長編8
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シン・ハサミのお呪い

俺の職場の同僚から聞いた話。

伝聞だから、多少尾ひれはついていると思うけど、シャレにならない話だからリンク貼っておくね。

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同僚のKが、前の職場で働いていた時、先輩に、「アリスさん」と呼ばれている人がいた。

アリスさんは、ニックネームで、本名は、

「有栖川(ありすがわ)孝子(たかこ)」

と言うらしい。

なぜ、アリスさんと呼ばれていたかというと、肌が抜けるように白く、彫りの深い顔立ちをしていて、背丈は平均的な女性の身長よりも、かなり高めだったから。

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175センチあるKと変わらないか、それよりも若干高かったかもしれない。

要するに、全てにおいて日本人離れしていたんだと。

(話の便宜上、有栖川さんではなくアリスさんと呼ぶことにする。)

当然、そんな容姿をしていたら、人目につくし、言いよる男性も少なくなかったと思うが、Kの話だと、近寄りにくいというか、あまり人と関わりたがらない、どこか孤独な空気を漂わせている人だったらしい。

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Kの会社は、都心でもオシャレなオフィス街にあったから、お昼時になると、女子社員たちは、皆連れ立って外に食べに行くんだけど、アリスさんは、毎日お弁当を持ってきて、一人で食べていた。

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お弁当の他に、アリスさんは、いつも保温容器に入ったスープを飲んでいた。

Kは、たまたま、アリスさんの前を通った時、さりげなくその保温容器の中身を見てしまったんだって。

何が入っていたと思う。

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人の目玉や耳が、それも、そのままの姿ではいっていたんだってさ。

Kは、驚いて持っていたコーヒーをぶちまけてしまったらしい。

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アリスさんは、「やれやれ。」と言った表情で、飛び散ったコーヒーをデスクに置いてあったティッシュで素早く拭き取ると、呆然としているKに、

「何か見た?見えた?」と鋭い目つきで尋ねたそうだ。

Kは、蛇に睨まれたカエルのように、

「いえ。ちょっと手が滑ってしまったんです。すみません。」

と答えるのがやっとだった。

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アリスさんは、そんなKを見て、口角を少しあげ、ふふっと笑い、

「ほら?」

保温容器を片向け、スープの中身を見せてくれたそうだ。

恐る恐る覗き込んだKだったが、そこには、ただのコンソメ風の野菜スープがはいっているだけだった。

kは、この話を怖くて怖くて誰にも話せなかった。

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その数日後、そんな「アリスさん」を巻き込む不思議な出来事が起こった。

Kの会社が立ち上げた一大プロジェクトの重要書類が地下金庫の中に大切に保管されていたにも関わらず根こそぎ盗まれてしまったというのだ。

企業機密として強固なセキュリティ体制が整っていたはずなのに、これは一体どうしたことか。

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本来、絶対にあってはならない緊急事態だ。

会社全体が騒然とし。皆が、途方に暮れる中、アリスさんだけは、淡々と仕事を続けていた。そんなアリスさんを見て、kや他の女子社員たちは、少し腹が立ったらしい。

中でも、いつも仕事が遅くて、上司から叱責を受けているNさんが、ここぞとばかりに、

「なんであなただけがそうしていられるのよ。まさか、あなた、この件に関わっているんじゃないでしょうね。」と詰め寄ったんだと。

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アリスさんは、「しょうがないわね。いっちょ、やるか。」

徐に立ち上がり、自分のデスクの引き出しの中から、金色に光る大きなハサミを取り出した。

それから、ハサミの取手に、くるくると麻ひもを巻きつけたかと思うと、その先に輪ゴムぐらいの大きさの輪っかを作った。

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「これで、よし!」

アリスさんは、ハサミの取手に結んだ麻ひもが取れないことを確認すると、

デスクの上に昇り、照明器具のツメの部分に麻ひもの輪っかの部分を引っ掛けて吊るした。

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天井を見上げる社員一同の頭上に吊り下がる金色の大きなハサミ。

その切っ先は、人の心臓を射抜く鳥の嘴のように思えて、社員たちの目には、たいそう不気味に映ったらしい。

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アリスさんは、

「ほんとはさぁ、この神聖な儀式は、ひとり静かな場所でしなきゃ意味ねーんだけどさ。

おめーらが、ぎゃあぎゃあ騒ぐから、やったるわ。よーくよーく、見ておけよ。二度としねーからな。」

と大声で啖呵を切り、唖然としている社員を前に、10分程度合掌した後、

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「ハサミさん、ハサミさん。この会社の重要書類が紛失いたしました。セキュリティシステムが破壊され、B社に貴重な会社の情報が漏洩した模様です。重要書類と真犯人、出来れば両方いっぺんに見つけてください。お願いします。」

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と大声で叫び、吊り下げたハサミを自分の右手に持ち替え、右耳の横辺りに持って来ると、チョキチョキと開閉しはじめた。

その場にいた皆が一瞬、しんと静まり返ったが、やがて、失笑と嘲りの声に変わった。

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「ハサミのおまじない?」

「そんなの効くかよ。」

「危急存亡の時に、遊んでんじゃねぇよ。」

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正直、Kも普段のアリスさんとは別人の姿を見せられて、正直呆れてしまった。

騒動を聞きつけてやってきた社長以下重役たちも、

「有栖川君、いいから、下りてきなさい。これから、対策会議をする。君には、同席してもらいたいから。早急に会議の準備に取り掛かってほしい。」と窘め、その場は、何とか収まったそうだ。

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Kの話だと、対策会議中、突然アリスさんが、

「明日には、見つかるってさ。第2金庫の中に有るよ。第2金庫は、社長の自宅にあるでしょ。真犯人は、身内。やりそうな人、あなた方 分かっているんじゃない?」

そう言って、中座したそうだ。

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それ以来、アリスさんは、行方をくらましてしまった。

携帯も通じないし、住んでいたはずのマンションを訪ねてみたが、赤の他人が既に5年以上も前から住んでいるとのことだった。

人事が後から調べたところによると、履歴書は全てデタラメで、出身大学も本籍も嘘だった。 そもそも 「有栖川孝子」なる人物は、世界中探してもどこにも存在しないということがわかった。

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「それで、重要書類とやらは、見つかったのか?」

俺は、Kに問いただしてみた。

Kの話では、産業スパイなんて最初からいなくて、社長の娘婿が仕組んだ罠だったらしい。要するに、後継者争いってやつ。

ま、一流企業だからな。なんとか、重役たちが上手く尻拭いして、今でも経営は順調だそうだけど、kは、その会社が、なんとなく嫌になって辞めたんだそうだ。

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あの日、アリスさんの飲んでいたスープに入っていた目玉と耳が、どうしても目に焼き付いて離れないと話していた。

「普通の野菜スープだったんだろう。」

俺は、半ば呆れて、聞いてみたんだが、

Kは、頑として違うと言い張るんだよね。

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それから、アリスさんが、行(おこな)った「ハサミさんのおまじない」だけど、本当だって話していたよ。

でも、アリスさんのことは、謎のままにしておきたいってさ。

まぁ、そうだよな。

今更、関わったって何のメリットもないだろうし。

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ただ、有栖川って名字を目にする度に、不思議な気持ちになるんだと。

「不思議の国のアリスだろ。」

冗談半分に話したら、Kは、力なく笑っていたよ。

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以上、あんまり、怖くない話でごめんね。

俺、作文とか苦手なんだよ。

話も上手く伝えられなくてさ。

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え?Kに話を聞きたいって。

それがさぁ、K 一昨日から行方不明なんだよ。

困ったなぁ。

END

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「リンク貼れました?」

「貼れたけど。ごめんなさい。」

「なんで謝るんですか?」

「あのね。〇〇君、ごめんなさい。例の「ハサミのお呪い」の話なんだけど。〇〇君の代わりに投稿を頼まれて軽い気持ちで引き受けたこの話、実話なんでしょう。」

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「え?それが何か?」

「聞きながらそのまま書き綴ってみたんだけど、私、この話、怪談サイトに投稿するの辞めたほうがいいと思うの。」

「今更、何をおっしゃっているんですか。この話、いい出来ですよ。キャラも立ってて面白いじゃないですか。」

「ごめんなさい。本当にごめんなさい。私、もう無理。サイトに行って削除して来ていい。」

「あなたが無理なら、俺がアップしますから。そんなに謝らないでくださいよ。」

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「それから、教えてほしいんだけど。K君は、今でも行方不明のままなの。」

「俺に聞かれてもわからないです。」

「ハサミさん、ハサミさん、K君を探してください。お話聞きたいから。生きているのか死んでいるのかも教えて下さい。」

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「ちょっと、何やってるんですか。」

「だから、ハサミのおまじないをしているの。K君、探さなきゃ。大変!!」

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「Kは、探してもいないよ。スープになっちゃったからね。」

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「そ、それ、どういうこと?

「俺、k(スープ)飲んじゃったから。」

「〇〇君、正気だよね。」

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「はい、正気です。ふふふ。それと、サイトに行って削除したいだとか、ガチでヤバいとか怖がっている割には、ハサミのおまじないをしてKを探そうだなんて。言ってることとやってることが矛盾してるんじゃないですか。」

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「あなた誰なの?」

「誰って?俺〇〇だけど。」

「嘘、〇〇君じゃないわ。あなた、もしかして、アリスさんなのね。」

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「だったら?どうよ。」

「K君は、今、どこにいるの。スープになったって嘘よね。」

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「うわはははっは。そんな奴、最初から、どこにもいねーよ。バーカ!

騙されていやがる。

あぁ、面白かった。」

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「ど、どういうこと?」

「ハサミの おまじない」なんて嘘っぱち。

最初から、アリスも同僚Kもいない 全部俺の作り話。

まぁ、元ネタはあるけど、怖い話なんかじゃねぇよ。

あんたのおかげで、退屈な土日のスティホームが 最高の暇つぶしになったわ。

楽しませてくれてありがとう。」

プツ 

ツーツーツーツーツー

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「ハサミさん、ハサミさん、真面目な私を騙し、「ハサミの呪い」をコケにした ふざけた輩(やから)〇〇君を探してください。」

私は、ハサミの呪文を唱えながら、鳥の嘴を象ったハサミを右の耳の横でシャカシャカと開閉した。

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しばらくすると、耳元で微かな女の声が聞こえてきた。

(探してあげるわ。それで、探したあとは、どうするの?)

「二度と人を騙さないように。☓☓してあげるの。」

(☓☓した後はどうするの?)

「スープにして飲んじゃおうかな。目玉と耳は、あなたにあげる。ハサミさんの好物なんでしょう。だって、耳と目がなきゃ探したくても、探せないんだものねぇ。」

(ありがとう。いただくわ。じゃぁ、その スープを飲んだ後はどうするの?)

「行方不明にでもなろうかな。探せるのなら、隠せるわよね。その時は、よろしくね。ハサミさん。」

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@あんみつ姫

→この手のものは、心霊的な怖さよりも、呪術的なものを広めようとする人間の悪意を感じてしまいます。異界の人間と積極的にコンタクトをとると言う行為は、禁忌だと思います。

激しく同意。むしろ迷信や神聖冒頭かもですし(話としては面白いが)。そんなことしなくても、本当に重要なことは、あちらから言ってくる()と思います。
ちなみによくコイン投げで簡単に「易の卦」をみたりしていますが、あれも「考えるヒント」の趣が強く、当たらぬも八卦だと思われます。コイン三枚を投げて裏表で卦(基本の八種類)を決め、それを二回・組み合わせで六十四の卦が決まる(さらに詳しく占うのはもう少し難しいようですが)。
ともあれ、良いお年を。

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