中編3
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電車の女

ここ4日ほど残業が続いている。上司からのムチャブリに後輩の尻拭い。毎日板挟みの極限状態だった。「こんな会社辞めてやる。」

そう思いながら約3年と4ヶ月、俺は今でも社畜のまま終電間近のほとんど人がいない電車に乗る。

降りる駅は6駅先だ。俺が住んでいる街はそこまで都会ではないため意外と6駅は遠い。

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そして最近この電車に乗るといつも同じ女の人が乗っている。

肩より少し長いくらいの綺麗な黒髪(セミロングっていうのかな?)、座っているため身長はよくわからないが女性にしては高い方だろうか。電車の中は薄暗く顔はよく見えない。

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俺とその人しか乗っていないため、すっかり覚えてしまった。彼女も俺と同じような境遇なのかなと勝手に想像していた。まあ俺はスーツで彼女は私服(白いワンピース)だから違うと思うけど。

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俺が残業し始めて今日で4日目、つまり彼女を見かけるのも4回目なわけだが、今日はいつもと少し違っていた。

いつもより電車内が明るいのだ。いつもと違う車両に乗ったからだろうか。もしかしたら彼女の顔が見えるかもしれない。

けどあんまりまじまじと見るのは失礼だろうから降りがけにちらっと見るだけにしようとか、疲れた頭でそんなことを考えていた。

そして降りる駅まであと少し、というところで俺は女性の顔を見ることにした。

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何気ない感じを装って彼女の方を見た。すると彼女と目が合った。

いや、合ってしまった。

目が落ち窪んでいるなんて次元じゃない。本来目があるべきところに穴が空いている。

どんな黒よりも真っ黒な大きな穴が二つ空いているのだ。

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それが俺を見つめていた。そしてゆっくりと口角が上がっていく。いつもより明るい電車内で見た彼女の顔は、明らかにこの世のものではなかったのだ。

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思えば4日連続で同じ服なんてことあるか?いつもと違う車両に乗ったのになんで同じ車両にいる?そもそも電車内が少し暗いからって今まで顔がわからないなんてあるはずがない。

なぜ気づかなかったのか。俺はすぐに顔を逸らし俯いた。電車が止まるまであと数十秒。

今日俺が乗ったのは最後尾の車両、別の車両に乗るには彼女の前を通らないといけないため移動はできない。

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視界の端で彼女が立ち上がった。ゴトゴトと揺れる車内をゆっくりと歩いて座っている俺の前に立った。

心臓の音がうるさい。今までで一番長い数十秒だった。

電車が止まり、ドアが開いた。俺は座席を転がるように女性を躱し、電車から降りて走って改札をくぐった。駅に自転車は停めてあるが、今は鍵を外す手間すら惜しい。

走って近くのコンビニに駆け込み、そこでようやく振り向いた。そこに女性はいなかった。

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この一件で電車に乗るのが怖くなってしまった俺は会社を辞め、バスで通える別の企業に入社した。

あれからよく考えてみたのだが、あの女性は実は俺を助けてくれたのではないだろうか。

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確かに見た目こそ恐ろしいものだったが駅に着くまでのあの数十秒間何もされることはなかったし、電車から降りた後追って来ることもなかった。

もしかすると彼女は会社に殺され、同じような境遇の俺を助けるために現れた、なんて考えすぎだろうか。

まぁ俺はもう電車に乗らないから真相はわからない。

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