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中編4
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狂家族

私は父の、すべてが嫌いで、小さい頃から、母と無視した。

母はとっても、可愛くて美人で、父はとっても、不細工だった。

私は本当に、不幸で可哀想、女の子なのに、父にそっくり。

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私は父を、無視していたけど、母はどっちにも、興味がなかった。

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私の夢は、お花屋さんで、綺麗で優雅な、花に囲まれて。

お客さんは言う、あれをください、私は笑顔で、これもどうぞ。

ある時かっこいい、男の人が、白く長い指で、何かをさして。

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僕が欲しいのは、この花ですって、その指の先には、私の笑顔。

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母は私のことが嫌いで、私は父のことが嫌いで。

もちろん母も、父が嫌いで、私はそれだけで、父に勝った気がした。

私は母に、好きでいて欲しくて、母の嫌いな、父を嫌った。

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父は優しくて、私の頬を撫でて、可愛いなんて言う、父は凶悪で。

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ある時父は、私の好きな、イチゴを買って、仕事から帰った。

そのイチゴには、罪はなかったが、どうせなら母と、摘みに行きたかった。

私は父の、笑顔を見るのが嫌で、自分で洗って、無言で食べた。

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父はなんだか、歪んだ顔に、私はなんだか、愉快な顔に。

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しばらくの間の、母は機嫌よく、私はよくやったと、頭を撫でられる。

私の髪は、ぐしゃぐしゃになって、そんな私を見て、母は笑った。

一体誰に、似たのかなんて、そんなこと言わないで、できることなら。

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たとえ大声で、笑っていても、少しも不細工じゃない、母みたいになりたかった。

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母は昔は、貧乏だったみたいで、父はとっても、お金持ちだった。

だから母が、結婚したのは、父とじゃなくて、フクザワユキチ。

お金持ちになった母は、ユキチとじゃなくて、醜い父と、子供をつくった。

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私の父は、私をつくったけど、フクザワユキチは、何をつくったの?

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ある時母は、男と手を繋いで、私の通学路を、堂々と歩いてた。

私はその後ろで、隠れてる父のことを、母に気づかれないように、こっそり見ていた。

父は羨ましそうに、自分の妻の、熱いキスと抱擁を、じっと見ていた。

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父の顔と、おそらく私の顔は、今まででいちばん、不細工になった。

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父の母への、態度は豹変、仏から普通の、人間に戻した。

私はすっかり、社会人が板について、好きな食べ物も、イチゴじゃなくなってた。

私は父も、母も嫌になって、「家を出ていく」と、泣いて喚いた。

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そんな私に、初めて母が、しがみついて言った言葉、「私を一人にしないで」

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ある時父は、母が畳んだ、Tシャツとズボンの、シワを嘆いた。

それを見て私は、父の手にある、Tシャツとズボンを、奪うようにとった。

私の髪が、ぐちゃぐちゃになるくらいに、Tシャツとズボンで、床を叩いた。

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Tシャツとズボンの、シワは取れたが、父の顔を見たら、ぐちゃぐちゃだった。

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ある時私は、恋に落ちて、男も知らぬ間に、恋に落ちてて。

気づいた時には、私は裸で、隣の背中に、寝息を聞いた。

私の股には、白い何かが、私の中から、出ていこうとしていた。

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男は言った、今度も会おうよ。私は言った、次は出さないで。

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気づけば私は、大勢に囲まれて、花も蕾も、奪われていた。

こんな私に、群がる蜂は、どれもみんな、羽なんてなかった。

私は昔の、夢を思い出した。花屋で選ばれる、私という花の、

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最盛期はきっと、いまかもしれないと思った時、男たちの寝息は、いびきに変わった。

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私は散るらん、一輪の花。

それでも産むよ、一握の希望。

(そして、赤ん坊の産まれる声)

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私の中で、何かが弾けた。私は死ぬほど、泣いていたんだ。

そんな私の、声に反応してか、ひとつの命が、泣いたんだ。

まんまるな瞳、薄い唇、全部私には、ないものだった。

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私はそれでも、大切にしたかった。私以外の、全部が愛おしかった。

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私は母との、約束守った。私はこの家、出て行かなかった。

この家には父と、母と私と、そして母に似た、小さな女の子。

私は死んでも、この子を守るよ。初めて私は、生きる意味を知ったんだ。

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私は母として、この世に産まれ落ちて、同じ命とともに、同じ歳をとる。

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今朝、私がベランダ見ると、狂った父が、布団叩きしていた。

父の力いっぱいの腕には、私の大事な、赤ちゃんがいた。

小さな体で、泣き声もあげず、ただ失禁の跡、布団濡らしてた。

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父は布団を、乾かすために、さらに力いっぱい、腕を振った。

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私は後悔、何度も、したが、可愛いあの子は、墓の下。

私とあの子は、不細工な顔と、不細工な心に、殺された。

そして、初めて、親の気持ちわかった。私は、父から、教わったんだ。

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可愛さ余って憎さが百倍。先に死んだ我が子よりも、私は不孝者。

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母が死んで、父も死んだみたいで、私はそれでも、生きてみるよ。

歳をとれば、みんな不細工。私は私なりに、笑ってみるよ。

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