wallpaper:5805
「手のひら怪談」第7話 第8話
nextpage
wallpaper:5808
その7 「棄教」
wallpaper:5811
物心ついた頃から、ずっと信じていた宗教を、先日、きれいさっぱりと棄てた。
「神様、ごめんなさい。私、もうだめ。耐えられない。」
と。
nextpage
連日、泣き叫びながら祈り、やっと別れを告げた。
nextpage
wallpaper:5781
とたんに、這って歩くほどの耐え難い腰痛と、首を回せないくらいにコチコチに固まっていた肩痛が、嘘のように消失した。
ここ数年、ぼんやりとしか見えなかった景色も、はっきりと見えるようになった。
nextpage
wallpaper:5806
「おかえり。待っていたよ。随分、長かったねぇ。」
誰かが耳元で囁いた。
nextpage
wallpaper:5814
私は、両方の耳にイヤホンを突っ込むと、スキップしながら応えた。
「じゃぁ、いってきま~す。もう、二度と戻らないから。」
nextpage
wallpaper:5813
さよなら・・・ワタシ
nextpage
wallpaper:5812
separator
その八 「ある占い師との出会い」
nextpage
wallpaper:5809
wallpaper:5819
先月、街中で占い師と称する人に出会った。
wallpaper:5817
wallpaper:5812
wallpaper:5820
コンピュータに必要最低限の個人データを入力し、霊視もするという新手の占いだという。
wallpaper:5819
年の頃は、40代前半か。年齢よりも若く見え人当たりも悪くない。
nextpage
wallpaper:5817
コーヒーの香り漂う街中のきれいなカフェを会場に行うのだという。
30分2.000円。このぐらいなら、払えるかも。
早速、そのカフェを訪れる。
wallpaper:5816
お願いします。挨拶をして目の前のテーブル席に座った。
wallpaper:5809
その人は、開口一番「これは、科学的根拠に基づいた統計学です。」と言った。
nextpage
wallpaper:5820
「はぁ。サンプルは、どこから、どうやって抽出したんでしょう。有効回答率は、何%でしょうか。なかなか大変な作業だと思いますし。私、大学の一般教育学科で統計学を学んだことがあるんですが…さっきの話だと…。」
nextpage
wallpaper:5812
その人は、眉間にシワを寄せ、私の質問を遮るように、
「お代はいりません。今すぐ、お帰りください。」
と言い、パソコンの蓋を閉めた。
nextpage
wallpaper:5820
「そこまで、頭の回る人が、なぜ、このようなところにいらっしゃったのですか。」
「別に冷やかしで来たわけではありません。単純な疑問を聞いただけです。ご気分を害されたのでしたら、謝ります。申し訳ございません。」
nextpage
wallpaper:5819
wallpaper:5635
美しい横顔が、一瞬グラリと歪み、見たことのない獣の顔に変わった。
nextpage
「あなたの背後には、誰もついていません。あなたは、そういう人です。それが、あなたを占った私の結果です。いい人なのに可愛そうな人。」
と呟いた。
nextpage
wallpaper:5818
「可愛そう?私がですか。」
「あなたを占える占い師は、ひとりもいません。なぜなら、あなたは、占いを必要としない人だから。答えは、それに尽きます。科学を信奉する人に、目に見えないものを説明してもね。」
その人の目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。
nextpage
wallpaper:5809
でも、占い師さん。あなたは、最初、占いは、科学的根拠に基づいた統計学といったではないですか。
統計学って、数学や、物理学と同じ科学ですよね。
言ってること、矛盾してないですか。
nextpage
wallpaper:5817
これ以上、ここに居てはいけないと判断し、私は、その場を後にした。
wallpaper:5818
あの人は、私を可愛そうな人と言った。
nextpage
wallpaper:5815
私は思う。
可愛そうなのは、どっちだ。
nextpage
wallpaper:5812
と。
作者あんみつ姫
可愛そう…って、蔑みの言葉ですよね。