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小学校時代からの親友の、U子のお兄さんが
実際に、体験した話。
何年か前の、暑い季節に、
お兄さんがポツリと、U子に話して来たらしい。
この時期になると思い出すって、、、
お兄さんとは、私も小学校時代に会った事があるけれど、何だかとっつきにくい記憶があった。
U子は、
「 この話、今まで誰にも話してないんや 」
と言いながら、久しぶりに会った居酒屋で
話し始めた。
ここからは、
U子のお兄さん(仮に Yさんとします) の、
主観で話させて頂きます。
(書き込む際、ややこしくなりますので)
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これから暑くなる時期だなぁ、
そう思いながら、東京の大学に進学したオレは、
講義を終えて帰ろうとしていた。
すると、遊び人の代名詞のような川端が、
声を掛けて来た。
チャラチャラと話しかけてくる。
オレは、こう言ったタイプが苦手だった。
「 Yちゃん、お疲れぇ〜
もう帰んの?
あのさぁ、Yちゃん、今日ヒマ?」
「あぁ、今日はバイトも無いし、、、
「良かったぁ〜、さすが Yちゃん!
今日さ、合コンあるんだけど、
1人急に来れなくなってさぁ、
アホだろ?そいつ。
じゃ、7時に駅前の 〇〇居酒屋 で!
ヨロシク!」
えっ?ちょっと待てよ、
と言いたい所だったが、
川端の姿はもう無いし、
実は自分自身、初めての合コンだったので、
行ってみたい気持ちもあった。
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6時55分に、居酒屋の前に着いた。
そこには、川端の姿もあり、
あとは知らない男が3人いた。
「おぅ!Yちゃん、ちゃんと来てくれたんだぁ、服もきまってるじゃん!」
軽くバカにされた気になったが、
川端が、後の3人を紹介して来た。
よろしくね〜!
みんな、川端みたいなヤツらだった。
「先、入ってようぜ、
里美達も、もう来るみたいだし」
そして、「酒飲んじゃえば、大丈夫だって、
初合コンでも、な?」
と、余計なお世話な事を耳打ちされた。
そして、個室に通された。
しばらくすると、
「ごめぇ〜ん、遅くなっちゃった〜」
と、女版川端が入って来た。
(うっわぁー、オレ無理だわ、早く帰ろ。)
そう思いつつも、合コンはスタートした。
5対5の10人。
「 カンパーイ!! 」
それから、自己紹介タイムが始まった。
「里美でぇ〜す、
ミィちゃんって、呼んでねぇ〜 」
オレは、悔しい事に、さっきの川端の言葉に
洗脳されたのか、ビールを飲みまくっていた。
自分の番が回ってきた。
「あ、あの、Yっていいます、、、
よろしく、、、」
やだぁ、Y君って渋〜い!
周りが何か言っていたが、バカにされてる様で、オレの耳には入って来なかった。
そして、最後の1人。
彼女は他の女性と違って、
黒髪に清楚な雰囲気を漂わせていた。
「あ、あの、、、キヨエです、、、」
「キヨエちゃんって、可愛いよね〜
奥ゆかしくて、オレ、好きになっちゃうかも!」
などと、バカな川端がはしゃいでいたが、
オレはキヨエの事が気になっていた。
それは最初に、部屋に入って来た時から。
その内、場が砕けてきて、酒の勢いもあり、
オレは思い切って、キヨエの所へ行った。
「キヨエちゃん、だよね? 楽しんでる?」
キヨエは黙って俯いて、
「わ、私、、、こう言う場所って慣れてなくて。今日も人数合わせで、、、」
「オレと一緒じゃん!オレも人数合わせ!」
2人で顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。
「たぶん、もう1次会も終わるしさ、
その後、2人で飲み直さない?
あ、下心とか全然無いから!
なんか、コイツらと一緒に居たくなくて、」
いいよ、とキヨエは軽く微笑んで言った。
「ほんと!?」
オレは嬉しさのあまり、かなり興奮していた。
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1次会が終わり、
「じゃ、オレ帰るわ。明日、朝早いし」
「あ、私も、、、」
じゃあ、お疲れぇ〜と、オレとキヨエが、
居ても居なくてもどうでもいい感じで、
みんなと別れた。
「どこ、行こっか?」
「落ち着いた雰囲気の所が良い、かな、」
そうしてオレ達は、路地裏にある小洒落た店に入った。
店内も落ち着いた雰囲気で、
気分が良い程、会話が盛り上がり、気付けば
もう終電の時間だった。
帰り際、連絡先を交換し、オレはアパートに戻った。
「ヤバイ!オレにもとうとう彼女が!?」
嬉しさのあまり、しばらく寝れなかったが、
お酒のせいもあり、いつの間にやら眠っていた。
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それからキヨエとは何度も連絡を取り、
何回かデートをした。
その何もかもが、楽しくて幸せだった。
そして、本格的な夏になった頃、
キヨエは、オレの初めての彼女になった。
この世の物が、全て輝いて見えた。
キヨエとは、上手く行っていたし、
ご飯を作りに来てくれたりと、最後の彼女だと幸せを噛み締めていた。
ただ、1つの事を除けば、、、。
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キヨエは、非常に独占欲が強くて、
「今日、喋ってた女、誰?」
「今日さ、あの女の事、可愛いと思ったでしょ?」
あの女、、、? 誰の事だ?
「今日さ、バイトの佐藤さんと楽しく喋ってたでしょ?」
なんで、バイトの佐藤さん知ってんの?
確かにシフトの事で、話はしたけど、、、
オレはキヨエが好きなのに、何で疑うのかな、
「じゃあ、良いっ!大好きだよ!」
キヨエは満面の笑みで、オレに抱きついてきた。
え? 、、、何が良いの?
オレ、何も言ってないけど、、、
と思っていると、
それからは普段の彼女に戻っていたので、
その場は何となく過ぎて行ってしまった。
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そんなある日、声を掛けられた。
「 Yちゃ〜ん、元気?」
川端だ。
どうせ、また合コンの人数合わせの話だろうと思い、
「 悪い、オレ彼女できたんだ。
だから、これからは合コンに行けないから 」
そう言って帰ろうとすると、川端が言った。
「 彼女って、キヨエちゃん、、、?」
「 そうだけど、何?」
「 あ、あのさ、、、あっ、やっぱいいわ 」
「 何だよ?気になんじゃん?」
「 キヨエちゃんの事を、
悪く言うつもりじゃないんだよ、
だけど、里美がさ、
ほら、この前の合コンに来てただろ?
お前の事、心配してて、、、。
いや、キヨエちゃんって、
ちょっと変わってない?
前にも何度かさ、合コンで知り合った男と、
付き合ったりしてたらしいんだけど、
そいつらがさ、、、
とにかく、お前、気をつけろよ?」
、、、えっ?
あのキヨエに、そんな過去があったの?
男の人とお付き合いした事ないって、
言ってたじゃん、、、
オレは、キヨエの事を信用できなくなりそうだった。
何だかバイトも行きたくなくなり、
体調不良と言う事で、バイトを休んだ。
( 家で、1人でゆっくり考えよう、、、 )
そう思いながら、アパートに戻ると、
玄関の前に、スーパーの袋を持ったキヨエが座っていた。
「 どう、したの、、、?
今日オレ、バイトだからって、、、
言ったよね?
急に休んだんだけど、、、」
「 何だかY君、バイト、
休みそうな気がしたんだ、
しかも疲れてるみたいだったから、
何か作ってあげようかなって思って、待ってたの!」
「 いつから待ってたの?」
「 う〜ん、5分くらい前かな 」
、、、。
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とりあえず、
嬉しそうなキヨエを、追い返す事も出来ずに
2人で夕飯を食べた。
オレの好きなニラレバ。
「 Y君、好きでしょ?」
( オレが、ニラレバ好きだって、言った事あったっけ?)
そうして、キヨエが台所で洗い物をし、オレはテレビを観ていた。
「 ねぇ、Y君、、、
今日、川端君から何か聞いた?」
急にキヨエが聞いてきた。
ドキッとした。
「 あ、いや、、、」
「 私が、色んな男と付き合ってた事、
聞いたでしょ?
それで、私の事を信用出来なくなって、
1人で考えたいと思って、バイト休んだんだよね?」
キヨエは、相変わらずオレに背を向けながら洗い物をしている。
( え? 何、、、?
何でオレの思ってた事、知ってんの?
なんか、気味悪いんだけど、、、)
「 私、気味悪くなんかないよ。
ただ、Y君の事が好きなだけ。
Y君も、私の事、好きだよね?
ね? 好きだよね?」
正直、オレは困った、と言うか、怖かった。
とにかく、早くキヨエを帰らせよう。
「 私、帰んないよ。
今日は初めて、
彼氏の家にお泊まりなのだぁー !」
うふふっと無邪気に笑い、
先にお風呂入るね〜と、キヨエはすごく楽しそうだった。
今の内に逃げよう、そう思い、キヨエがお風呂に入った事を確かめてから、
そっと玄関を開けた。
、、、ゾッとした。
玄関の前には、キヨエが立っている。
「 えっ? お風呂に入ってたんじゃ、、、」
「 Y君が、どっか行っちゃったら、
私、イヤだもん。どこ行こうとしてたの?」
もはや、キヨエの微笑みは、オレにとっては
恐怖すら無かった。
「 あ、あっ、コンビニ!
お風呂上がりに、2人でビールでも飲もうかなって 」
「 ビールなら冷蔵庫にあるよ 」
一瞬、キヨエの顔が冷ややかな表情になった。
「 Y君! 冷蔵庫見てなかったの〜?」
そして、いつものキヨエだった。
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次の日、オレはバイト上がりで疲れてたが、
アパートに帰る気もせず、1人でファミレスに入った。
「いらっしゃいませー」
途端に、
「 Y君!こっち、こっち!」
声のする方を見た。
え、、、
何故、ここにキヨエがいるんだ?
「 なんで、お前がここにいんだよ!」
オレは声を荒らげていた。
「 ごめんなさい、Y君に会いたくて、、、」
公衆の面前だし、オレはこの際、キヨエときちんと話そうと思い、アパートに連れて行った。
不思議な事に、アパートに近づくにつれ、
キヨエは、どんどん嬉しそうな顔になっていく。
アパートの鍵を開ける。
うん?
ガチャガチャとしてると、
どうも最初から鍵が空いていたらしい。
( 閉め忘れたのかな、、、)
すると、キヨエが急に、
両手でオレに目隠しをしてきた。
「 えっ、何!?」
「 良いから、ゆっくり部屋に入って」
そして、キヨエは、
オレの目を覆っていた両手を一気に離した。
、、、っ!!
「 ねっ? びっくりしたでしょ?
Y君、絶対に気に入ると思って!!」
そこは、もはやオレの部屋では無かった。
カーテン、家具、ベッド、インテリア、、、
全てが変わっていた。
「 おいっ!
どうやって部屋に入ったんだよっ!」
「 えぇ〜、だってY君の家の鍵、
いつも玄関の左側に掛けてあるじゃん、
彼女が合鍵持つのは、当たり前でしょ?
それよりもY君!
この部屋、気に入った?
ねぇ、気に入ったでしょ? ね!」
キヨエのワクワクしてる顔が、
余計にオレをドキドキさせていた。
合鍵を作られた事もそうだが、
この部屋にある物全てが、
オレが雑誌やテレビを見た時に、
良いなぁ、部屋に置きてぇなぁ、と思っていた物ばかりだったからだ。
「 だから、気に入ると思ったんだぁー
Y君が喜ぶ顔が見たくて頑張ったんだよー?
ねっ? 嬉しい?」
キヨエの言葉に、オレはただ頷くしか無かった。
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その日から、キヨエの行動は
エスカレートして行った。
今、学食でしょ? お昼ご飯はハンバーグ?
今、学校出るとこでしょ? 校門にいるよ!
今、**通り歩いてるでしょ?
今、その先のカフェにいるよ!
今、前に座ってる女の子、見てたでしょ?
今、
今、
今、、、
今、、、
なんでオレの行動がわかるんだよ!?
携帯の GPS とか、、、?
もう、キヨエと別れようと思った。
その瞬間、携帯が鳴った。
びっくりして携帯を見ると、"
"キヨエ" と、名前が出ている。
「 も、もしもし、、、」
「 お願いだから別れるなんて言わないで 」
「 何? 急に、、、」
そして、電話は切れてしまった。
え、、、
やっぱり、オレが考えた事まで分かんの、、、?
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オレは川端に会いに行く事にした。
「 おいっ!
この前言ってた事、本当なのかよ!
キヨエって、一体何なんだよ、、、」
オレは途中から、泣き崩れていた。
「 あー、今、里美に連絡とるから 」
いつもの川端とは違った。
しばらくして里美が来た。
川端が、里美に何か話している。
里美が駆け寄り、必死にオレにこう言った。
「 今すぐに、引っ越して。
あと、携帯も変えて。バイト先も。
さすがに大学はやめられないから、
帰る時間ズラしたり、裏門から帰るようにして。
もう彼女とは、絶対に関わっちゃ、ダメ。」
オレは、正直訳が分かんなかった。
「 あいつ、、、何なんだよっ!!
気持ち悪ぃよ、、、
オレの行動知ってるし、
挙句の果ては、オレの思ってる事まで分かるんだぜ?
お前、何か知ってんだろっ!?」
オレは里美に当たり散らした。
すると、里美は落ち着いて言った。
「 彼女は、、、
信じられないかも知れないけど、
相手の気持ちが読めるみたいで、、、。
私も最初、あなたみたいに気味悪かったけど、
特に何も害は無いし、
合コンの人数合わせに来てって言っても、
笑顔で頷くしね。
でも、その後、、、
合コンで知り合った人と、
何人も付き合ってるって聞いて、
それで、彼女と付き合った人達が、
精神的におかしくなっちゃったって、話を聞いて、、、。
だから、合コンに誘わない事にしたの。
そしたら、今度は彼女の方から、
合コンに行きたいって言い出してきて、、、。
最初は断ってたんだけど、
" 私が行くと、都合でも悪いの?" って、
全てを見透かしてるかの様な笑顔で言われてね。
そして、彼女がこう言ったの。
" K君との仲、彼氏にバレたら大変ね "
あの子、K君の事は全く知らないのよ?
私、怖くなって。
だから、今回の合コンに参加させたの。
Y君、ごめんなさい。
早くキヨエから逃げないと、
今までの男みたいになっちゃうから、、、」
オレは、あまり状況が飲み込め無かったけど、
里美の言う通りにした方が良いと思った。
その瞬間、
ピロリロリン〜 ♪︎ ピロリロリン〜 ♪︎
携帯が鳴った。
画面を見なくても誰からかは分かった。
しばらくして携帯が止むと、今度はメールが来た。
里美を見ると頷くので、メールを開いた。
『 Y君、今、どこにいるの?』
えっ?と思った瞬間に、2通目のメールが来た。
開いてみた。
『さて、 私は今、どこにいるでしょーか?
なぞなぞよ!
こーたーえーはー、、、
私はね、さっきから、
ずぅっと、Y君の後ろにいたんだよぉー 』
オレは、振り返った。
しかし、そこには誰もいなかった。
恐る恐る里美にメールを見せると、
里美は教えてくれた。
「 たぶん、キヨエは、
自分と一緒に居る、相手の気持ちが読める。
で、自分が行った事のある場所なら、
相手の行動や気持ちが読める。
だけど、自分が行った所の無い場所では、
相手の行動や気持ちが、読めないような気がするの。
だから、キヨエの知らない場所に、、、
って、この話もキヨエは聞いてるわよね。
とにかく、何かあったら、
絶対に、何も考えないで!」
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その後、里美に言われた通りに、
アパートも引っ越して、携帯を変えて、
バイトも辞めて、
大学から帰る時も、警戒しながら帰った。
しばらくは、いつキヨエが来るかと、
恐怖に怯えながら過ごしていたが、
川端や里美の協力もあり、なんとか安心した日々を
過ごせる様になって来た。
その全てを、キヨエが知っているかもしれないが。
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大学も2年生になり、キヨエの事は、
あまり思い出さずにいた。
思い出したく無かったんだろうと思う。
何よりも、ちゃんとした彼女ができたおかげもある。
ある日、彼女が家に来た時に
「 ねぇ、ここに来る時にさ、コンビニで、
『 △△アパートに、
Y君と言う人は住んでいますか?』って、
女の人に声掛けられてさ、
かなり気持ち悪かったから、
知りませんって言って、
ダッシュでアパートに来たんだけど。
ストーカー? ヤバくない!?
Y、気をつけなよ?」
そう言って、
彼女は、テレビのお笑い番組を観だした。
正直、オレは震えが止まらなかった。
だって、
キヨエは相手の気持ちが読めるのだから。
もう、オレのアパートは、
キヨエの知らない場所では無くなった。
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「 そんで、オレは実家に帰って来たんや、
いくらキヨエでもなぁ、
ここまでは追って来れんやろって思ったしな 」
Yさんの話が 『 今 』と言う、現実に戻った。
U子は、黙って話を聞いていた。
そして、口を開いた。
「 お兄ちゃん、、、
私、この前、
この辺りに、お兄ちゃんが住んどらんか?
って、女の人に聞かれたわ、、、
何か分からんけど、怖くなって逃げたんや、、、」
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その後、
U子のお兄さんには何も無かったそうで、
今では結婚して、3人の父親だそうです。
その話をし終えると、U子は、
「そのキヨエ?って女の人 、、、
一体、何やってんろ?
今、考えると、気味悪いなぁ 」
と、独り言のように呟き、
そして、ビールジョッキを飲み干しました。
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日本古来から伝わる妖怪に、
『 覚 』と言うものが居るそうです。
覚は人間の心を読み、その隙に、人間を食いものにしてしまうのだそうです。
キヨエが、その『覚』のような能力を持っていたのかは分かりませんが、
しかし、未だに男を探し続けているのでしょうか?
自分の事だけを考えてくれる男を。
自分にとっては、嘘偽りの無い男を。
私は思いました。
U子が、女の人に声を掛けられたあの時、
お兄さんの事よりも、恐怖で一杯で、
何も考えて無かったんだろうな、
何も考えずに、走り去ったのだろうな、と。
だから、
キヨエには、お兄さんの居場所が分からなかったのかも知れない。
誰でも、知ってる事を聞かれると、必ず頭に思い浮かんでしまいます。
それが、ダメな事だと分かっていても、、、。
作者退会会員
長文、すみません。よろしくお願い致します。