私が新卒で働いていたホテルでのお話です。
私は大学に進学せず就職しました。家庭の経済的な理由で下のきょうだい達もいたため大学進学は諦めて産まれ育った田舎から離れ都心部へ引っ越し、卒業前に内定を頂いた◯◯ホテルで働くことになりました。
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ホテルで仕事とは華やかなイメージがあるかと思いますがそれはごく一部で、実際はかなりな肉体労働です。
私が配属された料飲サービス課はレストラン営業だけでなく
宴会場のセッティング(人数に合わせたテーブルを運び、食器をあらかじめ用意する)や結婚式や葬儀の際の会食etc
とにかく多岐にわたってなにかしらがあるわけです。
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まあ、とにかく忙しい。朝の7時に出勤して翌日のセッティングを終えたら23時で終電もなく、仕方なく従業員割引で空き部屋に泊まるなんてザラにありました。
なんて愚痴みたいな話は置いといて本題に入りましょう。
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皆さん、ホテルのエレベーターって乗ったことありますか?
足元はふわふわの絨毯でピカピカに清掃された手すりと背面に背面には全身が映る鏡。
それはお客様用のエレベーター。
私が体験したのはお客様がほぼ100%使わない従業員用のエレベーターでの事です。
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私が働いていたホテルでは地下1Fに大厨房があり3Fに小宴会場が8部屋、12Fにレストランと大宴会場がありました。
私の仕事は大厨房から宴会場やレストランへ料理を運ぶ仕事がメインでした。
冷たい料理を運ぶときはコールドと呼ばれる移動式の冷蔵庫(ファミリー向けの冷蔵庫にキャスターが付いている、重い)で運び
温かい料理のときはウォーマーと呼ばれる保温機能のあるコールドより重い物を引っ張りながら運びます。
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このコールドとウォーマーをひっぱりながら1日に何十回も大厨房と宴会場やレストランを往復するのです。
コールドの時はまだマシなのですがウォーマーは中を90℃に設定しているためウォーマーを連続して運んでいるときは本当に汗だくです。
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その日も何回目かわからないほど往復したときのことです。
大厨房からウォーマーを2台エレベーターに詰め込んで3Fと12Fに運ぼうとしていた時。
私はB1Fのエレベーターホールで汗を拭きながらエレベーターを待っていました。
夕食の時間帯で一基しかない従業員用のエレベーターは12Fと3F、フロントのある1F以外はだいたい止まりません。
その時はたまたま12Fにエレベーターがあったため、ちょっと一息つけるなあ、と思っていました。B1Fはホテルスタッフしか通らないフロアでエレベーターホールにはジュースの自販機がありました。
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私はポケットの小銭でペットボトルの緑茶を買ってエレベーターを待っていました。ゴクゴクと一息に1/3ほど飲んで余りはポケットにネジ込みました。
エレベーターは12Fから止まらずに降りてきているみたいで9F→8F→7Fと順調に降りてきていました。
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ところが、6Fで何故か止まりました。
あ、施設さん(メンテナンススタッフ)が乗ったのかな?と思い別に気にも止めませんでした。
施設さんは客室や大浴場のメンテナンスを行う人で24時間誰かしらホテルにいます。
施設さんがいるならエレベーターは一度B2Fまで行っちゃうかなー、と思っていました。
エレベーターはまた動き始め、5F→4Fと淀みなく下がって来ました。
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そのままB1Fにたどり着き、B2Fに行くと予想していた私を裏切り私の目の前でエレベーターの扉は開きました。
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中には誰も乗っていませんでした。
あれ?おかしいな?と思いましたが6Fで止まっていたのは見間違いかと思いウォーマーを積んで3Fと12Fへ。
3Fのエレベーターホールで待っていた同僚にウォーマーごと料理を渡して私はそのまま12Fへと上がっていきました。
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残っていたお茶を飲みながら12Fに到着するのを待ちました。
4F、5Fと上がっていきエレベーターは減速。
ん?どした?と思うとエレベーターは6Fで停止。
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エレベーターの扉はゆっくりと開きます。
4Fから11Fまでは客室で、エレベーターホールはリネン室と兼用になっています。
そもそも4Fから11Fまでに泊まるのはほとんどが午前中から夕方までで客室清掃のパートのオバチャン達しかエレベーターには乗りません。
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エレベーターの扉の隙間からは非常灯の頼りない緑の明かりが点いてるだけで真っ暗でした。
当然、誰もいません。
急いでレストランまで料理を運びたい私は[閉]ボタンを連打していました。
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扉が完全に開いたのと同時に閉まり始めます。
早く閉まれよ、と思う私。
扉が完全に閉まると
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shake
「バン!バン!バン!」と扉を手で叩く音が外から聞こえます。
思わず「うわっ!!!」と声が出てしまいました。
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その後、エレベーターは止まることなく12Fへ到着。
私は料理を渡してまたB1Fへ向かいました。
エレベーターはまだ私が乗ってきたまま12Fに残っていてそのまま乗り込みまた地下に降りていきました。
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また6Fで止まると嫌だなあ
とか思いながら下っていきますがその心配もなくB1Fへ到着。
大厨房に入り、ウォーマーのコンセントをさして内部を温め直しました。
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料理のオーダーも止まっていたのか大厨房はまったりした雰囲気でした。
私は洋食の料理長に先程6Fでエレベーターが止まったことを笑い話として話しました。
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料理長「あー、それねwこのホテル結構出るんだよw」
と笑いながら言いました。
私、ポカーン
料理長「かなり昔、6Fのリネン室で当時の施設さんが首吊ってたんだってよ。なんでもストレスで病んでたみたいだって話」
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私の働くホテルは古い建物で、私が働く前は✕✕ホテルという名前でしたが経営破綻して経営が変わり◯◯ホテルとなったのです。料理長が言っているのはおそらく✕✕ホテルの頃の話でしょう。
料理長「フロントのHは✕✕の頃からいるから詳しい話知ってるんじゃないかな」
私「あー、そーなんスねw」
と他愛のない返事しかできなかった。
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その後も忘れた頃にエレベーターは6Fで止まりあの緑色の頼りない明かりを見せてきた。
もちろん、誰もいない。
私はそのホテルを辞めてしまったが同僚はあのホテルでまだ働いている。
この話を投稿しようと思いたったときに久しぶりに連絡してみた。
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私「よー、久しぶり。元気してる?」
同僚「なんだよ?びっくりしたわwお前こそどーなんよ?」
と挨拶もそこそこに本題を訊いてみた。
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私「従業員エレベーターがさ、誰もいないのに6Fで止まることあるじゃん?あれって未だに健在なん?」
shake
同僚「え?なに言ってんの?止まったことないよ?」
作者涼。
私の実体験です。
初投稿なので誤字脱字はご愛敬としてください。