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中編3
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腐臭

夏も終わりの9月上旬。

引越しが終わり、手伝ってくれた友人も帰って、家で1人のんびりしていたら、ふと台所洗剤を買い忘れていたことを思い出した。

越してきたのは築20年、5階建てエレベーターなしのアパート。502号室。

階段の登り降りが億劫だったので次の買い物の時でいいかぁとも思ったが、友人が食い散らかしていった皿を放置するのは気が引けた。仕方ない、、行くか。

階段をダルそうに降りていると、4階の階段に1番近い部屋のドアが半開きになっていることに気がついた。僅かに見えるその隙間からは、空のペットボトルと殺虫剤の缶が見えた。ドアは空き缶でつっかえてあった。

こんな暑いのに、クーラーつけずによくいられるわ、と思いつつそのまま階段を降りた。

臭い。

そう思い始めたのは、越してきて4日が経った頃。4階が異様に臭いのだ。明らかに何か生き物だった物が腐っている。そんな臭いだ。

すぐに怪しいと思ったのは常に半開きの405号室。閉じている所を見たことがない。

臭いはあそこからきている。そう思い始めたら、もうそうとしか思えなくなってきた。

俺はまだいい方だ。こりゃ、お隣さんなんか可哀想に。下手したらこの臭いが自分の部屋にまで入ってきてるんじゃないか??

ある日。バイトが終わり階段を登っていると、405号室のドアに、

「臭いんだよ。なんとかしろ。」

と、張り紙が貼ってあった。

さすがにお隣さんが痺れを切らしたか。と感心したその瞬間。

shake

ビタン!!!!!

ドアから毛むくじゃらの白い手が出てきて張り紙をグシャっと掴むとそのままドアの中に消えていった。

shake

ガタン!!!!

汗まみれの白い髭面の顔がドアの隙間にくっついた。

wallpaper:3980

男は俺を見るなりボソッと何かを呟いた。

ヒッ。血の気がひく。

これまさか、俺が貼ったと思われてんじゃねえよな。

「俺じゃないんですよ!その張り紙!」

言い終わる前にドアが勢いよくバタンとしまった。

separator

どうしよう。どうしよう。どうしよう。

それしか頭に浮かばない。

とにかく家に。部屋に帰ろう。

階段を駆け上がり、ドアに鍵を挿す。

入らない。ガチャガチャガチャガチャ

しまった、表裏逆か!ガチャガチャ

入った!ドアノブを引こうとした時、ふと405号室が脳裏に浮かぶ。

502号室からは、ドアから手すり越しに階段とその近くの405号室が見えるようになっている。

意を決して振り返る。

wallpaper:4427

405号室のドアが全開になっていた。

部屋は真っ暗だ。

あいつがいない。

考える間もなく身体が勝手に自分の部屋に入り鍵を閉めていた。

心臓がバクバクと鳴る。

バクバクバクバクバクバク

バクバクバクバクバクバク

バクバクバクバクバクバク

バクバク

shake

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン

shake

背中の扉がドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン

誰か。誰か助けて。

shake

ゴトン。

猛烈に匂う何かが郵便受けに入った。

郵便受けを開けると、なにかところどころ黒く変色した臓器のようなものが2つ転がった。

あまりの臭さに、思わず喉から吐瀉物が上がってきて、耐えきれずトイレに駆け込んだ。

ガタガタ震えながら夜が明けるのを毛布にくるまりながら待ち、朝一で大家さんに電話を入れた。

主語述語があべこべになりながらもなんとか昨晩のことを伝えると、大家さんは、

「今度は405号室の人ねえ〜いや〜ね?前にも他の住民の方から連絡もらったんですよ。でもこっちじゃどうしようもできないんですよ〜あははは」

こいつはなんで呑気に笑ってるんだ?

結局警察に連絡しても、「注意しときますね〜」としか言われなかった。

とにかく玄関に転がった臓器のようなものが臭すぎて、換気しなければとドアを缶でつっかえて少しだけ開けている。窓も全開だ。そうしなければとても臭くて寝れやしないから。

この話を書いている今も俺は部屋から出られない。だってあいつが、

ほんの少し開いたドアの隙間から、じっとこちらを見ている気がするから。

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