とらうま【伍】─フリマにて─

中編3
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とらうま【伍】─フリマにて─

とある日曜日の昼下がり。

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三十路で独り者の俺は散歩がてら、近くの小学校グランドで開催しているフリマに立ち寄った。

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鮮やかな秋晴れの空の下、広いグランドは青いビニールシートに埋め尽くされている。

古着、家電、食器類、家具等々、老若男女様々な人たちが思い思いに物品を販売していた。

商売熱心な人もいれば、ただ物品を並べているだけでゴロリと横になっている人もいる。

時間は間違いなくゆったりと進んでいた。

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何ヵ所か立ち止まり古着とかを手にとってみたが、なかなか気に入ったものは見つからずに歩き続け、結局グランド端の公衆トイレ辺りにまで行き着いてしまった。

そこでついでにと用を足した後再び外に出ると、タバコでも吸おうかとトイレの裏側の方へ歩く。

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そして、ハッと息を飲んだ。

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トイレ裏手の薄暗い陰鬱なスペースに青いビニールシートが敷かれており、人がいる。

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こんなところに、、、

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と思いながらもタバコに火を点けると、立ったまま何気なく視線をやってみた。

茶色いベレー帽を被って花柄のエプロンをした女が、トイレの壁の前に立っている

短い茶髪の下にある横顔はマスクをしており、表情はうかがいしれない。

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女の前に置かれたモノに視線を移してみる。

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シートの上に小さな黒っぽいモノが数十個、きちんと並べられている。

最初はそれらが何か分からなかった。

好奇心に駆られた俺は、

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こんにちは~

何を売られてるんですか?

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と軽く挨拶をしながら、中腰でシートの上を覗き込む。

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そして一瞬でたじろいだ。

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それはゴキブリだった、、、

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大小様々な死んだゴキブリがズラリと並んでいる。

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嘘だろ、、、

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思いながらよく見ると、それらのゴキブリの下側には長方形の白い紙が添えられていて、こう書かれている。

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昭和○年○月○日午前3時4分 台所にて確保

体長31ミリ クロGオス 特価50円

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平成○年○月○日午後6時8分 玄関口にて確保

体長25ミリ 茶羽Gメス 値下げ品30円

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令和3年8月○日 午後9時55分 洗面所にて確保

体長43ミリ ヤマトGオス 特価50円

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………

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「お気に入りの子とか見つかりましたか?」

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突然女の明るい声がしたので見ると、壁の前の女が目を細めてこちらを見ている。

俺はジリジリ後退りしながら、

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い、いえ、、、

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と一言残して慌ててその場を立ち去った。

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一度自宅マンションに戻ったが、その日は自炊する気が起こらず再び外に出てすぐ近くのファミレスで晩飯を食べることにする。

生ビールを一杯飲んだ後ハンバーグセットをオーダーしたのだが全く食欲が湧かず、ご飯もおかずも半分以上残してしまった。

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店を出た時、もう外は暗くなっていた。

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歩道をしばらく歩きマンションの敷地に入ると入口から中に入り、右手にある集合ポストの前に立つと、郵便物をまとめて取り出す。

するとポトリと白い封筒が床に落ちた。

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なんだろう?と拾い上げると宛名も何も書かれていない。

ただ何か入っているようで封筒は全体に膨らんでいる。

首をかしげながら封を破ると、一気にウジャウジャと何かが飛び出してきた。

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うわわわわ!

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驚いて思わず封筒を床に放り投げると、中から次々小さなゴキブリが出てきて四方八方に逃げ回り、あっという間にいなくなった。

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何とか気持ちを落ちつかせ、改めて床に落ちた封筒を見ると一枚の便箋が入っているのに気付く。

拾い上げると、そこにはしっかりとした筆文字で次のように書かれていた。

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※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

本日は私の新しいお店にお越しいただき、誠にありがとうございます。

これは私からのほんのお礼の気持ちです。

気に入っていただくと幸いです。

明日も同じ場所で営業しておりますので、またのお越しを心待ちにしております。

寒くなってきましたので、お体には十分ご自愛くださいませ。

Gの部屋 

店主より

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

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しばらく便箋を片手に呆然としながら立っていた俺は、ふと背後に気配を感じ振り返ると、思わずアッと息を飲む。

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透明の入口ドア向こうにあの花柄のエプロンをした女が立っており、ガラス面に両手をあて嬉しそうに微笑みながらじっとこちらを見ていた。

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fin

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Presented by Nekojiro

Concrete
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