超短編小説「猫角家の人々」その27

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超短編小説「猫角家の人々」その27

真っ黒が、介護業界に入ったのは、他に仕事がなかったからだけではない。この業界への就職を考えた時点で、真っ黒は既に裏社会にリクルートされていたのだ。つまり、真っ黒は、裏社会の肝いりで介護施設に入社したのだ。そして、施設も、裏社会に指定された施設だったのだ。

裏社会が、真っ黒に求めた「シゴト」とは何であろうか?背筋が寒くなった読者もいるであろう。だが、その想像される背筋の凍る「役割」とは別に、真っ黒には重大な使命が与えられたのだ。保険金詐欺業界のエリート的業務である。マーケティング部門とでもいうべきか。

介護事業は、細かい分類があり、極めて複雑で素人には分かりにくい。「指定居宅サービス事業」という分類だけでも、訪問介護、訪問入浴、訪問看護、訪問リハビリ、通所介護、通所リハビリ、短期入所生活介護、短期入所量要介護、居宅療養管理指導、特定施設入居者生活介護…..頭が割れそうだ。この辺りで止めておこう。要するに、介護の仕事は、老人ホーム、デイサービス、訪問介護といった分野に分かれるが、介護詐欺業界の犯罪者の観点からすると、どの分野で、いかに捕まらないで不正を働くかということが重要なのだ。

猫角姉妹のケースで言えば、もはや、介護報酬の不正請求といった手段が使えず、かつ、その程度の不正では、巨額の負債をカバーできない危機的状況にある。そうなると、介護事業からいかに大金を生み出すか知恵を絞らなくてはならない。「やはり成年後見人制度を悪用した財産与奪しかないな。」姉妹は、この結論で一致する。そうなると、まずは、強奪できる財産を持っている呆け老人を探さなくてはならない。しかも、処分した財産を懐に入れられる「条件」に合致している老人でないと、徒労に終わってしまう。

この種の犯罪を始めるにあたって、まずは、カモの老人を探す作業が必要になる。その作業を担当するのが、真っ黒のような、裏社会の派遣したヘルパーさんということになる。老人ホームで、懇切丁寧で、真摯なサービスを行い、入所者や家族の信頼を勝ち得る。本人や家族の相談にも一生懸命応じる。結果、家庭の事情や財産の状況も聞き出すことができる。「母一人子一人」で、息子は母親名義の財産を処分したがっている。

勝手に財産を処分すれば、横領となり捕まってしまう。母親は、認知症が進んでいる。息子に知恵をつけて、息子に成年後見人として選任するよう家庭裁判所に申請させる。現金化した財産の山分け….それだけでなく、生命保険も絡めて、もっと大きく儲けたいところだ。

一方、猫角姉妹も、同様に、カモを探している。ネコネコハウスに問い合わせをしてくる新規の客のなかに「宝石」を見つけようとする。だが、カモだと思って拾ってきた婆さんが、たいした財産も持っていなかったと分かったりする。事前の調査が不完全だったのだ。やはり、弁護士や司法書士のように、家族や財産の事情を調べることのできる立場でないと、カモの選別はできないのだ。(続く)

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