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中編3
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あの日、踏み外した

あれは、いつの頃だったか…。

確か小学生の2、3年生の頃だったと思う。

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貴方も幼い頃にしたことがあるのではないだろうか。

スーパーの床の色のついたタイルだけを踏んで歩く、だとか。

横断歩道の白い部分だけを踏んで渡る、だとか。

踏んでもよいと決めた部分以外は穴だとか溶岩だとかになっていて、踏み外したらはい死亡、ゲームオーバー…。

そんな遊びをした経験のある人も多いのではないだろうか。

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その日も、そうやって遊んでいた。

小学校と自宅とを結ぶ通学路。私が通っていた通学路脇の側溝のフタには、白っぽい色のものと黒っぽい色のものが使われていた。

白いフタの中にぽつりぽつりと黒いフタが混じる…といった感じ。

で、そのとびとびに配置されている黒いフタだけを踏んで帰る。

それが私、A、B、Cの同じ方面に家がある4人が、よく帰宅時にしている遊びだったのだ。

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割かし運動神経のよかった私、A、Bがフタをテンポよくぴょんぴょんと跳び渡ってゆき、少々どんくさいところのあるCがわずかに遅れて後からついてくる。

そして大抵はCがフタから足を踏み外し、私たちはそんなCを見て「なんだまたCが落ちたのかよどんくせェなあ」なんて笑い合う。

それが、いつもの見慣れた下校時の光景であった。

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「ゎああっ」

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だから、その日も後ろからそんな情けない悲鳴が聞こえた時、私たちは何の疑問も抱くことはなく。

「おいおいC、またかよー」

なんて言いながら振り返ったのだ。

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しかし。

振り返ったそこには。

Cの姿は、なかった。

ただ、田舎町の道が寂しく広がっているだけだったのだ。

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「あれ?C?」「なんだアイツどこ行った」「おーい、C?どこ?出てこいよ!」

口々にそんな風に呼びかけていたと思う。

真っ先に黒いフタから落ちたCが、また私たちに笑われるのが嫌で、道路脇の茂みに隠れでもしたのだろう…と、幼い頭でそんな風に考えていたのだ。

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しかし、いくら呼べどもCが姿を見せることはなかった。

道路脇の茂みも背の低いもので、いくら小学生でも隠れようとすればランドセルなり黄色い帽子の先なりがはみ出してしまうだろう。

Cはまさに、忽然と姿を消してしまった。

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流石の私たちも怖くなった。

さっきまで確かに後ろにいたはずの友人が、他愛ない話で盛り上がっていた友人が、一瞬の間に消えてしまったのだから。

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どうすればいいかわからず、半ばパニック状態になった私たちは、そこから一番近くのBの家に駆け込んだ。

「母ちゃん!母ちゃん!Cが!Cが!」

Bがそんな風に叫んでいた気がする。

奥から頓狂とした顔をして現れたBの母に、3人がワァワァと喚き立てた。

Cが、Cが、消えた、居なくなった…。

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きっと相当に要領を得ない説明であっただろうが、状況を把握したB母が110番やらC宅やらに連絡を回してくれ、私たちはB宅で警察の到着を待つこととなった。

ややあって現れた警官に、まだ落ち着かないながらもCが突然消えた旨を説明し、私とAは各々の家へと帰されたのだった。

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なかなかに規模の大きな捜索が行われていたと思う。

地元紙でも失踪事件として取り沙汰され、一時期は何者かによる誘拐の疑いも出ていた程だ。

しかし、Cが消えた地点は民家が少ない田んぼや空き地地帯で、故に見通しは良い場所であった。

それに私たちも怪しい車だの大人だのは見た覚えはないし、身を隠すにしても、子供が隠れるにも心許ない茂みがある程度なのだ。大人が誰にも見つかることなく子供1人を抱えて逃げて行けるとは思えない。

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やがてCの捜索が打ち切られたのは、何ヶ月先の事だったか…。

大切な友人を失った喪失感から、その頃の時間の感覚がどうにも曖昧で、私は今でもハッキリとした記憶を引っ張り出すことができないでいる。

その日から私たちは、フタを跳び渡る遊びをしなくなった。

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事の真相は未だにわからないが…。

私は、Cは落ちてしまったのだろう、と思うことにしている。

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黒いフタを踏み外した先。

そこには、底無しの穴がぽっかりと口を開けているのだ。

そんな設定で遊んでいた。

だから、きっとCは。何度も足を踏み外していたCは。

あの日とうとう、その底無し穴に落ちてしまったのだろうと、私はそう思うことにしている。

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