地元では、既に故人となった身内が訪ねてくるのは不吉だと言われている。
死が間近いことを意味するからだ。
気の早いお宅では、葬儀の準備に取り掛かる。
実際、かなりの確率だと 地元の葬儀屋も話していた。
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祖母が70歳の春、大病を患った。
気づいた時は、手の施しようがない状態にまで進行していた。
今晩が峠と言われた日、亡き祖父が、祖母の元を訪ねて来たと話した。
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皆が死を覚悟したが、「大丈夫。あの人は、死神じゃなく貧乏神。お金の無心に来たから追い返してやった。」と笑っていた。
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祖母は、その後奇跡的に快復し、97歳で天寿を全うした。
自宅で、家族に見守られながらの大往生だった。
「喜んで!阿弥陀如来とイエス・キリスト様がお迎えに来たわ。」
と叫び、嬉々として息を引き取った。
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最期を看取ってくれた医師の言う通り、認知症が脳まで進行していた結果の妄想、幻視とはいえ、祖母の言葉に、その場にいる皆が救われた。
この出来事は、宗教の垣根を取り払い、皆をもっと深い、もっと高いものに思い至らせてくれた。
目に見えない大切なことに。
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毎年、お彼岸を迎える頃になると、祖母の清貧な生き様と、死神を追い返した逸話を思い出す。
地元に伝わる忌み話に、いたずらに怯(おび)え慄(おのの)く人たちに、この話をすると笑顔になってくれるのが嬉しい。
「おじいちゃん、貧乏神じゃなくて福の神だったんじゃないの。」
と。
作者あんみつ姫
今週は、秋彼岸にちなんだ作品を描いてみたいと思います。
ご笑覧いただきありがとうございます。
今日も、一日、良い日でありますように。