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【夏風ノイズ】まだ先の夏について(番外編)

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【夏風ノイズ】まだ先の夏について(番外編)

 春休みが終わった。

新世界になってから、この町の雰囲気も少しは明るくなった気がする。

こんな状況になるまでは…。

こればかりは、仕方の無いことなんだが。

 俺達の高校も、まだ新学期が始まっていない。もちろん、ひなと露達の中学もである。

なんでも、世界中でコロナとかいう邪悪な霊気が猛威を振るい、厄介な伝染病を広げているらしい。

日本でも外出自粛要請や、一部の都道府県では緊急事態宣言が出され、人々は混乱している。

 いくら俺でも、これほどの力を持った邪気に一人で勝つことは出来ない。家族にも移さないよう、外出はしないようにしている。

 ゼロの調査事務所は、テレワークでコロナ対策案を練っているとのことだ。

なぜか俺も協力させられているのだが…まあ、世界を守るためだ。せざるを得ないだろう。

 不意に画面が明るくなったスマホを見ると、ゼロからメッセージが着ていた。

「お疲れ様です。電話できますか?」

 俺はゼロのメッセージ画面を開き、電話をかけた。電話は、一度目のコール音が鳴りやむ前に繋がった。

「もしもし、お疲れ」

「しぐるさん!お疲れ様です。突然すみません、そちらは大丈夫ですか?」

 電話越しからは、ゼロの元気な声が聞こえてきた。コロナで忙しいとはいえ、この世界になってからは抱え込むものも少なくなったのか、ゼロの性格も年相応に明るくなった気がする。

「大丈夫だよ。家族全員無事に生活してる。外出も最小限にしてるし、父さんは仕事に行かないとだけど」

「そうですか、とりあえずよかったです。それで対コロナの件ですが、明後日は婆捨穴周辺の地区を浄化することになりました。感染者が出る前ではありますが、既に市松さんのイズナが邪気の反応を感知してます」

 市松さん…旧世界での記憶が残っている、数少ない人の一人だ。

またいつか、去年の夏のようにドライブしながらくだらない話をしたり、色んな相談をしたりすることが出来るのだろうか。それにしても、イズナ達はそんなこともできるのか。

「わかった、俺も手伝うよ」

「ありがとうございます!来られる際は、マスクをお忘れなく」

「アレルギー性鼻炎の俺がマスクを忘れるわけないだろ」

「そうでした。では、また明後日、事務所集合でお願いします!」

「了解。なあ、ゼロ」

「なんでしょうか?」

「まだ先の話だけどさ、夏になってコロナが終息してたら、またどこか遊びに行こう」

「しぐるさん、受験生じゃないですか。もちろんです。楽しみですね、夏」

「ああ…それじゃあ、また」

「はい、また明後日」

 ゼロとの通話を終えると、俺は窓の向こうに広がる青空を見た。桜の花弁が舞い散っている。

次に散るのはお前らのほうだ、コロナ。

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