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ハナシ 一【Qの話】
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Qは学生時代に個人居酒屋でアルバイトをしていた時に体験したあるハナシをしてくれた。
「チェーン店の居酒屋で働いた事ないからわかんねーんだけど、その時バイトしてた居酒屋はルールが緩くて楽だった。遅刻しても怒られなかったし、シフトの縛りもなくてさ。でも、女将さんの事を絶対にババアって言っちゃいけないっていう約束はあったよ」
Qはバイト仲間からも常連客からも好かれていたという。時間帯により客層が異なるそうで、18時~22時頃は主にサラリーマンや鳶職、タクシー運転手、23時~24時は夜職の人、他の店で既に飲みできあがっている人、その他なのだと。
「その他って気になるだろ?その他っていうのはちょっとヤバイ客って意味。その客が来た時はみんな裏で”その他”が来たって女将さんにこっそり言うんだ。で、今から話すのはその”その他”の話」
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”その他”と呼ばれている人物は、Qがそこでアルバイトを始めた頃からやって来た客だった。
高級マンションを持ているという自称サラリーマン、見た目は40代半ばの男で若作りをしているような服装だったという。
「本人は30代って言ってたけど嘘だな、あんな老けてる30代いるかよ。金を沢山持ってて毎日仕事帰りに別の女の子とデートしてるとも言ってた。平日に何回も駅前のパチ屋から出てくるところ見たから、サラリーマンっていうのも嘘だな」
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その他は来店すると必ずQに話しかけてくるのだという。それは決まって店内のお客が少ない時で、他の従業員が近くにいても呼びかけなかった。
「僕の話相手になって欲しいって言うんだよ。初めはこの人寂しいのかな?って少しだけ話をしてた。勿論その客の隣の席に座ってとかじゃなくて側で立って話したよ。初めはよかったんだけど、ちょっとした頃からストーカーっぽくなってきたとうか執拗に話かけてくるようになって」
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”その他”はQの連絡先を他のアルバイトから聞き出そうとしたり、閉店まで店の前で待ち伏せするようになったのだという。
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「結局”その他”は出禁になった。面倒な客が居なくなってよかったー!ってみんなで喜んだよ」
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それから半年程経った頃、Qが女将さんから早めに出勤し店の掃除をするよう頼まれた日があった。
その日はQ一人で店の掃除をしていた。一通り終わり休憩していたその時、一人の客が入ってきたのだという。
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「”その他”が紙袋持って立ってた。しかも、少し話をさせて欲しいって言うんだよ」
今までの事を詫びたいと言い菓子折りを渡されたのだと言う。中には高級感溢れる包装がされている箱と一緒に有名チョコレート菓子の小さな箱が入っていた。
「チョコレート大好きだから嬉しくて、気が緩んで少し話しちゃったんだよな」
Qに紙袋を渡し終えると話し始めたのだという。自身の自慢話からはじまり途中から妙な話になったのだという。
「怖い話してあげるって急に言いだして、その時あいつ真顔で不気味だった」
”その他”の話によると、知り合いの女友達が彼氏の家に遊びに出かけてから行方不明なのだという。
「僕の女友達は今も行方不明でさ~、電話しても通じないんだよね。その子の職場や兄弟に電話しても分からないって言うんだ。その子はもう死んでいるって噂もあるんだ、首を絞められて殺されたって。絞められた時に相手の首を引っ掻いて抵抗したらしいんだけど絶命したんだって。その子ショートカットでさ~、目がくりくりっとしていて可愛いかったんだよ。君を見ているとその子を思い出すんだよ~」
「あ...そうですか」
Qは”その他”からただならぬ何かを感じとったのだという。
「寒気がして鳥肌が立ってその場から動けなくなった。こいつはヤバイって頭の中で声がこだましてる感じ。そしたらその時不思議な事が起きたんだよ」
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shake
「おいっ!」
Qの耳元で低い男の声がしたのだという。
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「うわああ!って反射的に大声が出ちゃって、そしたら”その他”が血相変えて逃げて行った。声がなんだったのかわかんねーのは怖いけど、あの時あの声がなかったらヤバイ事になってたかも」
あわててQは女将さんに連絡し、暫くして女将さんやアルバイト仲間がやってきた。
”その他”から受け取った物は紙袋ごと捨てたのだという。みんなに謎の声の話をしたが、誰一人信じてもらえなかったのだという。
この件があってQは居酒屋のバイトを辞めた。
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「あいつが話した女友達の話、犯人はあいつ自身なんじゃないかって思ってんだ。首に引っ掻き痕があったし、猫にやられたかもしれないけどさ。それ見つけた時に耳元でおいっ!って聞こえた。きっとあれは、あたしへの警告だな」
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最近Qの自宅ポストに謎の手紙が入れられるようになり、引っ越したのだと言う。
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手紙には ”その他” と書かれていた。
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ハナシ 二 【4月1日】
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「とても短い話なんだけれど、いいかな?」
Aさんは飲み会の帰り道に普段は使わない公園を通って帰ったのだという。
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公園を通れば帰り道をショートカットできると考えていた。薄暗い公園の端に男が数人立っていた。
「素面だったら警戒したかもしれないんだけれど、その時は相当酔っていたから気にせず歩いていたんだ」
なるべく男達から距離をとりながら歩いていた。
「お兄さーん!ボール取ってー!」
声の方を向くとボールが飛んでくるのが見えたのだという。Aさんはボールを取る姿勢が取れずふらつき、ボールを避けるかたちになってしまった。
ボールはAさんの足元に落ちた。
shake
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「ボールだと思っていたそれは、ボールではなかったんだ。生肉とドロドロした塊みたいなもので気持ち悪かった、血みたいなのもついていたし」
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Aさんは男達の方を見ないようにして走って帰ったのだという。
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「あれはきっと人間の眼球だと思う、目玉をくり抜いたばかりの新鮮なもの。それを落とした時に舌打ちが聞こえたんだよね」
Aさんはその日以来公園を通らないようにしているのだという。
作者群青
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