短編2
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花柄のハンカチ

 仕事に行くため電車に乗った。奥に入り込めないくらい満員だった。入口直ぐ近くの手すりを掴み、スマホを取り出し眺めていた。

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 途中の駅で数名乗ってきて、そのうちの1人の通勤中と思しき若い女性が私の目の前に立った。窮屈な車内で体が触れないよう注意しながら、スマホを眺め続けていた。私は身長が大きいため、スマホを眺めると必然的に目の前にきた彼女が目に入る状態だった。

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 女性は徐にカバンから花柄のハンカチを取り出しそれをじっと眺めていた。その様に少し違和感を覚えた私は、自然と彼女を目で追っていた。

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 しばらくすると女性は具合が悪そうに、電車のドアに寄りかかりらだした。それでもハンカチをずっと見つめてる。「大丈夫だろうか」と思い、女性に声をかけようかとも思ったが、「知らない男に突然声をかけられた気持ち悪い」と思われるかもしれない、という思いとの葛藤が生じ、様子を見ることにした。彼女は容態は悪くなる一方のようで、座ったり立ったりを繰り返しはじめた。座ってもなお彼女はハンカチを見つめている。

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 ふらふらになりながら女性は立ち上がり、再び閉まったドアに寄りかかった。ふとドアに寄りかかった彼女の腕が目に入った。赤い線が何重にも刻まれていた。リスカ跡だった。ギョッとして、彼女をもう一度見た。まだハンカチを眺めて続けていた。よく見るとそれはハンカチではなかった。血のついたガーゼだった。彼女はそのガーゼを、電車に乗っている間、扉に突っ伏しながら、座り込みながら眺め続けていた。

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 途中で女性は降りて行った。とても職場に行けそうな足取りではなかった。動き出した電車の中から、彼女の背中を見えなくなるまで見つめ続けていた。その後一年近く同じ電車に乗っているが、その日以来彼女を見てはいない。

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