短編1
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宿

ある旅人がその日のうちに峠を越えたいと道を急いでいた

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陽が傾いてきてそれはどうも無理だと近くの宿場で宿を探したが

雰囲気のいい感じのところは全部埋まっていて

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仕方がないので古い薄暗い宿に

一泊とった

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部屋もじめっとして薄暗くて

旅人は「ああ嫌だ」と思い

早々に布団をかぶり眠ってしまった

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夜中、ふと目が覚めるとぼそぼそと人の声がする

何か化け物でもいるのか…

と旅人は震えて声を聞いていると

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「兄さん寒かろう…」

「お前も寒かろう…」

とどうやら子どもの声がする

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どこで話しているのか?と

床の間、渡り廊下と一つずつ聞き耳を立てたが何処でもない

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あれ…?と旅人は思った

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その時も続いている

「兄さん寒かろう…」

「お前も寒かろう…」

の声は自分の直ぐ側…

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いや、自分を包んでいる布団の中から聞こえてきていた

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ギャッとその布団から抜け出すと

もそもそと動いている感じもする

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その部屋から飛び出し夜を明かし

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次の日

宿の主に問い詰めると

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その布団は税を納められない

貧しい家から

税の代わりに取り立てた物を

安く買い取った物だと白状した

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旅人が昨夜のことを話すと

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「今でもその兄弟は一つの布団を分け合っているんですかねぇ」

と宿の主は哀れそうに言った

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