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中編7
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3代目ダンボール伯爵

俺が小学5年生の時の話。

幽霊とは違うが、トラウマになってしまったエピソードです。

俺が小学校5年生。90年代の初めである。

まだまだ橋の下にダンボールで生活する、

いわゆるホームレス。という人達がいた。

都会であれば珍しくはないかもしれないが、

俺が住む街では今も昔も珍しい。

良くも悪くも好奇の目で見られていた。

当時はホームレスやハイパーミニマリスト等のカッコいい呼び名は無く。

差別と軽蔑の意味を込めて、浮浪者、乞食。

など、差別的な呼称で呼ばれていた。

小学校の地区内に大きい河川があり、そこに2㎞間隔で橋が掛かっていた。

その橋の1つ。

風月橋 ふうげつばし(仮称)に、一人のホームレスがいた。

通称 3代目ダンボール伯爵だ。

初代と2代目も居たらしいが詳細は不明。

6年生達がそう言っていたので、俺たちもそれに習った。

ダンボールこじき、等でも呼ばれていたが、

今その様に呼称するとモラル的にあれなので。

伯爵、と呼ばせて貰う。

伯爵は何故か俺たちの敵だった。

始まりはもはや分からない。永きに渡る戦争は、

もはや理由など分からなくなるものである。

人類は同じ過ちを繰り返す。

先代、先々代の6年生から脈々と受け継がれてきた対伯爵包囲網は完璧であった。

移動時間帯、行動、発言、ダンボール拠点の座標、季節毎での差異。

実にノート3冊文のエビデンスとして記録されてる。

その戦いの記録を、夏休みの始めに6年生から5年生に託される。

俺たちの代にも遂にそれがやってきた。

俺と親友のユウジは心に決めていた事があった。

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今年こそ、俺らの代であいつを追い出してやる!

二人で息巻いていた。

そもそも何故そこまで敵意を露にするのか。

伯爵は子供達の無くしたボールやおもちゃ、カード等を集める習性があった。

それらを返してくれる優しい心などもちあわせてはいない。

返せと遠くから叫んだら、

「取ってこい!」

と叫び、それらを川に投げ込むゲスであった。

子供達にとって害悪以外の何者でも無かったのだ。

一体どれだけのボールやカードがヤツの手によって川の藻屑となったか…。

どれだけの子供達が泣き寝入りし、涙を飲んだ事か。

夏休み前に決定的な事件が起きた。

ヤンチャな男子どものボールとかなら、まだ良かったのだが。

ある日ヤツの根城に忍び込んだ猛者がいた、

そこで女子児童の無くなった靴や体操服を見つけたらしいのだ。

地元PTAや警察がざわついて問題になったのだが。

ヤツは「落ちていたから拾った。」

「他意はない。」

「一週間置きっぱだったから」

の一点張り。厳重注意で収まってしまったのだ。

しかも体操服の持ち主は、どの学校にもいる

【みんな大好き、可愛いあの娘である。】

しかもそのマドンナは怖くて泣いていたのだ。

男子達が黙っている訳がない。

勿論、俺やユウジも含めて。

そして6年生から、戦いの書を継承した我々は、

夏休みをフルに使って、ヤツをこの地区から排除すると決めた。

あの「緑丘公園の誓い」を胸に!

A.D1991 7月 【風月橋戦役】の幕開けである。

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夏休み。

ボール、おもちゃの奪還作戦。

移動経路水浸し作戦。

水風船連続投下作戦。

ロケット花火威嚇射撃。

数々の作戦を成功させた。

今思えば警察に捕まってもおかしくない。迷惑行為である。

更に情報を集め、物資(おやつ)を確保し、時間をかけて遂に。

我々は最終作戦。

「4拠点同時破壊最終決戦」

を遂行する事にした。

名前の通り、ヤツにはダンボール城が方々に4ヶ所存在した。

それらを4つの部隊に別け、同時刻突破、完全破壊を目的とした作戦である。

ヤツは夕方16時に、とある公園拠点Aから、

寝床のある風月橋拠点Bに移動し始める。

歩きであるため、A to Bは約30分。

その約30分、どこの拠点にもいないその時間を利用し、

同時攻撃で撃滅せし!

と言っても、スマホも携帯もない時代。

本当にその日、ヤツがその地点から移動するのか。

今どこいるのか。

実際には分からない。かなり盲目的な作戦だった。

各部隊に時刻を伝えてひたすら待った。

俺とユウジはヤツが向かってくるB地点。

風月橋拠点を破壊する。

ヤツが向かってくるはずなので、一番危険であろう拠点だ。

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16時に流れる地域の歌のBGMが響き渡る。

これが合図だ。

俺とユウジは飛び出した。

まずは拠点を捜索、行方不明物を探す。

予想通り、沢山出てきた。

用意した大きめのトートバッグに要救助物を確保する。

ユウジは破壊活動準備だったが、トラブル発生。

ダンボールに火が付かないのだ!

如何せん小学生は何でもすぐ燃えると思っている。

これはまずい。思った以上にダンボールが湿気ている。

おまけに強烈な異臭に気付いた俺たちは、

まるで毒ガスの罠に掛かったように体が重くなった。

まずい。まずい。

完全に破壊しなければ!

ユウジが叫んでいた。

「うぉぉぉぉぉっらぁぁぁぁ!!!!!」

ユウジは拠点の半分ほどダンボールを持ってダッシュ。

そのまま川へと投げ込んだ。

凄まじいパワーと根性だ。

その手があったか!!さすがユウジだぜ!

俺もそれに続く。今まで川に投げ捨てられた玩具やカード達よ。

仇はうったぜ!!!

ダンボール城は一部の切れ端を残し、完全消滅した。

しかし、俺とユウジは顔を見合わせた。

ダンボールが置いてあったその場所に、

ブルーシートと大きい毛布。

そして寝袋の様なものがあったのだ。

更に先程よりも強力なガスが発生していた。

頭がくらくらする。まずいぞ…。

チィッ!

これらを残しておいたら、ヤツはまた復活する。

必ずだ!

そう直感した俺は、くそ重いそれらを引きずって運んだ。

湿気っているレベルではない。べったべたである。

何て重さだ。そしてこの臭い。

長年の寝床の汗や皮脂が

たっぷり水分を含んで腐っているのだろう。

ユウジは噎せている。目までヤられたか。

何てトラップだ。敵ながらすごいぜ。

吸うんじゃない、吸ったら死ぬぞ!

ブルーシートを川へ、毛布も川へ。

そして寝袋を投下しようとしたその時。

ユウジ「おい!ヤツがいる。来たぞ!何で!?」

まだ15分程しか経っていないはず。なぜヤツがこんなに早く?

早い、早すぎる!

伯爵「おおおおおおおおおおお!!!」

伯爵「お前らぁぁぁぁぁぁぁlslslslんfjるづえっkdk!!!!!!」

まるで獣のような咆哮を発し、ヤツは走り突っ込んできた。

手には真っ黒いステッキ。充分な凶器だ。

まずい!

「ユウジ、逃げるぞ!」

二人で駆け出す。命の危機だ。

しかし作戦はほぼ成功だ。他の部隊は破壊出来ただろうか。

道が分かれている。そうだ。

いつもこういう時、ユウジと俺は合図なしでも散って逃げる事を徹底してきた。

今回もそうする。ユウジは左。

「俺は右だぁっ!!」

上手く割れたぞ。

ヤツは!!??

伯爵「ぬぁぁぁぁぁらおめぇんfjふえうjdjdhjf!!!!!!」

俺の方へ来たか。当然だ。家財を投げ捨てていたのは俺だからな。

しかし、追い付けるかな?

数々の悪さをし、逃げ続け、

そして捕まったことなど一度もない!

運動会のリレーでもいつもアンカーだぜ!!!

追い付けるものなら来てみなよ、アホー!!!!

伯爵「後ぉぉぉっらぁぁぁぁぁぁ!!!!」

な、何!!!????

速い!!!

思っていたより3倍速い!!!!

真夏なのに汗がやけに冷たい。

このペース。捕まる。

殺られる!!!!!

いやまだだ!

小路を使う!!

子供の小回りを見せてヤるぜ!!!!!

自慢の体重移動でロスレス連続直角カーブ!!!

クランクでもトップスピードで曲がってやるぜ。

伯爵「ぬろぉぉぉぉぉぉぉぉjrv2gづrkっg!!!!」

伯爵は4足歩行とも取れる程、低姿勢で手をつき、

完璧とも言える美しいラインを描き、

最低限の減速で連続コーナーを攻略していた。

それはもう第三者にも狙ったラインが輝いて見える程に。

嘘だろ!!

間違いない。俺は食われる。

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脚がちぎれそうだ、酸素が足りない。

もう限界だ。すぐ後ろにヤツが!

涙が出ていた。泣いていた。恐怖である。

生まれて初めて神様に謝った。

我が家に感謝した。

美味しいご飯にあったかお風呂。

いいないいな人間っていいな。

全てが懐かしく感じる、、

仲間達よすまん。俺はここまでだ。

せめて最後に、安心した女子達にキャーキャー言われたかった…。

全てを諦めたその時。

shake

シュタタタタタタタタ!!!

小気味良い発射音。

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この音は!!

いつも電動ガンを自慢してる癖に、

誰にも貸そうとしない嫌な金持ち。

◯谷!

そして横には更に他の部隊のヤツも。それぞれ電動ガンを持っていた。

まさかあのケチな◯谷が。参戦して、武器まで提供してくれていたのか。

目頭が熱くなる。

俺は限界に達し、その場に倒れた。

だが、哨戒作戦チームとも言える仲間達は、

射撃を続けた。

シュタタタタタタタタ!!!

伯爵「ぐっおぉぉぉくそがぉぉ!!!!」

よほど痛かったのだろう。

そう言い残し、走り去っていった。

息が整わず、立つことすら出来ない俺は、

仰向けのまま呆然と空を眺めた。

「勝った…のか??」

遠くからロケット花火の音と爆竹の音が聞こえた。

全拠点破壊確認の合図だ。

勝った!

勝ったぞー!!!!

そして予想通り、翌日以降この地区内で

3代目ダンボール伯爵の姿を見ることは無くなった。

約1ヶ月に及んだかの有名な【風月橋戦役】は、

我が小学校解放軍の勝利に終わった。

みんなが勝利に酔いしれている最中。

俺だけがヤツの恐怖から解放されていなかった。

完全に負けていた。そう思ったのだ。

そして、俺はモヤモヤした敗北感をかかえたまま…。

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中学校入学。

走りを極めるために陸上部の門を叩くことになる。

伯爵との激戦がトラウマとなった俺が、

その後県でも随一の選手になっていく。

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奇しくもその後。中3の夏に伯爵とリベンジマッチが叶うことを、

俺は心のどこかで分かっていたのかもしれない…。

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楽しかったです。続編希望します。
しかし、なんでそんなに足が早かったんですかね?

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@無水エタノール  コメントありがとうございます!
小学校の仲間が集まったら、必ずこの話になります(笑)
笑っていただけたのなら幸いです。
リベンジマッチは私の陸上人生と、生涯の趣味に大きく影響した?エピソードになります。
また時間を見付けて書いていきたいと思うので、優しく見守って頂けると幸いです。

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