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「鏡に映るということ」
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タクシードライバーから聞いた話。
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トイレ休憩のため立ち寄った公園の男子トイレ。
学生服を着た若い男が、洗面所で鏡越しに話しかけてきた。
慇懃無礼なほど丁寧な言葉だったらしい。
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あなたは、ご自分の顔をご覧になったことがありますか?
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おかしな質問だと思われるでしょうか。
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鏡を見れば、済むことじゃないか。
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おっしゃるとおりです。
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朝、顔を洗う時、
歯を磨く時、
お化粧をする時、
手を洗う時、
うがいをする時、
お手洗いで用を足した時、
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家で
学校で
会社で
駅で
通りすがりのショーウィンドウ
電車の窓ガラス
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意識的に
ときに、無意識に
自分の姿を映して見るでしょう。
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でも、その顔
本当に あなたの顔でしょうか。
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鏡って、左右反転して映ることしっていますよね。
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よく言われるんですよ。
『あなたの顔、鏡と違うって。』
どう違うんでしょう。
と尋ねると、
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みんな、困ったような顔をして、黙り込むんです。
言われたコチラとしても、それ以上、突っ込んで聞けなくなってしまって。
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「そんなこと言われたら気になるよなぁ。」
タクシードライバーは、そう返した。
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(それにしても、おかしな話をする奴だなぁ。そもそも学校はどうした。)
公衆トイレの薄ぼんやりとしたあかり。
顔の全容は視えないが、眼の前の鏡に映る若い男は、学生服を着ていた。
年の頃は、15、6歳ぐらい。落ち着いた物腰から、高校生だろう。
まぁ、どこにでもいる ごく普通の男子学生に見える。
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「君は、若いから気になるのだろうけど、鏡の顔なんてもんは、実際の顔とは違って視えてあたりまえじゃないの。」
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「・・・そうでしょうか。」
男子学生は、ゆっくりとこちらを向いた。
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その姿を見た途端、タクシードライバーは、その場を飛び出していた。
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男子学生 左半分顔がなかった。
逃げ出す少し前、鏡に映る男子学生は、笑いながらこう呟いたそうだ。
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「あたりまえだって?あなた、ほんとに、そう思われるのですか。」
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「鏡では、ちゃんと全身が視えていたんだ。」
いわくつきでもなければ、さしたる噂もない ごく普通の公園で。
それも、真っ昼間の出来事だったという。
以来、その公園には一度も足を踏み入れていないし、しばらくは、鏡を見ることさえできなかったそうだ。
作者あんみつ姫
鏡
苦手です。
色んな意味で。
怖いです。