「おい。お前見えてんだろ?お前だよお前。おれのこと見えてんだろ」
「またか」と思いセイヤは岩塩を自分の肩にかけた。声は消えた。
セイヤには霊の存在が見えた。しかし小さい頃からのことだったので驚きはしなかった。自分が怖がったり驚いたりすると霊は調子に乗って嫌がらせを始めることをセイヤは身に染みて分かっていた。
だから今回もセイヤはさっさと塩をかけたのだ。この塩の掛け方にもコツがいる。「塩をかけた」というところをまた別の霊に見られてしまうと「あいつはおれたちの存在に気づいている」と知られてしまう。他の霊がいないところにさりげなく移動したり他の霊から見えないようにしなければならないのだ。
「ねぇ私のこと覚えてる?」セイヤが一応視界に入れて確認すると女の姿があった。どこかで見た顔だ。セイヤは散歩に出かけた、お寺の敷地に入り風景を見るフリをして他の霊が来てないかを確かめた。
霊というものはお寺を嫌う性質があるとセイヤは和尚さんから聞いていた。だいたいの霊はお寺の鳥居をくぐったあたりで消えてくれるのだが、今回の女の霊はそう簡単にいかなかった。
昔からお世話になっているお寺だったため、セイヤは寺の前で一礼して中に入った。お札やら紐やらで結界が作られた部屋があるのだ。強い霊に憑かれたときは霊が消えるまでこの部屋にいれば大丈夫なのだ。
しかし、一向に消えてくれない。消える気配すらない。セイヤはイライラして「早く消えろよ!」とその女の霊に向かって怒鳴った。
「私生きてるんだけど」女はセイヤの背中に出刃包丁を当てながら囁いた。
作者やみぼー