超短編小説「猫角家の人々」:その5

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超短編小説「猫角家の人々」:その5

猫角克子蜜子姉妹は、些か不用意だった。リースで手に入れて役人に見せるだけの目的でネコネコハウスに置いてある機器類が「リース品」であることを、ある部外者に口走ってしまったのだ。部外者は、違和感を感じた。そして、「事件」の解明が進展するにつれて、何故、リース品だったのか理解するに至ったのだ。さらに、部外者が、そのリース品のコピー機を借用した時、克子はまた過ちを犯した。コピーの使い方を聞かれて、使ったことがないと正直に喋ってしまったのだ。つまり、コピー機は、ダミー目的でただただ置いてあるだけだったのだ。

介護事業の脱法的儲け手口といえば、助成金詐取よりもなによりも「介護報酬の不正請求」手口である。2006-2007年に発覚したコムスン事件では、介護報酬の不正請求や違法な指定申請が発覚して、厚生労働省は、同社の事業が継続できないような処分を下した。コムスンは、訪問介護最大手であり、全都道府県の企業に分割譲渡されて、企業体は消滅した。約6万人の利用者が影響を受けて、右往左往した。従業員2万名が仕事を失った。親会社のグッドウイルグループも消滅する運命となった。

最大手のコムスンですら、この体たらくである。中小の状況はさらに悲惨である。2014年に全国に7300ほどあった特養ホームの30%近くが赤字になっている。特に収容人員29人以下の小規模施設の4割は赤字だ。小さいほど、経営は難しいのだ。2000年の介護保険開始から15年間で、1714カ所の事業所が「ズル」を咎められて、介護事業所の指定取消処分を受けている。そうなると、介護報酬を一切請求できなくなる。

(株)猫角えつかの介護事業も、勿論、不正請求まみれ、違法な指定申請まみれである。本来ならば、たくさんある介護施設の一つでもルールを破れば、全事業所の指定が取り消されるのだ。だが、コムスン事件が発覚するまでは、厚労省もかなりいい加減な管理をしていた。だからこそ、コムスン事件が起きたのだが。不正が発覚した事業所は閉鎖してしまう。そして、その事業所の客は、近くに別の事業所を作って吸収する。これで、不正はそれ以上追及されないで済む。厚労省のお目こぼしが不正を助長してきたのだ。猫角姉妹は、この厚労省の怠慢を十二分に利用して儲けた。

だが、いくら儲けても儲けても、ギャンブル好きの蜜子が湯水のように使ってしまうのだ。ちょっと損をすると熱くなった蜜子は、損を取り戻そうとさらに相場を張って、損失を10倍に拡大させてしまったのだ。会社の儲けは、みるみるうちにFX市場に消えていった。儲けが消えるだけならまだいい。いつの間にか億に近い負債を抱え込んでいる。こうなると、介護事業などいくらやっても追いつかない。

FXを始めた当初、まぐれでそこそこの金を手にしたのがまずかった。蜜子は、FX賭博の美味しさを知ってしまったのだ。だが、蜜子がFXで莫大な借金を抱え込んでいることを、姉の克子は知らない。もし、克子がそれを知ったら….蜜子は、直情的な姉に詰られるのをひどく恐れる。(続く)

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