中編3
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怪奇談話【敬礼】

私の体験談です。

私はとあるバス会社に勤めてました。

元々は別の業種で働いていましたが、色々あって転職してきたんです。

前職では車の運転なんかなく、ペーパードライバーでしたが苦心の末二種免許を取り無事乗務することになりました。

でもいきなり運転できるわけではなく、最初は先輩ドライバーのバスに乗りながらルートを覚えたり接客になれる研修から始まり、それがとても大変でした。

この時私の研修を担当して下さったのはTさんという方で、もともと自衛官であり退職してから資格を活かして再就職をされた方でした。

真面目で無骨でめったに笑わず、正直同僚からは煙たがれていましたがお客さんからの感謝の手紙や電話が来るほど仕事に対して情熱を持った立派な方です。

今思うと不思議ですが、私はTさんから非常に気に入られ職場外では家に招かれて食事をするなど可愛がっていただきました。

ある時、私は彼がいつも車庫を出庫する際に必ず入り口に横に向かって敬礼をしている事に気づいたんです。

毎回、必ず絶対欠かすことがないんです。

それもそのはず。彼は車庫の出入り口に立っている警備員さんに向かって敬礼を返していたんです。

当時私は他の乗務員はそんな事を一切しないのに不思議だなと思っていました。

そしてある時、Tさんのお宅で食事とお酒をご馳走になっている時不意に「敬礼はされたら必ず返さないといけない。これは礼儀だ。覚えておきなさい。」

そうおっしゃったんです。

私はTさんと出会って初めて生のビシッとした敬礼を見たので正直ピンときませんでしたが、(真面目なTさんが言うんだから間違いない。)と心に留めておきました。

そして、独り立ちして出庫の際には必ず警備員さんの敬礼に対して、返礼の意味も込めて敬礼を返していました。

それから数年が経ちTさんは会社を退職されたのですが、すぐに体を壊して亡くなってしまいました。

奥さんに呼ばれて葬儀や出棺にも立ち会わせて頂き、最後の別れをしました。

可愛がっていただいた先輩を亡くししばらく落ち込んでいましたが、それでも仕事は続きます。

ある時同僚の運転手から「お前なんでいつも敬礼してるんだ?」と聞かれTさんとの出来事を話すと、同僚は若干顔を引きつらせながら「そうか。ただもうTさんはいないんだから、堅苦しくする必要ないぞ」と言われたんです。

最初は意味がわからず、しばらく経ってから同僚に訪ねたところ「お前が敬礼している警備員ってのは存在してないんだ。みんな気味悪がってるぞ。先輩方も言ってた。なんであの二人はいつも敬礼をしてるんだ?って。」

そうなんです。私とTさんに見えていた警備員さんは幽霊だったんです。

確かに言われてみればおかしいです。毎日から晩まで毎日同じ人が立っているし、私が最初に見かけた時点でそこそこの年だったのですが、その頃から一切老けてないのです。

しかし私はそれからもTさんの教えを守り、バスの出入りを見守り続けている彼に敬礼を返し続けました。

もう何十年も前に私はその会社を定年退職しましたが、今でもTさんの墓前に行き、掃除をして敬礼をしています。何故なら墓前に立つと不思議とTさんが敬礼をしてくれている気がするからです。

そして毎朝今も立ち続けているであろう、あの警備員さんにも心の中で敬礼をしております。

礼儀って大切ですね。

皆様も是非誰に対してもしっかりと礼儀を守って接してあげて下さい。

老いぼれの長話に最後まで付き合い頂き、誠にありがとう御座います。

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@あんみつ姫 様
この度はお目に留めていただき誠にありがとう御座います。
おお!それは皆様とても立派なご職業ですね。心より尊敬致します。

ありがとう御座います。
まだまだ活躍という活躍はできてないのですが、趣味でのんびりとやらせて頂いております。

あんみつ姫様もお身体に充分御自愛ください。
コロナや災害等様々な国難で試練の年ですが、いつか晴れ間がすることを祈って乗り切りましょう。

誠にありがとう御座います。

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