みなさんは「夢」について考えたことはあるでしょうか。
一般的に「夢」には、眠っている時に見る夢と、起きている時に見る夢の2つあるといわれています。
…もし、あなたには誰にも譲りたくない夢があって、その夢を「夢」の中で叶えてしまった場合、眠りから覚めて現実に戻りたいと思うでしょうか?
いまからするのは、不幸にも「夢」の中で「夢」を叶えてしまった、2人についてのお話です。
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2人を、それぞれA子とB美としましょう。
彼女らは同じ職場で友人関係にあり、ある休日に2人揃ってバスツアーに参加していました。
そのバスツアーは、お肌にいいといわれる食べ物の名産地や有名どころの温泉を巡る、いわゆる「美容ツアー」でした。
というのも、彼女らの関心は、美容やファッションへと熱心に傾いていて、2人が意気投合したのも、もっぱら美容について似たような考えを持っていたからでした。
しかし、似たような考えを持っているからと言って、必ずしも仲がいいとは限りません。
むしろ、考えていることや目指しているものが同じだからこそ、相手のことを羨んだり、妬んだりしてしまうのは、ある意味当然なのではないでしょうか。
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実際2人は、一見仲のいい友人を装いつつも、心のどこかでは相手のことを見下していました。
特に、「10頭身になりたい」というお互いの夢を、それぞれが心の底から馬鹿にしていました。
相手には絶対に無理だと思いながら、自分ならいつかは叶えられるのではないかという根拠のない自信がそれぞれの胸の内に秘められていて、その自信が時に相手を見下すような態度となって外へと飛び出してしまうのでした。
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さて、そんな2人はバスでの移動中、隣同士の席に座って仲良く話しているように見えて、自分の美容に関する知識を互いにひけらかせていました。
しかし、せっかくの楽しい旅程を口論で台無しにしたくないと思ったのか、どちらからというわけもなく、2人は眠りに落ちてしまいました。
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ここからは、A子の夢の中です。
A子はひとり、真っ暗闇の中をさまよっていました。A子にはこの世界が、夢の中だとわかっていました。
しかし、いくら夢の中とはいえ、暗闇の中でひとりだけでいるのは少し心細いと感じていました。
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そんな時、前方から人影が近づいてくるのが見えました。
A子は、その影になにか違和感を感じました。
それは人のようですが、しかしこちらに近づくその歩き方はどうもぎこちなく、まるで竹馬にでも乗っているように、その影は一歩踏み出すたびに体が大きく揺れていました。
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A子は、その何かから目が離せないでいました。
そして、それの姿がいよいよはっきりとした時、A子は張り裂けんばかりの声で叫んでいました。
自分の声で、この夢から目覚めてしまえればいいのにとさえ思いました。
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なぜなら、それは、B美だったのです。
それも、竹馬に乗っていると思っていたのは、実は胴体に比べて長く変形した彼女の足で、その姿はまるで、世界各地で都市伝説として騒がれている「スレンダーマン」を彷彿とさせました。
そんな化け物みたいな姿になったB美は、A子に向かって満面の笑みで、こう言うのです。
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「わたし、10頭身になったよー!」
A子はこの時、さっきまでの恐怖よりも、B美の忽然とした態度に対して沸いた悔しさの方に支配されていました。
だって、これが夢の中であるとわかっていたのですから、それ以上怖がる必要はないように思えたのです。
そして、たとえ夢の中であっても、A子はB美に出し抜かれることが悔しくてたまりませんでした。
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そこでA子は、あることを思いつきました。
ここが夢の中なら、普通ならあり得ないことでも自分の思い通りになると考えたのです。
そして、自分の頭や両手で挟んで、思い切り押してみました。
すると、まるで粘土のように、A子の頭は自在に形を変えるではありませんか。
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気をよくしたA子は、ぺたぺたと自分の顔を丸めていきました。
その時のA子は、ようは10頭身になりさえすれば、なんでもよかったのです。
そして、その顔が手のひら大の大きさにまで丸められた時、A子は、たしかに10頭身になっていました。
しかしその姿は、B美に負けじと、いやそれ以上に不気味なものでした。
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なんたって、平均的な背丈の体に、小さな小さな顔が乗っているのです。
しかもその顔は乱暴に捏ねられたため、目と鼻の区別もつかないほどぐちゃぐちゃになっていました。
鏡でもあったらまた違っていたのかもしれませんが、しかしA子は自分の顔に気づかず、これでB美だけにいい思いをされずにすむと思うと、笑いがとまらないのでした。
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そんな時、B美は突然泣き出しました。
そして嗚咽混じりに、「夢から覚めて!」や「早く目を覚まして!」と叫び出すのです。
しかしA子はB美の急変を、自分に対する嫉妬なのだと思いました。
きっと、B美はA子に負けた気がして、自分よりも素敵な10頭身を手に入れたA子に早くこの夢から出て行って欲しいと頼んでいるのだろうと、A子は考えていました。
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もちろん、A子はそんなB美の頼みを無視しました。
そして、ひたすら優越感に浸りながら、B美の泣き叫んでいるのを眺めていました。
その時のA子の気分は、まさに夢心地といったところでしょうか。
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A子は願わくは、この夢がいつまでも続いてくれたらいいとさえ思っていました。
現実ではなかなか味わえないB美に対しての優越感が、夢を永遠に願うほど気持ち良かったのです。
しかし、A子が夢から覚めることは、本当に、もう2度とありませんでした。
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…これは、19××年の、バス転落事故の後に出回った話のひとつです。
運転手の居眠り運転により、ツアー乗客を乗せたバスが約50メートルの高さの崖から転落しました。
この事故では乗客のただ1人を除いて、全員亡くなってしまいました。
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こんな凄惨な事故では、生き残ってしまう方が死ぬよりも辛い気がします。
そして生き残ったその1人とは、実はB美だったのです。
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その事故の現場は、まるで地獄絵図のようでした。
聞くところによると、A子は頭部のほとんどを損傷し、B美は両足がローラーで引き延ばされたみたいにぺちゃんこになっていたみたいです。
そう、まるで夢の中での彼女たちに則って、現実の彼女たちの体は致命傷を負っていました。
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その後B美は救助され、なんとか一命を取り留めました。
しかし、両足の傷は現代医学ではどうしようもなく、切断せざるを得ない状態でした。
そして病院で意識を取り戻した時には、彼女は精神撹乱状態に陥っていました。
彼女は四六時中、こんなことを呟くのでした。
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「夢から出てこないで」
憶測ですが、きっとB美だけ生き残ったことを、永遠に夢の中に閉じ込められたA子が妬んでいるのでしょう。
B美の精神が異常なのは、自分が足を失ったことよりも、A子による悪夢が原因なのかもしれません。
嫉妬や妬みというのは、生きている死んでいるにかかわらず、恐ろしいものですね。
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でも、この話にはまだ続きがあります。
皆さんの中には、次のような疑問を持った人もいるのではないのでしょうか。
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それは、さっきの話の主人公についてです。
生き残っていたのはB美なのに、なぜ出回っている話の主人公は死んでしまったA子なのでしょうか。
ある説によると、夢の中でA子にうなされ続けたB美が、仕返しにA子を悪者にして、この話を広めたと言われています。
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そして、まるで自分はA子を助けようとした悲劇のヒロインのように、夢の中でA子の夢を覚まそうとしたことからも、B美はA子に助かって欲しいと思っていたことがわかります。
そんなB美を信じず、いつまでも夢にしがみついていたA子が、意識を取り戻すことなく死んでしまったのは、自業自得というべきでしょうか。
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…実は、その話とは別に、こんな事実が確認されています。
彼女たちのいた現場にかけつけた救助隊員の1人は、さっきの話はB美の捏造だと証言しました。
というのも、その隊員はA子の遺体のそばに、不自然に血がこびりついている小さな岩を発見しました。
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そしてその岩を調べてみたところ、B美の指紋がベッタリとついていました。
もちろん、血はA子のものでした。
このことからいえるのは、もしかしたら、B美は気を失っている無傷のA子を羨んでか、あるいは日頃の鬱憤を晴らすためか、彼女の頭をその岩で砕いたのではないかということです。
B美もまた、A子のことを殺したいくらいに、妬んでいたのかもしれないのです。
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しかし、それも本当のことかわかりません。
なぜなら、B美は意識の正常を保つことなく、目を覚ました1週間後に死んでしまいました。
死因は、病室のカーテンを使っての首吊りでした。
でも、両足のないB美は、どうやって首吊り自殺をしたのでしょうか。
ちなみに、A子は実の両親から、尋常じゃないほど可愛がられていました。
A子の本当の死因も、B美が本当に自殺だったのかも、結局、真相はなにひとつわかっていません。
そして、2人の夢は果たして叶ったといえるのかどうか、それもきっと、2人にしかわからないことでしょう。
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