中編5
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豹変

〈※この話には、抽象的ですがグロテスクな描写が含まれています。

苦手な方はご注意ください〉

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もう10年ぶりくらいだろうか。

親戚の叔母さんの家に遊びに行くことになった。

僕は11月の第1金曜日、第一志望の大学にAO入試で合格できた。

まあ、安定思考だったから、本当はもっと上に入りたかったのだが、

浪人ができるほどの経済的余裕も、

精神的余裕も、時間的余裕も、

その他様々な余裕が我が家にも自分にも無い。

(※みんな必死で生きてんだよ!)

なにはともあれ、お祝いがしたいのだそうだ。

折角だし、長く顔すら見ていないから、二つ返事でOKした。

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朝方。。

僕「じゃ、行ってくるよー」

両親「気つけてね」

妹「うむ。行ってこい( º言º)」

叔母さんはのんびりした人柄で、農業をやっている。

僕の実家からは電車で1時間ほどの場所に住んでいるが、

数年前に旦那さんに先立たれて、それからは

僕以外の家族や親戚もあまり連絡をとっていない。

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でも、元気なのは確かで、

年賀状は毎年送ってくれる。

私鉄を1回だけ乗り換えて、最寄り駅から徒歩17,8分くらい。

農家なだけに、かなりの田舎だ。

短い橋を渡って少し歩いた先にある、

オレンジ色の屋根の家。

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ピンポーン。

僕「僕でーす。久しぶりです!

あのう、覚えてくれてますか?」

叔母さん「はーい、来てくれたんやねえ、上がってやー」

本当に久しぶりに聞いた、叔母さんの気さくな声。

靴を脱いで、玄関に上がる。

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いや、玄関に上がれなかった。

靴を脱げなかった。

叔母さんの顔を見たとき、皮膚という皮膚に鳥肌が立った。

赤い仮面を被っている。

右手には鉈をさらに大きくしたような鋭利な刃物。

左手には真っ赤なポリ袋。

人間ではない雰囲気を纏っている。

かろうじて、外見だけは昔会った叔母さんだった。

僕「え…あ…」

叔母さん?「ホンマに久しぶりやねえ~ちょっと待っててねえ、

コレは置いといて、お茶持ってくるねー」

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ドプチャッ。

ポリ袋を玄関先に置き、

叔母さんだと思っていた奴は家の奥へと行った。

僕はポリ袋の中身が何なのか、

1歩踏み出して凝視した。

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…半分もう分かっていた。

人間だった肉塊。

肉も骨も皮も髪も、

生きたまま木材粉砕機に入れられたかのような、

新鮮で赤黒い流体。

吐き気、悪寒、震えの症状にみまわれた。

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まだ十分距離があるところから、声が聞こえた。

叔母さん?「僕くーん、入れてきたよー、

魔界名産のボツリヌス茶やで~」

僕は、逃げ出した。

恐怖で恐怖で、叫び声すら出なかった。

走って走って、家を後にし 、

家に来るまでの橋に差し掛かった、

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、、、、、おかしい。

この橋、おかしい。

渡ると死ぬぞ!

なぜか本能的に…

橋には、少しだが、乾いた血が付いていた。

急ぎながらも、ほんの少し、橋の端に足を置こうとした、

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ジャキン‼

橋の道路部分から、びっしりと太く鋭い針が飛び出てきて、

2,3秒ほどで元に戻った。

これは――スパイクトラップというやつだ。

ダンジョンを潜る系統のRPGゲームなんかでよくある「罠」だ。

叔母さんのような奴が魔界と言っていた…

異世界になったのか…!? そんなことって…

今 こ こ で

起 き て る

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ゲームならダメージを受けるこの罠も、

もしこれが現実なら、…説明はいらないだろう。

どうする。どうする。どうスルー[突破]する。

そうか!

橋の横のガードレールを渡ればいい!

生きて帰れる。脱出成功。

しかし、

まるでバランス台だ!

おまけに、「バランスを崩すと串刺し」。

足が震えて、思った以上に上手く渡れない。

1歩進む、バランス調整、、

また1歩進む、バランス調整、、、

幸い、奴はスパイクトラップを無視するような

スキルは持っていないらしい。

追ってくる展開ではない。

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叔母さん?「頑張ってね~

落ちたら即死よー

あっ、道路の反対に落ちたら、

死ななくてもすぐ引き上げて

粉々にするから心配せんでいいよー」

マイナスの応援が背中を刺す。

精神がもう限界に近かった。

でも、あと3歩くらいで渡りきれる――‼

バランスを崩し、道路の側へ、、、

ジャキン‼

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妹「( ;∀;)心配してたんよコノヤロー‼┗(゚д゚;)┛」

両親「うっ、うっ、一時どうなるかと…(涙を流しながら)」

僕「!? はっ、ええっ…」

以下は

家族や主治医、看護師から聞いた話です。

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大学の合格祝いも兼ねて、

約10年振りに親戚の叔母さんの家に向かって、

徒歩で歩いていた僕は、

その道中で、スピード違反の改造バイクと激突。

乗っていた相手は19歳にして前科○犯という札付きのワル。

田舎なので目撃者ゼロ、

ナンバープレート無し、

無免許、車両は盗品、

安全ではなく顔を隠すためにヘルメット着用という犯罪慣れっぷり。

警官A「もっとも、逃亡資金を援助してくれるツテが

ないような奴です。

捕まるのは時間の問題でしょうな(苦笑)」

(※実際、およそ3週間後に隣県で逮捕された)

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僕はというと、全身を強く打ち、意識不明の重体。

1週間ほどICUでくたばっていたという。

発見者は、この手のパターン通り叔母さん。

偶然か必然か、近くで柿を収穫していたときに

倒れていた僕を発見してくれた。

叔母さんの家から現場までは距離があり、

周囲には民家がなく、

もし叔母さんが家にいたら助からなかったかもしれない。

と、そういうオチだった。

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当たり前のことだが、叔母さんは豹変していなかった。

ポリ袋?魔界? 道路から針?

ああそうか、確かにそんな内容だったなあ…

悪夢に魘されていた。

違うと思う。

夢だとは思えない。

僕の腹部から検出された、

頭髪と細かく砕かれた人骨。

医者も警察も首をかしげた。

叔母さんの旦那さんのDNAと一致した、

だからどうした。

僕は一般病棟に移ってから、

叔母さんに電話で深く感謝を述べた。

叔母さんは「会うのを楽しみにしてたんやけど~」

と言ってくれた。

僕も、会えなかったこと自体は残念だ。

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でも…

当分、叔母さんとは会わないようにするつもりだ。

色んな意味で。

そう、色んな意味で。

Concrete
コメント怖い
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@アンソニー 様
ありがとうございます。
実はあまり自信が無かった作品なのですが、
怖かったのなら一安心です。

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