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21年08月怖話アワード受賞作品
中編5
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「ようこそ ここへ」

「なんだ、怪談投稿サイトかよ。」

偶然訪れてしまったサイト。

トップ画面には、それらしいタイトルと、陰鬱な雰囲気の画像が投稿順に並んでいる。

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それにしても、「ようこそここへ 」は詐欺だろう。

せめて、「身の毛もよだつ」とか「ほんとうにあった…」とか、それとわかるタイトルにしてくれないと。

出会い系サイトと間違えてしまったじゃねぇか。

まぁ、スケベ心を抑えきれなかった俺も悪い。

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真夏でもあるし、明日は、仕事が休みだ。

時計は、夜の9時を少し回ったところ。

今宵は熱帯夜。

2つ3つ 怪談話でも読んで涼むとするか。

とはいえ、人一倍ビビリの俺。

アルコールの力を借りることにした。

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プシュ

うまい!

冷えた缶ビール片手に 俺は、できるだけ短めの話をチョイスすることにした。

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『扉の向こうに』

宅配屋の兄ちゃんの体験談だ。

届け先の階に止まったエレベーター。

降りようとするも、扉が空いたその先は、漆黒の闇。

かろうじて見える空は、オレンジ色に塗りつぶされている。

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異常を察知した兄ちゃんは、同乗者と相談する。

降りるか、そのまま乗って一階に戻るか。

兄ちゃんともうひとりの同乗者は、一階に降りることにした。

ところが、もうひとりの同乗者は、その階に降りてみるという。

お互い一か八かの賭けに出たってわけだ。

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兄ちゃんは、そのまま一階のボタンを押し、無事に着くことができた。

一階では、特に変わった様子もなく、兄ちゃんは、念の為、時間を置き、再度エレベーターへ乗り込むことにした。

今度は、エレベーターは問題なく作動し、無事配達を終えて帰ることができたという話だ。

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ところが、この話は、これて終わらない。

兄ちゃんは、後日、異常と知りつつも降りた同乗者が行方不明になっていることを知る。

その人は、二度と戻ってこなかった(らしい)。

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どうせ、作り話だろう。

毎日数回エレベーターを利用する身としては、いささか薄気味悪かったが、これといって怖さは感じなかった。

予定では4分程度の話だというが、2分足らずで読了する。

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チン!

おや?

どうやら、マンションのエレベーターがこの階に到着したようだ。

今時分、ご帰宅とは。

コロナ蔓延しているっていうのに。

随分ゆっくりだなぁ、

まぁ、今日は、金曜日だしな。

独身の俺には、どーでもいい話だけど。

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それにしても、タイミング良すぎ。

そもそもこのマンションのこの階は、何世帯 総勢何人住んでいるんだろう。

ここに越してきてから数年経つのに、そんなことも知らない俺。

少し涼しくなるも、気にせずピールを口に含む。

んじゃ、次行こう。

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『呼ばれる』

これは、さっきの話より少し長かった。

この話の舞台であるG県は、俺の出身地。

ただ、それだけの理由で読むことにした。

8分程度で読める実話らしい。

いちいち実話と断ること自体、胡散臭いんだが。

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夏休み、G県の心霊スポットを訪ねた大学生三人組が、怪異に遭遇した挙げ句、ほうほうの体で戻ってくるという話。

心霊スポットものでは、あるあるなのだろうが、こいつらときたら、祠(ほこら)の札を剥がしたり、地蔵を倒して壊したり。とまぁ、過失とはいえ罰当たりな言動の数々。

無神論者の俺でさえ、神仏の怒りを買うのは、当然の報いだろうと思う。

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ラスト、この中で、唯一、まともだと思われる者ですら、

「違う!違うんだ。俺達は、自分たちの意思で来たんじゃない。最初からここに来るように、山に呼ばれていたんだ。仕向けられていたんだよ。」とぬかしやがる。

勝手に後付けしやがって。

いまいましいとばかりにビールを煽る。

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文章の綴りがイマイチで、状況把握に一苦労。

加えて、誤字脱字、表記の誤りの多さに辟易し、読了するのに10分以上かかった。

大体、こういうところに行くやつは、総じて「バカ」が多い。

俺みたいな官公庁に務める優秀な人間は、こんな場所には行かない。

時間はもっと有効に使うものだ。

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「招かれた」だと。

ふざけたことを言うもんじゃァない。

義憤に駆られた俺は、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、口を開けた。

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まさに、その時、

っ、い、痛てぇ。

指先に激痛が走った。

いつの間にか左の人指し指から血が流れ出ている。

さては、プルトップにでも引っ掛けたか?

とりあえず、傍らにあった箱テッシュから一枚取り出し、指先を保護しようとした。

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バシャーン

たった今、開けたばかりの缶ビールが、テーブルから滑り落ち、辺り一面に溢れ散った。

(ちっ!まいったな。俺としたことが、迂闊だった。)

俺は、両手に浴びたビールを振り払おうと、大きく三度手を振った。

それから、溢れたビールの後始末もそこそこに、大急ぎでバスルームに行き、シャワーを浴び、指の傷の手当をすることにした。

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指の傷は、大したことはなさそうだった。

出血も、そう多くはない。

既に、収まっていた。

ところが、今度は、そことは全く違う場所、手の甲がヒリヒリと痛み出し、みるみるうちに赤く腫れ上がって来た。

思わず、左右の手の甲をすり合わせてみる。

気のせいか、痛みが少し和らいだような気がした。

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「明日は、休みなのに。病院かよ。」

まいったな。

俺は、腫れ上がる手を眺めながら、つぶやいた。

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このあたりで、気分を変えよう。

口直しに、次の話でも読むか。

三度目の正直、

1分で読める話か。

『てをふる』

よし、これが最後だ。

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あいちゃんのゆびから ちがでていた。

べつなところは、なんともない。

こまったなぁ。

ベンチにすわって てをふるのはやめてね

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いちばんめ

にばんめ

さんばんめ

よんばんめ

よめたかなぁ。

たて、たて、 たてだよ

てはふるの

たってふるの

てとては はんたいに こすりあわせるの

わかったひとえらーい

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なんだ?この話は。

書いたのは小学生か、幼稚園児か。

それとも、意味怖ってやつかよ。

バカバカしい。

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いや、まてよ。

さっき無意識に左右の手の甲を擦り合わせたことを思い出す。

嫌な汗が流れ、俺は、傍にあったビールの空き缶を握りつぶした。。

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『てをふる』

二度三度と繰り返し読む

なにが言いたい。

そもそも、意味がわからない。

たて たて 縦読みしろってことか。

なんだよ。これ。

やばい話なのか。

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そういえば、いつだったか。

最恐に怖い実話という話を、人づてに聞いたことがあった。

あの話のタイトルは。たしか…。

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ピンポーン

外のインターフォンが鳴った。

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ーようこそここへ クックック♪

(だ、だれだ お前)

ボイスチャンジャーのような無機質な声が耳元でささやく。

ーお気づきになられましたか。ー

ーあなたは、ラッキーな人ー

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ー見事3つのお話にヒットしただけでなく 全て読み終りましたねー

ーその上、かなり難解なセオリーをクリアしー

ー見事あの世への切符を手にしました。ー

ーさぁー

ーお迎えがお待ちです。ー

ーエレベーターは、さっきから開放し貴方様を乗せるため空けたままにしています。ー

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ーえ?怖くて歩けない。ー

ーえぇ、えぇ、そうでしょうよ。ー

ーでも、大丈夫 お仲間が全員お供いたしますよ。ー

ー今日は、お盆です。ー

ー特別な日ですから。ー

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お読みくださった皆様、
怖いの評価をくださった皆様
ありがとうございました。
後ほどお礼に参りたいと存じますが、諸般の事情があり、すぐにお尋ねすることができません。今しばらくお待ちくださいますようよろしくお願い申し上げます。

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とっても面白かったです。たっぷり時間かけて考えて、意味がわかってゾッとしました。謎は解けたけど、傍らのかき氷も溶けてました(笑)

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