ある若者はバイクで全国を旅し
土地土地の風景を見て
その土地の人と交流するのが趣味だった
separator
ある地方に行ったとき
駅前のベンチがある休憩所で
地元のお婆さんと知り合った
separator
お婆さんは年がいっていたが愛想がよく
若者とも年齢関係なく話が盛り上がって
separator
「じゃあ今日は家に泊まるかね?」
というお婆さんの提案に若者も喜んで乗った
separator
wallpaper:2617
お婆さんの家は本当に懐かしい
囲炉裏があってゴザが敷いてあり桐のタンスがあるような
田舎の昔ながらの日本家屋で
若者には物珍しくてキョロキョロと家の中を見回した
separator
夕方になると
「そろそろ夕飯にしようか」
とお婆さんが囲炉裏を囲んで
separator
様々な手作りの地元料理を並べてくれた
現代っ子の若者の口には合わないものもあったが
separator
お婆さんの心遣いが嬉しくて
またお婆さんのこの土地の昔話などで
二人で盛り上がった
separator
と、
separator
「お爺ちゃん」
separator
「お爺ちゃん、お客さんだよ」
separator
「……?」
若者には意味がわからない
separator
「お爺ちゃん夕飯だよお客さんもきてるし」
「こっちきて一緒に食べよう」
separator
やっと
お婆さんが若者の向かいの
暗い畳の部屋に話しているのに気がつく
separator
「お爺ちゃん恥ずかしがりやでね
なかなかこっち来ないんだよ」
separator
お婆さんは若者に笑いかける
separator
若者には暗い部屋に誰も見えないが
仏壇がおいてあるのが見え
ゾッとする
separator
「ちょっとはばかりに行ってくるで…」
separator
「え…?」
お婆さんが席を立ち
向かいの暗闇と二人きりにされると
separator
若者は生きた心地がしなかった
終
作者尾白
はばかり=トイレです