学生時代は割と目は良い方だったため裸眼で困る事はなかったのですが、社会人になりパソコン仕事が増えるに従い徐々に乱視が進むようになってきました。
基本的には裸眼でも生活に支障が出るレベルではないのですが、夜間の運転では乱視特有の信号の矢印が二重に見えるなどの症状がひどくなってきたので、メガネ量販店で安いメガネを買いました。
メガネ生活にも慣れてきた頃、外回りの仕事で遅くなり、夜9時頃に高速を走って帰っていたのですが途中でトイレ休憩のためにPAに入りました。
そこはトイレと自販機しかない小さなPAで、周りは鬱蒼と木々が生い茂ってる静かなところでした。
自分以外に車も人もおらず、ちょっと薄気味悪い感じがしましたが、運転にも疲れていたのでトイレに入ったあとコーヒーを買ってベンチで少し休憩をしていました。
コーヒーを飲みながら携帯をいじっていると、座っている横方向100mくらい離れた茂みからガサガサっと音がして何か白い物が見えた気がしたのでそちらを見ると木が少し揺れているだけで特に何もありませんでした。
猫か鳥かなと思い、あまり気にせず再び携帯を見ていたらまた同じ方向で白い物が見えた気がしました。
なんだ?と思いそちらを見ますが、もはや木も揺れていないしやはり何もありません。
なんだろうなと思って辺りを探そうと顔を動かしたとき、メガネの左右のレンズの隙間から一瞬白い物が動いているのが見えました。
ん?と思い顔を下げ、メガネの上からその方向を見ると50mくらい先に白い服を着た髪の毛がボサボサな女の人が自衛隊の行進のように手と足を大きく上げてこちらに一直線に歩いているのが見えました。
しかもかなり速い。
顔を上下にしてメガネ越しにすると見えなくなるのにズラして見るとバッチリ見える。
しかも見えようが見えまいがお構いなしといった感じでどんどんどんどん近づいてくる!
うわぁ!っと叫んでメガネを外し、急いで車に入ってエンジンをかけて先程の方向を見ましたが何もありません。
あれ?消えた?でもあれは見間違いなんかじゃない。とんでもないものを見てしまったと車の中からぐるっと360°見回しましたが何もありませんでした。
なんだったんだあれは?この位置から見えない自販機の裏辺りにいるのか?と窓を開けようとして手が止まりました。
待てよ?さっきもメガネ越しでは見えなかったけど、もしかして窓ガラス越しでも見えてないだけなんじゃないか?
もしかしたら結構近くにいるんじゃないか?と思いましたが、何の気配もしないので少しだけ開けて探してみようと窓を開けたとき、開いた窓の隙間からドアの前に立っていた黄土色でシワシワの顔をした女の人が中を覗き込んで
「やっと見えた見えた見えた」
と言ってきました。
びっくりし過ぎて声も出せないまま急いで発進しつつ窓を閉めてそのPAを出てひたすら走りましたが、高速降りた後も窓越しで見えないだけですぐ近くにいるんじゃないかと心配になり、途中でセルフではないガソリンスタンドに入って窓を開けずに店員を待ちました。
店員は特に変わった様子もなく窓を開けるように言ってきたので恐る恐る開けてみましたがあの女の人はおらず、トイレを借りるフリをして車を降りて辺りを見回してみましたが何もおかしなところはありませんでした。
あの肉眼でしか見えない女の人が一体何だったのかは分かりませんが、それからは何か音がするとメガネの上から見る癖がついてしまったのと、どんなにトイレに行きたくなってもあのPAには絶対行かないようにしています。
作者3LDK