長編10
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ガチャガチャ

カプセルのないガチャガチャを見たことがあるだろうか?

いや、きっとあるだろう。

可愛いキャラがお辞儀をしながら『準備中!お金を入れないでね!』とか、『準備中です』とだけ書いてあるようなもの………色々あるだろうが、本質はソコではないから、貴方が見たことがある準備中で中身が空のガチャガチャを想像して欲しい。

さて、インドア派な私の狭い行動範囲にもそんなガチャガチャが常にあった。

可愛いキャラが書かれてるアレだ。

買い物の帰りに、何か新しいガチャガチャは無いかと探すのが私の日課だった。

私はガチャガチャが大好きで、バックはキーホルダーが所狭しと吊るされ、友人からはガチャガチャマンと呼ばれたこともあり、私はソレを誇りに思い、自ら名乗ったこともあった。

特に、アホのようなガチャガチャが好きだった。

話が逸れてしまった。

ある日の事だ。

私がいつも通りガチャガチャコーナーを眺めていると、その端っ子の方に中身が空っぽのガチャガチャがあった。

準備中のソレを見て、次はどんなガチャガチャが来るのか考えていたが、ふと1つ気になる事が浮かんだ。

「コレ、お金いれたらどうなるんだ?」

最近では、中身がなくなると自動で『売り切れ』と書かれたプラスチックが、弧を描くように落ちてきて、コイン投入口を塞ぐ最新のガチャガチャがあるのだが、

そのガチャガチャにはそれは無く、子供の頃からの(と言っても、まだ私はギリギリ十代なのだが)馴染み深いガチャガチャだった。

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一度気になると、やってみたくなるのが私の性だった。

果たしてこの空っぽのガチャガチャにコインを入れた場合、コインは自動的に返却口へ出るのか?それとも、戻ってこないのか?

恐らく戻ってこないだろう。

だから、お金を入れないでねというイラスト付の紙が張られてるわけだ。

だが、もしかしたら店側__もといガチャガチャを作った会社はソレを見越していて、自動的に返却口にコインが戻る仕様にしているかもしれない。

なんだかワクワクしてきた。

ガチャガチャマンVSガチャガチャ会社の世紀の勝負の瞬間であるように私には感じられた。

コインは戻らない。きっと戻らない。

私は100円玉を一枚だけ財布から取り出し、ガチャガチャの投入口に押し込んだ。

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カコン,と小気味良い音をたてながら、コインは投入口の闇の中に消える。

勝負の分かれ目だ。

コインが戻るか否か。

胸が高鳴る。

手に汗握る。

はたから見れば、些細な勝負だが、ガチャガチャに謎のプライドがある私にとっては武士の真剣勝負の様なものだった。

待つこと、数秒。

コインは、戻らない。

勝った! と心の中で歓声を上げ、マスクの下で口をニヤニヤと歪めながら小さくガッツポーズをとった。

さてさてと、満足した私は100円を取り戻す為に返却ボタンを押した。

反応はない。

おや?と思い、もう一度押してみる。

反応はない。

仄かな焦りが、手のひらを通して背筋に届いた。

いやいや、有り得ないだろう。

返却ボタンを押せばお金が戻ってくるシステムなのだ。

データで管理されてる未来のガチャガチャならバグだなんだと言えるが、コレは昔ながらの機構を受け継いでいる

__謂わば、カラクリなのだ。

しかも、中身の無くなったガチャガチャの内側の機構をいちいち弄って、お金を入れたら戻ってこなくする等とする筈がない。

その行為事態が手間であるし、仮に子供が私と同じような行動をしてお金が戻ってこなくなれば、店員さんを呼ぶだろう。

コレも店側からしたら余計な手間だ。

などと、頭の中で現状を否定する理論をこねくり回しながらボタンを連打し続けたが、100円は戻ってくる気配がない。

店員さんを呼ぼうか?

と一瞬考えたが、何と言えばいい?

私はガチャガチャが大好きです。

空っぽのガチャガチャにお金を入れたらどうなるか気になったので、やってみたらお金が戻ってこなくなりました。

返してくれませんか?

………………ダサすぎる。言える筈がない。

だいたい小学生なら微笑ましいが、私はギリギリ十代なのだ。ドン引かれる………。

もうコレは仕方ない。

スッパリ諦めて、この100円はこの店の募金ということにしようと考えた私は、どうせ返ってこないならとガチャガチャのノブを回した。

ガラガタガラと中でプラスチックのカラクリが動く音が聞こえた。

このノブを回してる時が個人的には好きだった。

プラモデルを完成させるより、組み立ててる時の方が楽しいのと同じ理屈だと私は思っている。

shake

__ガコン!

音がした。何かが落ちる音。この一連の動作の後に必ず響く聞きなれた音だった。

だが、私の思考は止まった。あり得るはずが無いからだ。頭は理解してる。

ソレが、その音が響くはずがない事を!それでも、私の耳は確かに拾っていた。その響く筈のない音を。

私は、受け取り口に手を伸ばした。

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ソレは、静かにソコに鎮座していた。

受け取り口の奥、今までのカプセルがそうであったように、

当たり前のように、

我が物顔で、

静かに静かに、

私の手が迎えに行くのを待っていた。

私は、驚きが大半を占める心のまま、ソレを取り出してしまった。

真っ黒なカプセル。

第一印象は、それだけだった。

手のひらに収まる程度の、大きすぎでも小さすぎもしない。この世の大半のガチャガチャから出てくるサイズのカプセル。

もしかして、売り切れでは無かったのだろうか?と考えが浮かんだが、すぐに振り払った。

まだ利益を残したまま売り切れなんて表示はしないだろうし、仮に人気が無さすぎて回収されたとしても取り逃す事なんてあるのだろうか?というか、そもそも私は中身が無いことを事前に確認済みだ。

では、このカプセルはなんだ?

自問自答。

答えなど出ない。

私は、そのカプセルを観察してみた。

すると、おかしな点が幾つか見つかった。

まず、プラスチック特有の光沢が無い。黒色のカプセルなんて、そんなもんだよと思われるかもしれないが、違うのだ。 光を反射しないのだ。

少なくとも普通の黒カプセルなら、反射せずとも光で何処かしらは照る。だが、コレにはそれがない。ただただ黒いのである。まるで、光を吸っているように……………。

次に、冷たい。

そう、ここだ。

これを感じ取った時点で私は、この不吉極まりないカプセルを投げ出し走って帰れば良かったのだ。いや、今さら言っても遅い。

残念なことに、私はこのカプセルに興味を持ったからだ。

そのカプセルは冷たかった。何処までも冷たかった。まるで、氷河の中から現れたような冷たさだった。

背筋に嫌な汗が、じっとりと浮き始めた。だんだんと恐怖が膨らんだ。

コレは、何なのだろう?

光を反射しない黒く冷たいカプセル。

頭のなかに、都市伝説だとか、ホラーだとか、怪異だとか、そんな言葉が浮かび上がり、カプセルを開けた瞬間、おぞましい化け物が這い出てくる光景が浮かんだ。

私の本能は警鐘を鳴らしたが、私は馬鹿馬鹿しい。

こんなのものは、ただ怖がって変な妄想を脳が膨らませてるだけだと一蹴し、観察を続けてしまった。

そして、振った。

音はない。

無音だ。

耳を近づけてもう一度振ってみる。

…………無音。

もしかして、空っぽのカプセルか?

と疑問が思考を掠める。私は拍子抜けするその考えを逃さずに、脳に叩きつけた。

ほらな?ただの嫌な妄想に過ぎないんだよ。

中に化け物も何もいないんだよ。

コレが出てきたのも何かの偶然。

きっと店員の忘れ物だ。

黒いから、影と同化して見えなかったんだ。

冷たいのは、きっと店の暖房が届かない端にガチャガチャの台があったからだ。

私の理性は捲し立てるように考え、そして私の本能を嘲笑った。

また振る。

耳元に近づける。

無音。

振る。

無音。

振る。

無音

ドッと疲れが腹の奥にのし掛かった。

それと同時に自分の不甲斐なさに笑いそうになりつつ、安堵の息が漏れた。

私は間抜けだった。

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shake

『ァ…………ェエエエ…………』

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何かが鳴いた。

耳元で、鳴いた。

耳元にあるのは、カプセルだった。

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ドキンと、胸が怯えた。

なんだ?なんだ?今の、なんだ?何が、いや、な、え?

頭が混乱したというより、思考が停止しかけた。

何かが聞こえたのだ。たぶん、聞こえてはいけない。ソコから、聞こえてはいけない鳴き声のような音。

私は耳をすませた。きっと聞き間違いだと思ったから。何かの、風とか、空調の音とか、何かと聞き間違えたからだと思いたかった。

『ァ……………………………ェ……』

聞こえた。

聞こえてしまった。

聞こうとするべきじゃなかった!

逃げよう!!逃げなければ!!!

本能が叫んだ。理性は顔を引っ込めた。

カプセルを投げ捨て、走ろうとした。

___動かない。

腕が、脚が、動かない。

カプセルを耳元に添えるような体制から、動けない。

まるで、身体が置物に成り代わってしまったような、

心はすぐにでも逃げようともがくのに、

心臓が胸のなかで震えるのに、

骨も筋肉も言うことを聞かない。

『ァ………………テ…ェ………エ』

また、何かが聞こえる。

耳元のカプセル。

何もない筈の、空っぽの筈の、カプセルから声が……………声?

どうして、声?

私は多分、本当は解っていたのだろう。

耳をすませていたから、それが、何と言っているのか。

『ア……………エ………テ………エエ』

そして、小さかった声は、最初に比べて大きくなっていた。

『ァ………ケ……エ………テェ………』

また聞こえた。

大きくなる。

動けない。

カプセルの中。

『ァ………ケ………エエェ………テ………エエェェ』

ハッキリとしてきた。

格段に大きくなってる。

逃げたい。

逃がしてくれ。

助けて。

誰でもいい。

『ァァア…………ケェ………エエ………エテエエエ』

ハッキリ、聞こえた。

まずいまずいまずい!

shake

『ァアアァアアアアアケェエエェェエテェエエエエ??』

あどけない子供のような声が混じった叫び。

閉まったドアの向こうにいる友達に、声をかけるような抑揚。

どうして、どうして何十人もの子供の声が……まるで、怒鳴るように悲鳴を上げるように…カプセルかr ……………え?

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身体が、動いた。

否、身体が動く。

意思に関係なく。

カプセルの上部と下部をゆっくりと俺の手が包み込んだ。

瞬間、次に自分が起こそうとしている行動が、

あまりにも恐ろしいその行動が、

容易に考え付いた。

shake

「やめろ!!!」

叫んだ。叫んだ筈だ。

叫んだのに声が出ていない。

出たのは掠れた蚊の羽音のような声。

そして、その叫びに被せるようにカプセルからアケテアケテと声が響く。

腕に力がこもる。

カプセルをねじるように、左右の腕が反対方向に動く。

ダメだダメだダメだダメだ!

アケテアケテアケテアケテ……

腕が回る。

全神経が筋肉と骨の動きに逆らう。

産毛が逆立ち、全身から汗が吹き出る。

腕は止まらない。

泣き叫びたかった。

次の瞬間、カプセルを包んでいた手から力が抜けた。

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パコ

軽い音がした。

とても軽い音。

直感が告げる。外れてしまったのだ。

カプセルが、最後の砦が、二つに割れてしまった。

脱力。

膝から私は崩れ落ちたと同時に、カプセルがココンと音をたてて転がった。

私は地面に両手をつけ、大きく息を吸った。

地面に手をつける前に見えたカプセルの中を反芻しながら。

____カプセルは空だった。

何も入っていなかった。

化け物など、怪異など、何も、何も無かった。

だから

きっと

今、目の前にある

水浸しの地面も

ソコから続く足跡も

私には関係ないし、何の責任も無いのだ。

私は起き上がった。

足が覚束ない。

フラフラと、まるで綿にでもなったかのような脚をひたすら動かし続ける。

この場から、離れるために。

何もなかったように、暮らすために。

私は、逃げた。

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あの日から、何年過ぎ去っただろうか?

あの、白昼夢として片付けたつもりの記憶は、今もまだ私の中で生きている。

今思えば、ただ見えていなかっただけなのかもしれない。

カプセルから産まれたのか、やってきたのか、それは解らないが、カプセルの中に居たそれは幽霊などの類いで、霊感といわれるものがない私に見えていなかっただけなのではないだろうか?

もしも、もしも霊感があったのなら、あの無数に散らばった子供の足跡の先に何があったのか解ったのだろうか?

いや、考えるだけ無駄だ。

仮に、そのカプセルの中の何かを解放し、街に解き放ってしまったとしても、私には何も見えない。何も聞こえない。

ただ、大きな水溜まりと無数の足跡が出現しただけの話なのだ。私にとっては。

仮に、その足跡の内の1つが私の行く先々に現れては私の後ろを歩いたとしても、私には、関係ないのだ。

Concrete
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