中編3
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勘違い

ついこの前、都内で友人とお酒を嗜んでいたら、気付くと終電もなくなってしまい、帰れるところまで電車で帰って、後はタクシーという手段を取ることにした。

幸いなことに最寄駅から3駅ほど手前まで行くことができて、タクシー代も安上がりだなぁなどと考えながらタクシー乗り場まで向かおうとした時、急に尿意が襲ってきたので、改札内のトイレで用を足すことに。

明日も早かったので、早足でタクシー乗り場まで行くと、丁度客を乗せたタクシーが行ってしまったばかりだった。

千葉の田舎駅なこともあり、一通り客を乗せてしまったせいか、タクシー乗り場はシーンとしていて、一人でタクシーが来るのを待つ羽目になった。

10分ほどしてタクシーが到着したので、乗り込み、「〇〇駅までお願いします!」と声をかけたら、50代後半らしき運転手が、小さく「はい。」と答えた。

走り始めてすぐに、

「旧道を通ったほうが近いので、そちらで構いませんか?」

と聞かれたので、この地域に詳しくない私は(最近一人暮らしを始めた)、分かりましたと言わざるを得なかった。

しばらくは大通りを進んでいたタクシーも次第に人気(ひとけ)のない道へと進んでいき、割増になっているメーターの上がり具合に苛立ちながら、

「こいつ、本当に近道してくれてんのか?」

と思い始めた頃、特にこちらから何も言っていないのに、運転手が1人でブツブツ喋り始めた。

何を言っているのかは聞こえないほどの小さな声。

身振り手振りも合わさっていて、なんだか気味が悪かった。

タクシーはどんどん人気(ひとけ)のない道を進んでいく。

私は、タクシーに乗った際、必ず質問していることがある。

今まで乗せた有名人と怖い体験談だ。

ブツクサ言っている運転手に、

「運転手さん。今まで乗せた人で誰か有名な方いらっしゃいます?」

と聞いてみたが、ガン無視。

相変わらず一人でブツクサ言うばかりで答える気がないことがわかった。

なんだこいつ…と思ったが、続けて、

「じゃあ、何か怖いはなs」と言いかけた時

鼓膜が破れるくらい大きな声で

shake

『あ"り"ま"す"よ"!!!!!!!!!!』

と。

私は恐ろしくなって、とっさに震え声で降ろして欲しいと言おうとしたが、時既に遅し。

運転手がニヤニヤしながら怖い話を始めてしまった。

その話がこうだ。以下運転手の話。

『むかーし。むかし。ある所に、娘を孕ませたあげく、自殺に追い込んだ1人の男がいたそうな。彼女の父親はその男を探すべく、タクシー運転手を始めてその男が乗ってくるのをずっと待っているそうな。めでたしめでたし。』

心臓が止まるかと思った。

こいつ。やばいやつだ。

そう思ってあたりを見渡すと、タクシーは建物のない平地を走っている。

私はすぐさま運転手に、

『なんなんですか!!ここでいいので降ろしてください!』

と告げ、釣りは結構とお金を払ってタクシーを降りた。降りるときに運転手は、

『すいません。』

とボソッと言うと、レシートを無理やり押し付けてきた。

タクシーは静かに走り去っていった。

微かに見える灯りを目指して歩いていると、見覚えのある景色が広がった。

なーんだ。ちゃんと〇〇駅に向かってくれてたのか。

それにしても、娘が孕んで自殺か…

本当だとしたら可哀想に…

ふとさっきもらったレシートに目をやった。

レシートの裏には白黒の私とよく似た男の顔写真が貼り付けられており、黒のマジックでこう書かれていた。

お前だろ?

15メートルほど後ろでクラクションが一回鳴った。

運転手が涙を浮かべながらニヤニヤしていた。

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