【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編4
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のるな

「もうこんな時間か、明日も仕事だし今日はこれで帰るわ」

その日、新居祝いにと友人の住むマンションを訪れたのだが、久々の再開というのもありついつい長居してしまった。

「ああ、今日は来てくれてありがとうな、また遊びに来いよ」

「おう、しかし本当にこのマンション良いな、これで家賃安いとか最高じゃん、俺もここに引越、」

「やめとけ……」

「え?」

「あ……いや、何でもない……気をつけて帰れよ……」

「あ、ああ」

俺はそう言うと玄関に向かった。

「あ、言い忘れてたけどエレベーターはこの時間使うなよ」

突然玄関でそんな事を言い出す友人に俺は首を捻って見せた。

「最近夜になるとエレベーターの調子が悪いみたいでさ、マンションの管理会社が余り使わないでくれって、明日あたり業者が点検に来るんだと、それにお前ちょっと太ったんじゃないのか?階段使え階段」

「おいおいひでえな、まあいいや、分かったよ」

俺はそう言うと手を振り友人の家を後にした。

エントランスの通路に出ると、階段の方へと向かった。

だが。

「しまった……行き止まりかよ」

どうやら階段は反対側の方のようだ。

軽く溜息をつきながら、仕方なく来た道を引き返す。

しかし途中まで進んだところで俺は足を止めてしまった。

面倒くさいな……。

ふと、近くのエレベーターが目に留まった。

「一応使えるんだし……いいよな……」

苦笑いしつつ俺はボタンを押した。

流石に最上階から下まで降りるのは骨が折れる。

開き直った俺は、やがて登ってきたエレベーターに乗り込むと中で1Fのボタンを押した。

ゆっくりとドアが閉まり、エレベーターが動き出す。

13F、12F、11F、とスムーズに降りて行った。

「別に壊れてねえじゃん……」

あいつ意地悪で階段使えとか言ったんだな、そう思った時だ。

エレベーターの入口、ガラス越しに白い服を着た小学生くらいの少女が、俺の目に急に飛び込んできた。

一瞬ドキッとしながらも、こんな時間に子供が出歩くなんてと思い直す。

非常識な親もいるもんだ。

育児放棄とかじゃないだろうな?

そう思った次の瞬間。

「わっ!」

10Fに辿り着いた瞬間、またもやさっきの少女が立っていた。

しかも大きく口を開き、こちらを見ながらニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている。

何だ今のは……。

いや待てよ……それどころじゃない……。

何でエレベーターより先に降りられるんだ!?

おかしいだろ!

そう思った時。

「ひっ!」

まただ。

9Fに辿り着いた瞬間、ガラスの向こうであの不気味な少女が大きく口を開け、笑いながら立っていた。

絶対におかしい、ありえない……

全身を寒気が襲った。

震える膝が崩れ落ちそうになり、思わず背後の壁に寄りかかる。

8F。

またもやガラス越しにあの少女が大きく口を開き待ち構えていた。

震えが止まらなかった。

しかし逃げ場はない。

7F。

口を開けた少女が、もはや当たり前の様にガラス越しに立っている。

限界だった。

俺は目に涙を浮かべながら6Fや5F、更にエレベーターの非常通話ボタンを押した。

しかし、ボタンは無慈悲にも何度押しても反応がない。

「くそっ!何でだよ!」

6F。

俺は恐怖からか反射的に顔を背けた。

ビクビクしながら薄らと開けた目端をガラスに向ける。

居ない?

少女の姿がない。

なぜ?

もしかしてもう……。

5F。

やはり居ない。

やっぱりもう……。

助かった……全身に脱力を感じその場で蹲る。

だがその瞬間、俺はハッとして顔を上げた。

これまで脳裏に焼き付いた少女の顔が次々と頭の中に浮かぶ。大きく開いた口……。

4F。

あれは何かを言っているようにも見えた。

少女が口を開けていた最初の顔から順に思い返していく。

3F。

まっ。

て。

る。

よ。

「うわあああっ!!」

耐えきれず俺は泣き叫んでしまった。

だがその瞬間。

──チーン。

2Fでドアが開いた。

二十代くらいの男が驚いた様子でこちらを見ている。

俺は慌てて立ち上がり頭を下げ急いで男を横切り2Fの通路に飛び出した。

背後で扉が閉まる。

俺は荒い息遣いのまま壁にもたれ掛かり、そのまま蹲った。

余りの恐ろしさに次から次へと涙が溢れてくる。

助かった……助かったんだ……。

しかし次の瞬間。

「うわああああっ!!」

階下から男の断末魔の様な叫び声が挙がった。

もしかして……さっき入れ違いになった男……。

再び恐怖が体を蝕み、俺はもうその場から一歩も動けなくなってしまっていた。

やがて、呆然と座り込む俺のスマホに着信が鳴った。

友人からだ。

「はい……」

力無く通話口に返事を返す。

「もしもし?さっきの悲鳴、お前じゃないんだな?」

友人がそう聞いてきたので、俺は消え入りそうな声で返事を返した。

「ああ……」

「そうか……今警察に連絡したから……いいか?階段を使え……分かったな?」

「ああ……」

そう言うと俺は通話を切り、フラフラとした足取りで階段の方へ向かった。

あれ以来、友人とは一度も連絡を取っていない。

後にニュースで知った事だが、あの日マンションの入口で男の遺体が発見されたそうだ。

心臓発作……一応そういう事になっているらしい……。

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