カエルの鳴く田んぼが続く道を歩きながら聞いた親戚の元カノの話でございます。
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私は東京の中小企業に就職し、都内のマンションで一人暮らしをしていました。ずっと実家暮らしだったので一人暮らしをするのを不安に思っていました。東京のイメージといえば、皆忙しそうでお互いのことを干渉し合わない冷たい人達が多いというものでした。一人暮らしするマンションの住人も管理人さんもきっと冷たいのだろうと思っていました。
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マンションに引っ越ししてきた際に自分の部屋の両隣の人に挨拶しに行きました。
まず右隣の部屋へ行き "ピンポーン" インターフォンを鳴らしました。暫く待っても応答が無かったので左隣の部屋へ行き同じくインターフォンを鳴らしました。
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「...どちら様です?...」女性の声がしました。「あの..今日から隣に引っ越してきた佐藤と申します!ご挨拶に参りまして...」すると中から少し疲れた顔をしたラフな格好な中年の女性が現れました。「ああ...そう。私は隣の木村です。...お姉さん管理人さんには挨拶したのかい?」
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「いえ、まだです。あと、私の部屋の右隣の方も挨拶できてないんです。今日は休日ですし午前中なのでいらっしゃると思ったのですが。」「..あんた若くて綺麗だから管理人さん気に入っちゃうわね...」「え?...どういう意味ですか?」「あんたの右隣の部屋は若い兄ちゃんが住んでるよ。何の仕事してるのか分からないけど、帰ってくるのは夜中だから...日が明るいうちは家に居ないよ。」と言うと木村さんはドアを閉めてしまった。
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「あ!..失礼しました。....はぁ。」私は自分の部屋に戻ろうと木村さんのドアから離れました。すると、
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「こんにちわ!新しくここへ越してきた佐藤さんだね?」びっくりしてその声の方へ顔を向けると、中年の男性が立っていました。その男性は管理人らしく胸元に管理人と書かれた名札のような物を付けていました。
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「あ、はい。佐藤です今日越してきました。初めての一人暮らしなのでちょっと緊張してます。」「おーそうかそうか 初めてなのは何かと緊張するよね。何かあったら何でも言ってね 相談にのるから。おーっと自己紹介を忘れていたね、わたしは管理人の山本です よろしくね。」
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管理人の名乗るその男性は中肉中背で少し白髪のあるどこにでもいるおじさんのような見た目でした。
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東京の人は皆冷たいと思っていたので、優しく話しかけてくれる管理人さんに私は心を許していました。その日以来管理人さんと話す事が多くなっていきました。朝仕事に行く時 仕事から帰ってきた時 夜ご飯を買いにスーパーに出かけて帰って来た時 管理人さんが挨拶をしてくれました。
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「こんにちわ、今日もお仕事お疲れ様、佐藤さん!」親元を離れ一人暮らしする私にとって管理人さんは優しい親戚のおじさんのような人に思えました。
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一人暮らしにも慣れてきて夜中に帰ってある晩。マンションに入りエレベーターに乗ろうとしました、すると管理人さんが室内の非常階段から降りてきました。「お、こんばんわ。今日もお仕事お疲れ様、佐藤さん。」「どうも。今夜は同僚と飲みに行っていて遅くなってしまいました。では、おやすみなさい。」私は早く眠りたかったのですぐにエレベーターに乗り込み閉めるボタンを押しました。「待って...」
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ドアが開き中に誰か入ってきました。一瞬管理人さんかと思いましたがよく見ると、私と同じ歳位の長身で黒髪のカッコ良い感じの男性でした。全身黒のスーツで香水の匂いが濃かったのでホストの方かな?思いました。その人は私と同じ階で止まり 部屋は私の右隣である事が分かりました。すぐに挨拶しようと声をかけましたが、一瞬私の顔を見て無言で中に入っていってしまいました。
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部屋に戻りお風呂に入り寝る事にしました。私は寝室の窓と玄関のドアを少し開けて寝るのが癖でその日も開けて寝ていました。すると、コン コン コン...窓を叩く音がました。次に、ぎ..ぎ..ぎ..ぎぃーっ....窓を少し開ける音がしました。シーンと静まりかえった部屋に響く謎の音がとても怖く感じました。
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私はベッドから静かに降りて窓のカーテンを勢いよく開けました、そこに人は居ませんでしたが誰かが走って逃げる音が聞こえました。次の日仕事だというのに怖くて一睡もできないまま朝を迎えました。
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仕事へ行く際管理人さんに昨晩の話をしました。「それは怖い思いをしたね、マンション内に変質者が入らないように気を付けておくよ。今日もお仕事お疲れ様、佐藤さん。」その言葉にほっとし仕事に向かいました。
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しかし、その日の晩もそのまた次の晩も謎の音が止む事はありませんでした。
エスカレートしていき、窓を叩く音の他に変な息遣いも聞こえるようになり怖くなって夜中に左隣の木村さんに相談しに行きました。しかし、木村さんは居ませんでした 引っ越していたのです。
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どうしよう...そう思いながら右隣の部屋の人の所へ行き、「すみません、隣の佐藤です。変質者がいたずらして怖いんです、助けてください!....すみません、お願いします!」応答はありませんでした。「やっぱり皆無関心なのかな..こんな夜中だから誰も出てくれないよね不謹慎だよね...。」次の日に管理人さんに相談しても 変質者が居ないか見回ると言われるだけで特に何もありませんでした。
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ある日寝不足がたたって私は熱を出してしまい仕事を休み一人で寝込んでいました。熱でうなされて朦朧としている中私は夢をみました。誰かが部屋に入ってきて私のベッドの横にたって何か言っています。
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「...,....,。と....よ....。はぁ...はぁ...」何を言っているのか聞きずらい言葉でした。言葉と同時に変な音がしました、くちゃくちゃと言う男とぴちゃぴちゃと水のような音です。変な夢だと思いながら夜があけました。
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まだ微熱があったので仕事を休み、食料を買いにスーパーへ行きました。なぜかその日は管理人さんに一度も会いませんでした。毎日会うのにおかしいな..と思いましたが気にしないでおきました。
その日の晩、事件が起こりました。
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夜ご飯を作り熱冷ましの薬を飲み布団に入り、うとうとしながら携帯をいじっていました。そろそろ眠ろうと思い携帯を枕横に置き、まぶたを閉じました。静寂の中で時計の針が動く音と風が吹く音がしました。暫くして昨日と同じ夢を見ました でも昨日と違う事がありました、はっきりと音を聞く事ができた事です。
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誰かが私の枕元へ立ち何か言っています。
「...さ....よ...,はぁ.....はぁ...。.....ん..と..き......はぁはぁ...。」何かの言葉の後に息遣いと水の音がします。変な夢だなと思いましたが夢にしてははっきり聞こえると思いたした。不意に、自分の顔に水のようなものがかかりびくっとしました。これは夢じゃない...本当に人がたってる!!!!!今私の枕元に誰か立ってる!!!!!!!
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私は恐怖にガタガタと身体が震えました。ここで暴れたら何をされるかわからない、誰が立ってるかもわからない殺されるかもしれない!とにかく黙って静かにしようと心を必死で落ち着かせました。相手が何をしているのか何を言ってるのか気になり、まず耳に神経を集中させました。
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「...はあはぁ....はぁはぁ....す....ん...き....よ....さと....ん.......だよ....はぁっは...さとうさん...すきだよ.....はぁ」見知らぬ男が私の名前を呼んでいる事にびっくりしたのと同時に冷や汗が出てきました。だんだん男の息遣いが荒くなってきたのが気にかかり、薄っすらと目を開けると..
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「はっはぁあっはっは..ひっひ..ぐっ..ぐふっ...くっくっ...さとうさんっ!!!すきだよっ僕と一緒になろうよっ...はあはぁあはぁはぁはぁはぁはぁっはぁっっ....」目の前に脂汗をかいた全身黒の男の人が立っていました。しかも、私の顔にかかるように顔の真上で自慰行為をしていたのです。顔にかかったのは水ではなくこの男の精液だったのです。「ぎゃぁぁぁああああー!!!!」
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不快感と恐怖と怒りが混じり私は叫び声をあげ飛び起き、相手の顔を引っ掻きました。「ゔっっぐおおおおおおーっ!!」男は唸り声と叫び声が混じったような声を出し顔を抑えながら玄関を飛び出しました。私は怖くて泣きながら右隣の部屋へ助けを求めにいきました。
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「すみません!開けてください!!..隣の佐藤です!変な人に襲われてっ..怖いんです!お願いしまっ...わぁあああっ!!!」ドアの中から白い手が伸びてきて私の腕を掴み中に引きずりこみました。
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バタン.....「あんた大丈夫か?!怪我は?」
幽霊かと思ったその白い手は以前エレベーターで乗り合わせた黒髪長身の男性でした。何があったのかを全て話し、私は玄関に座りこみました。「毎朝管理人さんに相談しても 変質者が来ないように見回るとしか言ってくれなくて...」
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「え?管理人さん?誰だそれ...毎朝ここに来てるのか?」「はい。私がここへ越して来たその日からずっと毎日朝と夜に挨拶してくれる中肉中背のおじさんで..」「あんたそれ、管理人じゃないよ。」
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「このマンションの管理人は80近くのじいさんで、そんなに頻繁に現れないし誰にも声かけたりしないよ。」「で、でも管理人って書いた名札を胸に付けてましたよ!」
ピンポーン...誰かがチャイムを鳴らしました。
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「誰ですかこんな夜中に...」「俺が出る..後ろに隠れて。」そう言って彼がドアを開けると「悲鳴が聞こえたので、何かと思ってきたのですが...大丈夫ですか?」私は隠れて居ましたが聞き覚えのある声だったので顔を確認しようと見に行きました。
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「管理人さん!!...あ..」「佐藤さん!!!!大丈夫かい?!怪我は無いかい??!!」中に入って来ようとする管理人さんを彼は外へ突き飛ばしました。
「あんた誰?...管理人じゃないだろ!何しにマンション内に侵入したんだよ!」「僕は管理人だよ!...ねぇ?佐藤さん..?」
此方を見た管理人さんの顔には引っ掻き傷がありました。それは私が変質者に付けたものと同じものだと分かりました。
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その時の管理人さんの格好は全身黒 顔には引っ掻き傷 そしてズボンの前が濡れていました。「ひっ...!!!!」私は声にならない悲鳴をあげると. 「最後まで騙せると思ったのに残念だよ!!!!!この男が居てよかったな!!!!!!」
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そう叫んで男は逃げていきました。
翌日、助けてくれた隣の部屋の男性に礼を言い私は引っ越ししました。引っ越ししてからはしっかり施錠し用心するよう心がけています。
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僕「すげー怖いじゃん...一人暮らしやめようかな。」
親戚の元カノ「うん、トラウマになっちゃったよ。」
僕「今は何もないの?ストーカーとか迷惑メールとかさ。」
親戚の元カノ「ん〜〜知らない番号からの電話はかかってくるんだよね〜留守番電話も入ってるし。聞かずに消してるけど。」
僕「今、留守電残ってる?残ってたら聞いてみてよ」
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親戚の元カノ「ん〜〜そうね..聞いてみよっか!笑」ピッ...留守番電話サービスセンターに接続します...再生は1を...ピッ....
親戚の元カノ「え.......」
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僕「ん?どした?...携帯かして。」再生は1を...ピッ
僕「え?誰これ....知り合い?おっさんの声みたいだけど...」
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「....今日もお仕事お疲れ様、佐藤さん。」
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<おしまい>
作者群青
初めて投稿する話なのですが、読みずらかったらすみません。ご意見 ご感想など頂けると幸いです。この話をするといつもカエルの声と蝉の声を思い出します。
夏に怖い話ってやっぱりいいですね。