「てのひら怪談」 第14話 

23年01月怖話アワード受賞作品
短編2
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「てのひら怪談」 第14話 

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「鏡に映るということ」

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タクシードライバーから聞いた話。

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トイレ休憩のため立ち寄った公園の男子トイレ。 

学生服を着た若い男が、洗面所で鏡越しに話しかけてきた。

慇懃無礼なほど丁寧な言葉だったらしい。

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あなたは、ご自分の顔をご覧になったことがありますか?

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おかしな質問だと思われるでしょうか。

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鏡を見れば、済むことじゃないか。

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おっしゃるとおりです。

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朝、顔を洗う時、

歯を磨く時、

お化粧をする時、

手を洗う時、

うがいをする時、

お手洗いで用を足した時、

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家で

学校で

会社で

駅で

通りすがりのショーウィンドウ

電車の窓ガラス

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意識的に

ときに、無意識に

自分の姿を映して見るでしょう。

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でも、その顔

本当に あなたの顔でしょうか。

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鏡って、左右反転して映ることしっていますよね。

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よく言われるんですよ。

『あなたの顔、鏡と違うって。』

どう違うんでしょう。

と尋ねると、

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みんな、困ったような顔をして、黙り込むんです。

言われたコチラとしても、それ以上、突っ込んで聞けなくなってしまって。

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「そんなこと言われたら気になるよなぁ。」

タクシードライバーは、そう返した。

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(それにしても、おかしな話をする奴だなぁ。そもそも学校はどうした。)

公衆トイレの薄ぼんやりとしたあかり。

顔の全容は視えないが、眼の前の鏡に映る若い男は、学生服を着ていた。

年の頃は、15、6歳ぐらい。落ち着いた物腰から、高校生だろう。

まぁ、どこにでもいる ごく普通の男子学生に見える。

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「君は、若いから気になるのだろうけど、鏡の顔なんてもんは、実際の顔とは違って視えてあたりまえじゃないの。」

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「・・・そうでしょうか。」

男子学生は、ゆっくりとこちらを向いた。

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その姿を見た途端、タクシードライバーは、その場を飛び出していた。

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男子学生 左半分顔がなかった。

逃げ出す少し前、鏡に映る男子学生は、笑いながらこう呟いたそうだ。

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「あたりまえだって?あなた、ほんとに、そう思われるのですか。」

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「鏡では、ちゃんと全身が視えていたんだ。」

いわくつきでもなければ、さしたる噂もない ごく普通の公園で。

それも、真っ昼間の出来事だったという。

以来、その公園には一度も足を踏み入れていないし、しばらくは、鏡を見ることさえできなかったそうだ。

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@ぐれん 様
はじめまして。あんみつ姫と申します。
この度は、拙作「てのひら怪談」をお読みいただき、評価とコメントありがとうございました。
映像を思い浮かべて、とても怖かったとのこと。
作家冥利に尽きるお言葉に励まされました。
その上、購読作家の中に加えていただき、嬉しく存じます。
これからも、ぐれん様はじめ多くの読者様に怪談を楽しんでいただけるような作品を描いていきたく存じます。これからも、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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