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短編2
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「母慕鬼喰」

かぁちゃん、腹へった。

―ちぃとばかり待ってけろ。用意するすけ

かぁちゃん もう 食うもんねぇべ。

―あるよ。おめえの大好きなリンゴがある。

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はぁ。リンゴは、とっくに食ってしまってねぐなったんでねぇが。

―まだある、まだある。裏の小屋さ とっておいだのがある。

リンゴ あるんだば、早ぐ持ってきてけろ。

―あいよ。わがった。ちょっと、待ってろ。

その前に、ちゃんと囲炉裏(いろり)の火を見張っているんだど。

火は、落とすなよ。

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母親は、そういうと、板戸を開けて外に出た。

びゅうびゅうと音がして、冷たい雪と風が中に入り、張り裂けんばかりに顔を叩いだ。

子どもは、母親にいわれたとおり、囲炉裏(いろり)の火を絶やさぬよう枯れ枝を火にくべた。

やがて、火を見ているうちに、急に眠気が襲ってきて、ぐらりと床に倒れこんだ。

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さ、さむいじゃ。

気が付くと、外はとっくに暗くなっていて、板戸の隙間から雪が風とともに びゅうびゅうと音を立て入りこんでいた。

囲炉裏(いろり)の火は、消えかかっていた。子どもは大慌てで そこら中にあった枝をかき集め全部放り込んだ。

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その時だった。

―おーい。こっちだ。裏の小屋さこーい。

かすかに 母親の声がした。子どもは、板戸を開けて、声のする方へと向かって行った。

真っ暗でなんも視えねぇ。かぁちゃんどこだ。

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―ここだここだ。ほら、おめえの好きなリンゴだ。

子どもは、手探りで 吹雪の中 母親の声のする作業小屋の裏手に回った。

どん、音がして、雪の積もった地面の上に、大きくて真っ赤なリンゴが、子どもめがけて落ちて来た。

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かぁちゃん、食ってもいいのが。

―あぁ、食え。腹いっぱい食え。

子どもは、リンゴを手にすると、大きな口を耳まで開けて、ガツガツと食らい始めた。

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かぁちゃん、これリンゴか。こったらうめぇリンゴ食ったごとねぇよ。

―そりゃ、いがった。いがった。

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食べ終わると、子どもはふと我に返り、母親の姿を探した。

かぁちゃんよぉ、どごさいる。

―おめぇの腹の中だよ。

(天保3年大飢饉より)

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天保の大飢饉、歴史で習いました。
母親の子供を思う愛は深いと感じました。

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