「ガレージのシャッター」

中編3
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「ガレージのシャッター」

これは、私の父親の知人が体験した話です。

不動産営業をしているSさんは、とある物件の担当を任されることとなったのです。

その物件は、通常は億単位の値段で売られていてもおかしくないような立派な豪邸でした。しかし、その物件は何千万円程度と、破格の値段で売り出されていたのだそうです。

知人は長年この仕事をしていたので、すぐにそこが事故物件であることを察しました。

数日後、その物件を内見したいという男性客が不動産屋にやってきました。

うわ、どうしよう…と心で思いつつも、告知義務の法律があるので、事故物件なのですが大丈夫ですか?と説明しました。

するとお客さんはそういうの気にしないんで、大丈夫です、と軽く笑顔で答えてきました。

そして後日、例の物件の内見をしに、お客さんとその家に向かいました。Sさんは内心何か嫌なことが起きなければ良いなぁ…と思いながら向かっていました。お昼過ぎくらいに着き、一通り中を一つずつ案内し、建て付けの不具合などをチェックしながら全ての部屋を回り終えた頃にはもう夜更けになっていました。

その時は特に何の異常も見つからず無事に内見を終わらせ、お客さんがガレージから車を取り出し帰ろうとしていた、その時です。

自動ボタン式のシャッターが、ボタンに触れてもいないのにも関わらず、車が半分まで出掛かったところで勝手に降りてきたのです。

慌ててストップのボタンを押したのですが、一向に止まらずに下がり続け、お客様の車に傷が付いたら大変だとSさんはシャッターを力づくで持ち上げようと抑えましたが、その苦労も虚しくお客さんの高級車に傷がついてしまいました。そんな不気味な出来事もありましたが、そのお客さんは購入をするという意思を変えず、その日は帰っていきました。

そして、Sさんはもう一度家の中を点検して回り、全ての部屋の窓やカーテンを閉てまわりました。しかし、ある部屋の窓だけ中々閉まらず、「ここも直さなきゃならないかな…」とやっとの思いで鍵を閉め、自分の車を出しにガレージまで降りてきました。

車をガレージから出した後、ボタンでガレージを下げようと思ったのですが、ボタンが言うことを聞かず下りてくれません。壊れているのかと、仕方なく自分の力でガレージを下げようと力の限り下に引っ張り悪戦苦闘していました。

あともう少しで完全に降りる、そう思った時にふと自分の手の横にガレージの内側から閉まらないように腕を回し込んでシャッターを押さえつけている、真っ黒に焦げた手が二本見えたのです。この世のものでは無いと悟ったSさんは、あまりの怖さにシャッターを中途半端に開けたまま、車に乗り込み一目散に事務所に逃げ戻りました。

そして、上司その話をしたところ…

「ああ、きっと怖がるから言わなかったけど、あそこの家は昔夫婦が二人で住んでいて、旦那の浮気を苦にガレージで奥さんがガソリンを被って焼身自殺されたんだよ。奥さんはたいそう家が気に入ってたようでね。可哀想に。」

と教えてくれました。

お客さんには、あんな事があったことは何となく話せずに、結局そのまま契約は成立となりました。そして、数日何事もなく過ぎていきました。しかし、そして一ヶ月ほど経った頃でしょうか。あの家の前を偶然通りかかった時、契約されたはずの家に、再び売り出し中の看板が出ていました。

そして仕事を終えその家のことを上司に尋ねると、

「あああの家ね。やっぱりだめだったみたいだよ。お客さんは何も言わなかったけど、すぐに手放したいと言う申し出があったんだ。」

と、苦笑いをしながら答えたそうです。

あの家は今でもずっと、空き家のままだそうです。自殺した女性の怨念が、この家は渡すまいと今もそこに住み着いているのでしょうか…。

Concrete
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