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中編3
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◆水彩画の魚◆

「どうですかねぇ、椥辻さん?私には霊だの妖怪だの見えないものですから…。ただこの水臭くて、魚みたいに生臭いのは明らかにそれらのせいだと思うのですが」

アパートの一室。なんら特別でもないその普通の部屋は、異常に見舞われていた。近くに池や沼があるわけでもないのに水臭く、魚を飼ってるわけでもないのに生臭い。私は困り果て友人に相談すると、「ここへ電話するといい」と番号を書いた一枚の紙を渡されたのだ。そうして、ここへやって来たのが椥辻生雲(なぎつじいくも)。彼は前髪で片目を隠し、その髪も、身に纏う服も、肩に掛けている刀袋も全て黒で装った中々に顔立ちの良い青年で、百槻㟴(どうづきかい)と言う十歳くらいの少年を連れて、私の部屋で起きている現象を解決しに来てくれたわけだが。

「悪いものじゃないよ。まぁ、これじゃぁ、外に居るみたいで寛げないだろうね」

彼は天井を見つめながら私にそう言った。

「ん?天井にいるんですか?」

一緒に天井を見るがそこには天井があるだけで何も見えない。まぁ、私には一切霊感がないわけだから見えるわけがない。

「天井にね、小さい池があるんだ」

「池?」

「そう、池。そこに二匹の魚が住みついてる。結構綺麗な魚だよ」

呑気にそう言うが、見えない私からすれば全く意味のわからないことだ。天井に池があって魚が住んでるなんて…。

「じゃぁ、どうするんです?本当にそうなら…追い出せるんですよね?」

「追い出すのは可哀想だよ」

「可哀想って、椥辻さん。ここは私の家なんですよ?川にいるならまだしも、追い出す以外ないでしょう」

私が苦悶の表情で彼に訴えると

「大丈夫。しかし、この子たちの気持ちも考えないと…。追い出すんじゃなく、新しい家に引越しさせよう」

「引越し…?」

「そう、引越し。㟴、紙は?」

「はい!ちゃんと持ってます!」

子供が鞄から取り出したのは随分と年季の入った掛け軸。それを床に広げると椥辻生雲は刀袋からこれまた随分と年季の入った日本刀を取り出し、鞘から刀を抜いた。

「えっ?ちょっと…それ本物ですか?そんなものどうするんですか?」

後退りしながら質問すると彼は冷静に

「穴をあけるんだ」

と一言答えると天井にドスッと刀を突き刺した。

「㟴、真下に持ってきて」

椥辻生雲が指示すると子供が掛け軸を移動させ、椥辻生雲は天井から刀を抜いた。すると、裂け目から水が流れ出しそれが掛け軸の中へ注がれていった。

「み、水が…!?」

「これは見えるんだね。もう暫くしたら魚も落ちてくるよ」

すると言った通り、二匹の魚が天井の穴から掛け軸へ落ちていった。それは、綺麗な青と緑の水彩で描かれたような美しい魚だった。

やがて、天井から水が全て抜け切ると、白紙だった掛け軸の紙には二匹の魚が描かれ、それが元気に泳いでいた。椥辻生雲はその掛け軸を持ち上げると

「この水彩魚はね、元々はこうして紙の中に住んでるんだけど、たまぁに壁や床、天井に池を見つけて其処に住みついてしまうんだ。そうやってどんどん遠くへ移動して…、君らは元々何処に居たんだろうね?」

こうして随分と不思議な体験をしてしまったわけだ。それから椥辻生雲は代金を受け取らず「代わりにこの子達をくれるかい?」と掛け軸の魚を持っていってしまった。奇怪なものだ。もしここから引越す事があるなら家探しは気をつけてやらないと…。見えない池がある家なんてもう勘弁だ。

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@天津堂
コメントありがとうございます!
きれいなお話と言ってもらえて嬉しいです。
寝耳に蚯蚓というお話も生雲くんが登場するのでよろしければご覧ください。

名前は僕のですかね?
普段の名前が串山show子(くしやましょうこ)で
串→一日一日一・山→ヨ・show→翔→羊羽・子
漢字を崩してこんな風になっちゃったんですけど、
なんか読み難くて面倒でごめんなさい(汗

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@飼い主
コメントありがとうございます!
次のお話も頑張って書いております。
また読んで頂けたら嬉しいです。

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物語が発展しがいがありますね‼️( ´∀`)

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