私は幽霊など一切信じない。
だって、もしそんなのがいるならどこもかしこもギュウギュウに渋滞しているだろうし、心霊番組や映画に出てくる幽霊たちは皆、服を着ている。裸の幽霊だっていてもおかしくはないでしょう?
それに私には家族がいるし、友達もいるし、彼女だっているんだ。幽霊なんかが関わる隙間はない。
まあとにかく、いざとなったら他力本願の私にとっては、そんな非現実的なものが絶対に信じられなかった。
ただ、もし。周りに誰も居なくなって、「一人」になってしまったら。
誰も助けてはくれない。そんな状況に陥ってしまったら。
これは私がある瞬間だけ、「一人」になってしまい、誰にも助けを求めることができなかった時に体験した、恐ろしい話です。
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ある冬の朝。
私は将来のことで当時付き合っていた彼女と喧嘩をし、一人落ち込んでいた。
仲直りはしたかったが、そんな雰囲気でもなく、しばらく距離を置きたいと言われてしまった。
家族は私抜きで四国へ旅行、一人暮らしなのをどれだけ呪ったことか…LI◯Eのトークは美味そうな魚介の写真で溢れていた。
とにかく私は彼女とのことで誰かに愚痴でも聞いてもらいたいと思い、近辺に住んでいる仲の良い友達に飲みに行かないか?と誘ってみるものの、みんな都合が悪いらしい。
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気づけば夕方になっていたので、作り置きしておいた惣菜とビールで適当に晩飯を済ませてボケっとしていると、ふと自分は一人ぼっちなんだという思いが込み上がってきた。
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すると頭の中で、最近見た心霊番組で霊能力者の言っていた、『霊は隙を見せるとやってくる』という言葉が、何度も何度も繰り返された。
私は気を紛らわせる為にゲームを開いてみたが、これといってやることもない。
その後もシャワーを浴びてみたり、本を読んでみたりしたが頭の中には『霊は隙を見せるとやってくる』という言葉が繰り返された。
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次第に私は、「一人は嫌だ」と思うようになった。私は徐(おもむろ)にテレビラックから、付き合いたての頃彼女にもらった手紙を読んでいた。涙がボロボロと溢れ出て、早く仲直りしたいと思った。
その瞬間耳元でハッキリと
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shake
「もう遅いよ」
と低い男の声が聞こえた。
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え?
涙に濡れた目を擦ると、辺りは真っ暗な海岸で、私の体は腰くらいまで海に浸かっていた。
寒々しく吹く海風が轟く。
困惑しながらも急いで砂浜へと引き返そうとして重い足を動かしていると、浜辺に5、6人の人影が見えた。彼らはこちらに向かって手を振っていた。
「おーい!そこで何してんだーーー!」
「大丈夫かーーーー!」
そんな声が聞こえて、助かった、と力の限り浜辺に向かって水を掻き歩いた。
向かっている間も、
「頑張れーーー!」
「早く早く!!!」
「あと少しだよーー!」
なんて言ってくれるもんだから、なんだか嬉しくなって、
「今行くよー!」なんて返事しながら夢中に泳いでいると、あれ、、、
浜辺に向かっているはずなのに、体は胸元まで水に浸かっている。
「どうして…助け」
そう彼らに声をかけようとふと目線を上げると、前には人影はおろか、砂浜すらなく、ただ真っ暗な海が広がっていた。
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ピンポーン。
玄関のチャイムの音で目が覚めた。
夕焼けが部屋をオレンジに照らしている。
どうやら寝てしまっていたらしい。
『〇〇ー!仲直りしたいの!私も悪かったよ、ゆっくり話し合お!』
ドアの向こうから彼女の声が聞こえ、ホッとしながら玄関まで行き、扉を開け、脇目も振らずに彼女に抱きついた。
私は安堵のあまり涙目になりながら
「ごめんね。許して欲しい」
そう言って彼女の顔を見ると、彼女は部屋の中をジッと見つめて、口をポカーンと開けている。
「どうかしたの?」
そう聞くと彼女は、
「人がいるならそう言ってよ!!もう!」
と怒って帰ろうとしている。
「何言ってんだよ。誰もいねえよ!」
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「はぁ?じゃあ居間でこっち見ながらゲラゲラ笑ってる男の人達は一体どなたですか????」
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shake
shake
shake
shake
作者ぎんやみ