ある男性から聞いたお話です。
仮にHさんとしますが、この方は土木関係の仕事をしていて朝とかは日が昇る前から出勤しているんですね。
早朝から仕事に向かわなくてはいけないので、夜は10時前には寝るらしいんですよ。
この日もいつもと同じように早めに床に着いた。
連日の激務の疲れからか、わりとすぐに寝付けたそうなんですよ。
でも何時間か経って、急に目が覚めたんです。
時計を見ると午前2時頃。
変な時間に起きちゃったなぁと思っていると、どこからか
ピーポー…ピーポー…
救急車のサイレンが聞こえてくる。
何かあったのかな?なんて思ってるうちにサイレンの音が近づいてくるんですよ。
ピーポー…ピーポー…ピーポー…ピーポー
これは近いな、近所で誰か倒れたのか?
ピーポー…ピーポー…
やがて救急車はHさんの家の前を通り過ぎ、近所のどこかの家に向かいました。
カーテン越しに赤く点滅する光が見えていたそうです。
その光が目を閉じていても気になって、Hさんはなかなか寝直すことができなかったんですよ。
それで結局救急車が帰るまで眠れなかったそうです。
ちなみに救急車って到着した時点で患者さんが亡くなっていた場合や、搬送する必要がなかった場合はサイレンを鳴らさずに帰るらしいんですが、この時はサイレンを鳴らして帰っていったそうなんですよね。
やっと落ち着いて寝られる
Hさんは多少心配しつつも、仕事がありますからすぐに布団をかぶって寝直しました。
そのときHさん、何か変な夢を見たって言うんですよ。
私がどんな夢だったんですかって聞いたら、おかしな女の夢って言うんです。
Hさんがいつも通り4時に起きて仕事現場に行くと、普段ならもう来ている上司や同僚がいなかったそうなんですね。
あれ今日は自分が一番乗りかぁなんて思ってると、現場に人影が見えた。
やっぱり誰かもう来ているのかと思って近寄って行くとそれ、女の人だったんですよ。
土木工場をしてる所にですよ、ヘルメットも何もつけないで立ってる女の人の後ろ姿が見える。
しかもその女、ボサボサで短い髪を振り乱して頭を揺らしいるんですって。
当然焦りますよね。
Hさんも一般の人が入って来たと思って早口で注意をしたそうなんですよ。
「何やってるんですかこんなところで!危ないから早く出てください!」
でもその女、Hさんには目もくれずに頭を前後左右に降り続けている。
Hさんもその異様さには気づいてはいたんですが、ここで怪我をされるとまずいんで、とにかくこの人を外に出さないとってことしか考えていなかったそうなんですね。
「ヘルメットもつけないで!ほら危ないから出てくださいって!」
やっぱり聞こえていないみたいにその場から動かない。
でもその時Hさん気づいたんですよ。その女、左手に何か持ってるんです。それと頭を大きく動かしているせいで気づかなかったけれど右手も小刻みに動いている。
何かやってるんですよその人。
Hさんが女の横にまわってみると、その女がノートを持っているのが見えたそうなんですね。そのノートに鉛筆で何かを書きなぐっている。
何を書いてるんだと一瞬思ったんですが、その時Hさん、女が持ってるノートに違和感を感じたんですね。
何か見覚えがあるなぁと見ているうちに、はっと気づいたんです。
「あっ!ちょっと何してんの!」
Hさんは女からノートを取り上げました。
そのノート、Hさんたちがその現場で使っていた連絡用のノートだったんですよ。
きちんと施錠された事務所に保管していたはずなのに、どうしてこの女が持ってるんだ?
だんだんと恐怖を感じ始めたHさんは、女が書いていたページを恐る恐る確認しました。
「……うわっ!」
思わずノートを放り投げてしまうHさん。
ノートはぬかるんだ地面にベチャリと音をたてて落ちました。
例のページを開いた状態で。
そこにはびっしりと
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「生きてます 生きてます 生きてます 生きてます 生きてます 生きてます 生きてます 生きてます 生きてます 生きてます 生きてます 生きてます 生きてます 生きてます 生きてます」
ガタガタと震えるHさんをよそに、女はなおも頭を狂ったように振り乱している。
どこかでサイレンの音が聞こえる。
ピーポー……ピーポー……ピーポー…ピーポーピーポー
だんだんと近づいてくる。
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そこで目が覚めたそうです。
Hさんは汗をびっしょりかいて、寝巻きが肌に張り付いていたそうです。
時刻は午前4時。スマホの目覚ましが鳴っています。
正直仕事に行く気にはなれませんでしたが、悪夢を見たから仕事を休むなどできるわけがなく、渋々現場に向かいました。
現場にはいつも通り上司と同僚が先に来ていて、夜中のサイレンについて話をしていました。
しかし、皆さんそこまでご近所付き合いを積極的にしているわけでもないので、結局救急車で運ばれた人がどこの誰だったか、そしてその後どうなったのかはわからなかったそうです。
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今回は夢のお話でした。
夢というのはいくらでも脚色できてしまうので、怪談としてはあまり好まれないものではありますが、内容が生々しくてリアリティがあったので書かせていただきました。
それにこのお話、件のノートが実際に事務所から消えていたって後日談付きだったので。
救急車、夢、そしてノートの紛失、もしかしたらどれも偶然なのかも知れませんがね。
作者千月
しばらく間が空いてしまいましたが、知り合いから面白いお話が聞けたので書いてみました。