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短編2
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ジョージ・アレン

1807年1月12日、スタフォードシャーののどかな町、メイフィールドでの出来事である。

 その家の主、ジョージ・アレン(42)が2階の寝室に退いたのは午後8時頃のこと。その1時間後に妻が寝室に出向くと、ジョージはベッドの上に座って、パイプを燻らしていた。隣りのベッドには3人の子供、10歳の長男と6歳の長女、そして3歳の次男がすやすやと眠っている。ジョージは妻の顔を目にするなり、気難しげに訊ねた。

「お前と一緒にいたあの男は誰だ?」

 面食らった妻は訊ね返した。

「何のこと? 男なんかいないわよ」

「いや、この家に男を入れただろう」

「入れてないわ。何を云ってるの?」

 こんなやりとりがしばらく続いた後、急にジョージが立ち上がり、慌ただしく寝室から出て行った。妻はその後を追って訊ねた

「何をそんなに慌てているの?」

「うるさい! お前はそこにいろ!」

 間もなくジョージが戻って来た。その手には剃刀が握られている。そして、子供たちの掛け布団を剥ぎ取った。

「あなた、何をするの!」

 妻が制するや否や、ジョージは彼女の喉を剃刀で切りつけた。幸いにも首にスカーフを巻いていた為に致命傷には至らなかったが、慌てて逃げ出した彼女は階段から転がり落ちてしまった。遠退く意識。どれくらい気絶していたであろうか。やがて彼女がどうにか立ち上がると、足元には喉を切り裂かれた長女が横たわっていた。頭が胴体から離れそうになっている。彼女は屋外に走り、そして叫んだ。

「助けて! 子供が殺された!」

 間もなく隣人たちが集まって来た。恐る恐る中を覗くと、血みどろのジョージが剃刀を手にしたまま仁王立ちだ。隣人の一人が訊ねた。

「いったい何があったんだ?」

 ジョージは答えた。

「何でもない。ただ3人殺しただけだ」

(Nothing yet, I have only killed three of them.)

 2階の寝室では長男と次男が喉や腹を切り裂かれていた。辺りには腸が散らばり、それは酷い有り様だったという。

 ジョージ曰く、

「妻と子供たちを殺した後、自らも死ぬつもりだった」

 動機はさっぱり判らないが、おそらく統合失調症か何かの精神疾患を患っていたのだろう。妻が浮気をしているとの妄想を抱き、訳も判らずに暴走してしまったのだ。責任無能力者として扱われるべきケースだが、この時代はそんなことは関係ない。死刑を宣告されて、同年3月30日に絞首刑により処刑された。

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