短編2
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『おすもうさん』

 俺は子供の頃によく近所の悪ガキにイジメられていた。

盗まれたゲームや玩具は絶対に戻って来ない。

そういう暗い青春を送っていた。

ある日、憂鬱な気持ちでテレビを見ていると、不思議な番組が放送されている事に気付いた。

おすもうさんが白い影みたいなのと取り組みをしていたのだ。

白い影はルール無用って感じでおすもうさんの膝を踵で何度も何度も蹴っていた。

何だろう?異種格闘技特番か何かだろうか?

しかし番組表にはこんな番組なんて無かった筈なのに。

力士の顔も見えずカメラアングルも何かおかしかった。

不思議な感覚だったがその内におすもうさんが身を翻して影に向かって猛烈な張り手を繰り出した。

多分、決まり手は突き倒しだったと思う。

何となくスカッとした。

次の日から悪ガキが学校を休みがちになる様になった。

何でも近所のお寺でイタズラをしていたら通りすがりのおすもうさんと鉢合わせして注意されたそうだ。

悪ガキは逆上しておちょくり半分に膝へと何度か蹴りを入れたらしかった。

するとおすもうさんにガチギレされて張り手を喰らわされた。

丁度転んだ時に足場が悪く相当に高いお寺の階段から真っ逆様に地面まで転げ落ちたそうだ。

彼は奇跡的に命が助かったが、不思議なのは病院で精密検査をして貰っても骨折は愚かカスリ傷一つ負っていなかったという事。

その為に狼少年と疑われ警察にもマトモに相手をして貰えなかったらしい。

悪ガキの父兄は相当に警察に食い下がったそうだから個人的には恐らく嘘では無かったのだと思う。

それ以来悪ガキは不登校気味となり時折学校に来てもすぐに早退する小心者となっていた。

しかし素行も良くなったのでクラス全体が明るくなり皆おすもうさんに感謝した。

そのせいか昼休みには相撲を取る男子が増えある種の相撲ブーム状態だった。

最終的に悪ガキの父兄からの横槍で校長先生による相撲永久禁止命令が出る迄は。

そう言えば悪ガキを相撲に誘うと決まって奇声を発して何かに怯える様にブルブル震え出していた気がする。

しばらくの間俺はそんな彼を笑い者にしていたが今では彼には可哀想な事をしてしまったと後悔している。

なぜならもし彼がこの世に居なかったら俺がこの大相撲の舞台で闘える日も来なかっただろうから。

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