。

なんなんだ。

リングみたいにこの話を誰かにすればいいのか。

そもそも箒が原因なのか。

大体勝手に車の中に入れておいて、探しに来るのはなんでだ。

アホなのか。

ああ、だからキ○ガイなのか。

とモヤモヤしながら考えるが、解決策なんて出て来ない。

お祓いしようにも、何処に相談に行っていいのかも解らない。近所のお寺でいいのか、神社にするべきか。

心の晴れない悩みを抱えたまま、また夜になった。

いっそ寝なければいいのでは?

2時15分を過ぎてから寝れば何も起きないかもしれないと思い、頑張ってみるが無理だ。

早寝早起きの習慣が仇となる。起きてられない。

この日もいつの間にか寝てしまった。

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また夜中に目が覚める。

女は?

いる。

同じように焦点の合わない目で部屋を漁っている。

慣れるなんて事はない。最初の夜と同じ位怖い。

もう勘弁してくれ……

俺は泣きそうになりながら布団を被った。

どうしたらいい?

どうしたら来なくなる?

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その時、ふと思い出した。

もしかしたら、と握ったまま寝てしまったらしい携帯を布団の中で開く。

やっぱりだ。間違いない。

フッと気持ちが軽くなった。

ゆっくりと布団から顔を出して、枕元の時計を見る。

針は2時15分を指している。

だが、本当は違う。

今は2時20分だ。

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俺の目覚まし時計は5分程遅れているのだ。

普段目覚ましなど使わない俺は、5分の遅れも気にせずにそのままにしていた。

あの女は5分遅れているとは知らずに現れた。

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それに気付くと、目の前の幽霊がなんだか可笑しく思えてきた。

想像してしまったのだ。

俺の部屋の時計を確認して、「はい、2時15分!」と意気揚々と現れる幽霊を。

そしてどうだ?怖いか?と言わんばかりに部屋を漁る。

だが、その時計は5分遅れている。

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「5分遅えよ……」

口に出して、少し笑ってしまった。

その瞬間、部屋の空気が変わった。

夢から覚めたように、言ってしまえば白けた空気になったのが解った。

当然、女は消えていた。

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もうあの女が出ることはないだろう。

何故か俺は確信に満ちた思いで眠り、朝を迎えた。

案の定、その夜から幽霊が出ることはなくなった。

疑問は残る。

何故俺の所だけに来たのか。

探していたのは本当に箒だったのか。

本当にもう現れることはないのだろうか。

今でも理由は解らないが、

あの二人の所に行かずに俺の所にだけ来る。

という幽霊の気持ちも解らないではない。

一人はサラサラヘアのオカマ地味たオタクだし、もう一人はかりん糖の権化である。

俺が幽霊でもそうする。

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なにはともあれ、こうして俺の高校生活最後の夏休みは阿呆みたいな思い出を残し終わった。

ボンボン先輩はいつの間にか大学へ戻り、ネロとは校内で見掛けるだけの関係に戻った。

ネロの靴下がくるぶしソックスに変わっていたのが、少しだけ寂しかった。

勿論、卒業後この二人に会うことはなかった。

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~~~~~~~~~~~~

先日、偶然ボンボン先輩とは別の先輩とばったり遭遇した。

その先輩は市内で小さな飲食店をやっており、何年かに一度当時の部活仲間で集まっているらしい。

ボンボン先輩とネロの名前もあった。

聞くとボンボン先輩は県内では有名な機械メーカーに勤めているとの事。

もしかしたらドラえもんの部品でも作っているのかもしれない。

ネロは驚いたことに、小学校の先生をしているらしい。

生徒からの人気は皆無に違いないが、本来は誠実な男である。しっかり先生をやっている事だろう。

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今年のG.Wにも集まる予定でいるとの事だったので、俺も参加の約束をして別れた。

皆との再会を楽しみにしている……

と言いたい所だが、正直ちょっと面倒臭い。

まあ、ギリギリまで考えておこうと思う。

Concrete
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@天津堂 様
コメントありがとうございます。
ネロは部活の時もいつだって白い靴下でした。
短パンを履いていたって膝まで届く長い靴下でした。

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@りこ-2 様
ご感想ありがとうございます。
本当はもう少し怖く書きたいのですが、どうしてもこんな感じになってしまいます。
ボンボンもネロもこのまんまです。
見れば納得の気味の悪い生き物でしたよ。

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@むぅ 様
ご感想ありがとうございます。
本当にこんな感じの二人でした。
今となってはいい思い出です。

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