中編7
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うまい商売

昔、一人の農夫がいて、雌牛を市に連れて行き、七ターレルで売りました。

家へ帰る途中で池を通らなければなりませんでした。

もう遠くから蛙たちが、ハチ、ハチ、ハチと鳴いているのが聞こえてきました。

「うん、彼らは韻をふむことも理由もなく話してるんだ。おいらが受けとったのは7だよな、8じゃないよ。」

と彼は思いました。

水辺に着くと、彼は蛙たちに言いました。

「間抜けな動物だよ、おまえたちゃあ。もっと分別がないのかい?7タ―レルだよ、8ターレルじゃないんだ。」

しかし、蛙たちはただハチハチ鳴いてるだけでした。

「さあ、じゃあ、信じないなら、お前たちに数えてあげるよ。」

そして、彼はポケットからお金をとりだすと、24グロッシェンを1ターレルに換算しながら、七ターレルを数えました。

しかしながら、蛙たちは気にもかけず、やはりハチハチ鳴いていました。

「何だって!」

と農夫は怒って叫びました。

「お前たちがおいらより分別があるんなら、自分で数えてみろ!」

とお金を全部水の中の蛙たちに投げつけました。

彼はじっと立って、蛙たちが数え終わり、自分のお金を返してくれるまで待っていようと思いました。

が、蛙たちは相変わらずで、ハチハチ鳴き続けるだけでした。おまけにお金を水から投げ返してもくれませんでした。

彼は、やはり暫く待っていましたが、とうとう夜がきてしかたなく家へ帰るしかなくなりました。

それで、蛙たちの悪口をいい、叫びました。

「水はね者!あほ!ギョロ目!お前は大きな口をして、人の耳が痛くなるまでキーキー言うが、七ターレルを数えられない。お前が終わるまでおいらが立ってられると思ってるのか?」

それを言うと、彼は立ち去りました。

しかし、蛙たちは、彼がまったくイライラして家へ帰るまで、後ろで相変わらずハチハチ鳴いていました。

暫くして、彼は別の牛を買い、それを殺しました。

そして、もし肉をうまく売れば2頭分の収入をえられるかもしれないし、おまけに皮もできると計算しました。

それで、肉を持って町に着くと、門の前に大きなグレイハウンドを先頭に沢山の犬が集まっていました。

そのグレイハウンドは、肉に飛びつき、匂いをかぎ、スコシスコシとほえました。

止めることができなかったので、農夫はその犬に言いました。「うん、うん、よくわかるよ、お前は肉が欲しいからスコシスコシ言っているんだね。だけど、仮に肉をお前にあげるとしたら、おいらは結構な状況にいなくちゃね。」

しかし、犬はスコシスコシと答えるだけでした。

「じゃあ、全部食べちゃわないと約束してくれないか?お前の仲間にも言っておくれかい?」

スコシスコシスコシ、犬は言いました。

「ええと、お前がそこまで言い張るならお前に置いていこう。おいらはお前をよく知ってる。お前の主人が誰かも知ってるよ。だけどこれだけは言っておくが、おいらは3日の内に金を貰わなくてはいけない。さもないとまずいことになるからな。金を持ってきさえすればいいんだ。」

そう言って肉を降ろし、背を向けました。犬たちは肉に襲いかかり、大声でスコシスコシほえました。

そのいなか者は、犬たちから離れて聞いていて、思いました。「いいかい、今はみんながいくぶんか欲しがっている、だけど大きいやつがおいらに責任があるんだからな。」

3日経ったとき、

「今夜、金が手にはいるぞ。」

とそのいなか者は思い、とても喜んでいました。

しかし、誰も来て支払おうとはしませんでした。

「もうだれも信じることはできないぞ。」

と彼は言いました。

とうとうしびれを切らし、町の肉屋にでかけ、お金を要求しました。

肉屋は冗談だと思いましたが、農夫は冗談抜きで

「金はもらうぞ。あの大きな犬は3日前、殺した牛の肉をまるまる持ってこなかったかい?」

と言いました。

すると肉屋は怒って、ほうきをつかむと彼を追い出しました。「待てよ、今世の中には裁判もあるんだ。」

と農夫は宮殿にでかけ、聴聞を求めました。

彼は王様の前に案内され、王様はそこに娘と一緒に座っていましたが、どんな痛手をこうむったのか、と彼に尋ねました。「ああ悲しい、蛙や犬が私のものを奪いました。そして肉屋は棒でそのお返しをしました。」

と彼は言い、起こったことを詳しく述べました。

それを聞いて、王様の娘は心から笑い出しました。

そして王様は

「これについて正義をもたらすことはできないが、娘を妻としてお前にやろう。娘はこんな風には今まで一度も笑ったことがないのだ。それで娘を笑わせることができた男に娘をやると約束しておったのだ。幸運を神に感謝するがいい。」

と王様は言いました。

「ああ!」

と農夫は言いました。

「おいらは全然欲しくないんで。もうかかあがおりやす。一人でも沢山でして。家に帰ると、うちのやつがどの角にも立ってるみたいなんで。」

すると王様は怒って、

「無礼者め!」

と言いました。

「ああ、王さま、牛から肉のほかに何を求めるんです?」

と農夫は言いました。

「黙れ、お前には別のほうびをやろう。今は帰れ、だが3日したら戻って来い。そのときにきっちり500とっといてあげよう。」

と王様は答えました。

農夫が門のそばに出ていくと、門番が

「お前は王様の娘を笑わせた。きっとなにかいいものをもらうだろう。」

と言いました。

「そうだよ。おいらもそう思っている。おいらのために500とっておくってさ。」

と農夫は答えました。

「ねぇ、俺にいくらかくれよ。そんなにたくさんの金をどうするつもりだい?」

と門番は言いました。

「あんただから、200あげるよ。3日したら王様の前に行きな、払ってくれるだろうよ。」

と農夫は言いました。

近くに立っていて、この会話を聞いたユダヤ人が農夫のあとを追いかけ、コートをつかまえて言いました。

「なんとまあ、神の驚異だ、あなたはなんと幸運なんでしょう。交換してさしあげます。小額の硬貨に換えてさしあげますよ。大きなターレル銀貨をどうするんです?」

「ユダヤの人、あんたにはあと300ありますよ。今すぐ硬貨をおくれ。今から3日したら王様が払ってくれるからね。」

といなか者は言いました。

そのユダヤ人は小さな利益に喜び、その額を質の悪いグロッシェンで持ってきました。

その3枚が質のよい硬貨の2枚分の価値しかありませんでした。

3日経ったあと、王様の命令に従って、農夫は王様の前に行きました。

「コートを脱げ、そうしたら500あげようぞ。」

と王様はいいました。

「ああ、もうおいらのものじゃないんですよ。そのうちの200を門番にあげたし、300はユダヤ人がおいらに換金してくれたんで。だから当たり前ですが、ぜんぜんおいらのものじゃねえ。」

と農夫は言いました。

そのうち、門番とユダヤ人がやってきて、農夫から手に入れたものを請求しました。

そしてきっちり数えて打ちすえられました。

兵士の門番はじっとそれに耐え、それがどんな味か知りましたが、ユダヤ人は

「ああ、ああ、これが重たいターレルか?」

と悲しみの声をあげました。

王様は農夫のことを笑わざるをえませんでした。

そして怒りがすっかりおさまると、

「お前は自分のものになる前にもうほうびを失くしてしまったのだから、埋め合わせのものをやろう。わしの宝庫へ行き、好きなだけ、自分で金をとれ。」

と言いました。

農夫は二度言われる必要はありませんでした。

何でも入るものをポケットに詰め込みました。

後に、彼は宿屋に行き、お金を数えました。

ユダヤ人はこっそりあとをつけていたので、農夫が

「あの王様のやつは結局おいらをだましやがった。なんで自分で金をくれることができなかったんだ?そしたらおいらがいくらもってるかわかったのによ?たまたまポケットに入れたものが適当かどうかなんて、今になってどうやってわかるんだ?」とつぶやいているのを聞きました。

(なんとまあ、あいつは王様に無礼なことを話している。走っていって告げればおれはほうびがもらえるし、あいつは罰をうけるだろう。)

とユダヤ人は心のなかで思いました。

王様は農夫の言葉について聞くと激怒し、ユダヤ人に犯罪者を連れてくるよう命じました。

ユダヤ人は農夫のところへ走って行き、

「お前は着のみ着のまますぐ王様のところへ行かなくてはならない」

と言いました。

「おいらにゃ、もっと分別があるさ。まず新しいコートを作ってもらおう。ポケットにたらふく金が入ってる男がぼろの古いコートを着てそこに行くと思うのかい?」

と農夫は答えました。

ユダヤ人は、農夫が別のコートが無くては動こうとしないのを見てとり、また、王様の怒りが静まれば、自分はほうびを貰い損ねるし、農夫の罰もなくなってしまうと恐れたので、言いました。

「純粋に友情の気持ちからだけど、短い間おれのコートを貸すよ。君が好きだからこそだよ。」

農夫はこれを聞いて満足し、ユダヤ人のコートを着て、一緒にでかけました。

王様は、ユダヤ人が告げ口した悪口のことでいなか者を責めました。

「ああ、ユダヤ人がいうことはいつだって嘘ですよ。あいつの口からホントの言葉なんて出てこねえです。そこのならず者はおいらがやつのコートを着ているって言い張りますぜ。」

と農夫は言いました。

「何だって!」

とユダヤ人は喚きました。

「そのコートがおれのじゃないって?純粋な友情から、そのコートをお前に貸したんじゃなかったか?お前が王様の前に出ていくために?」

王様はこれをきくと、

「ユダヤ人が、わしか農夫かどちらかをだましているのははっきりしている」

と言いました。

そしてまたまた彼を打ち据えることを命じたのでした。

しかし、農夫のほうは立派なコートを着て、ポケットにはたっぷりお金を入れ、家に帰り、

「今度はうまくやっただ。」

とひとりごちました。

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