有砂橋事件・事故ファイル1 「有るはず無しの有砂橋」

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有砂橋事件・事故ファイル1 「有るはず無しの有砂橋」

これから話すことは長野県内の某警察署の署長を2年2期通算4年勤め上げた叔父から聞き出した話です。

もちろん彼の名誉のために言いますが実際にあった事件や事故に関することのため叔父は簡単には口を割りませんでした。

ですがこちらも営業職です、主にお酒の力を借りてヘベレケになった叔父に昔語りをせびったのです。

そもそもこのファイルの存在を私が知ったのは叔父を含む親戚一同の新年会で誰かのつまらない冗談に対して叔父が

「そんなの有るはず無しの有砂橋だねぇ」とぼそっとほとんど誰にも聞こえないような声でツッコミを入れたのを隣にいた私が耳聡く聞き取り「叔父さん?有砂橋って何?」とこそっと質問したのがきっかけです。

叔父は大変罰が悪そうに誤魔化そうとしていましたが私が新年会の後半に出そうと隠していたとっておきの日本酒1升瓶で司法取引となりました。

その時のやりとり

「いいか、このことは一切誰にも他言するなよ。俺が当時初めて警察署長に着任した平成10年、ちなみに当時俺は55歳だった。

前任者からの引き継ぎの最後の最後に前任の署長は晴々とした顔で俺に分厚いファイルを渡してきたんだ。」

「これは一体何のファイルですか?」

「それは有砂橋事件・事故ファイルだよ。」

「聞いたこともない案件ですが相当古いファイルですね。」

「それはあまり大きな声では言えないんだがいわゆるお化け案件なんだよ。」

「お化け案件?・・・ですか?」

「そう、未解決事件の中でも荒唐無稽、意味不明、捜査不能、そういった事件を集めたファイルだよ。

そんな有るはずの無い案件が年に1件有るか無いかくらいの頻度で起こるんだよ。

私も前任者から、彼もまたその前任者からこれを順番に引き継いできたというわけだ。まあ過去の不良債権と思って諦めてくれ。」

「はあ・・・。役に立つんですか?こんなもの。とっくに保管義務期限を過ぎているものもたくさんありますが。」

「それが稀に役に立つんだよ。私の任期中も1件だけこのファイルがきっかけで捜査に進展があったことがあるんだよ。その時の私の武勇伝は今度披露するから楽しみにしていてくれ。」

「かしこまりました。最高のお店を用意しておきます。

ちなみに最後にお伺いしたいのですが、有砂橋とはどこに架かっている橋でしょう?恥ずかしながら寡聞にして存じ上げません。」

「あー、それはこのファイルを作り始めた当時の署長の洒落だよ。『あるはずなし』を並び替えて『あるずなはし』。

万が一お化け案件ファイルなんて記名したらファイルをたまたま見た人が興味を持ってしまうかもしれんからね。

当然このファイルの存在や内容は機密扱いだ。署長歴任者またはこのファイルの存在を既に知っている者のみ閲覧可能だ。管理責任者は当然署長だよ。普段は署長室の金庫にしまって置くこと。」

「わかりました。私が署長の間はこのファイルが活躍することも資料が増えることも無いことを祈っていますよ。」

「そんなわけで俺はその奇妙奇天烈奇々怪々な有砂橋ファイルの管理責任者になってしまったわけだ。」

「へー、叔父さん、中にはどんな事件や事故のことが書かれていたの?そりゃあ読んだんでしょ?」

「もうここまでだ。これ以上は一言も俺はゲロらねえぞ。酒は飲んでも飲まれるな、乗ったら飲むな飲むなら乗るな。だが今日はちと飲み過ぎたみたいだな。」

「えー!?つまんねえ!!」

かくして俺の趣味に日本中の酒蔵巡りが追加されたのだった。

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