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中編4
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S美からのライン

10月4日午前2時2分

S美:お元気ですか?

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その日大学が休みだった後藤が、このラインに気が付いたのは10月4日の午前8時頃だった。

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─S美?

誰だっけ?

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彼はベッドに横たわり携帯を目前に翳したまま1人呟くと、

─えっと、相変わらずだけど

と、とりあえず返す。

そして午後からバイク仲間とツーリングの約束をしていた後藤は準備をした後、改めてラインを確認したが返信がなかったから外出する。

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そして翌朝の午前8時頃。

再び深夜の2時にラインの着信があったのに後藤が気づいたのは、朝イチの講義に出かける直前だった。

その内容は、

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10月5日午前2時3分

S美:こっちはずっと真っ暗です

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─真っ暗?

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ますます意味の分からない後藤は、

真っ暗って、どこにいるの?

と返す。

すると今度は、すぐに返信が来た。

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10月5日午前8時5分

S美:周りはみんな真っ暗

自分の手も見えないくらい真っ暗なところ

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─手も見えない?

そんな真っ暗なところって、、、

いったいどこなんだ?

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などと彼の頭の中は疑問符でいっぱいになりつつあったが、これ以上もたもたしてられないからアパートを出る。

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その日の講義は午前中のみだった後藤は、友人の中村と学生食堂でランチを食べていた。

中村と後藤は幼なじみで、小中高と地元の同じ学校を卒業した後も、そのまま地元にある同じ工業系の大学に進学したのだ。

正面に座る中村が口を開く。

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「S美?知らんなあ」

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やはり中村も、S美のことは知らなかった。

だから後藤は、その日の晩、自宅のソファーに寝転がり、携帯を片手にいろいろ思いを巡らしてみる。

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─中高の頃の女友達かなあ、、、

それともサークルの誰か?

いや、バイト先の同僚かな?

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考えれば考えるほど、思いが迷宮に紛れ込んでいく。

途方に暮れた彼はとうとう、携帯を床に置いた。

それから目を瞑っていると、いつの間にか眠りの沼に落ちてしまった。

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それからどれくらいが過ぎた頃だろう?

彼は心地よいチャイム音で、現実に引き戻される。

それはラインの着信音。

時間はもう深夜零時過ぎだ。

後藤は眠い目を擦りながら携帯を目前に翳すと、ラインを開く。

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10月6日0時8分

S美:寒い

そっち行っていいですか?

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─何を言ってるんだ、この子は?

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などと思いながら、後藤は次のように返した。

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ダメだよ

だいたい俺、あなたのこと知らないし

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その後、S美からのラインは途切れる。

また彼はいろいろ思いを巡らしていたのだが、拉致が明かないので、隣の部屋まで歩くとベッドに横になった。

するととたんに、ライン電話のコール音が鳴り出す。

彼は慌てて携帯を目前に翳してみた。

中村からだ。

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─ごめん、こんな遅くに

あのさあ、今日の昼の話なんだけど

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─昼の話?

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後藤が問い返す

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─ほら、S美という子の話

あれから考えたんだけどさ、お前、小6の修学旅行の時にあったこと、覚えてるか?

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─いや、覚えてないけど、、、

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─確か二日目だったかな、山口県にある秋芳洞という鍾乳洞に立ち寄った時、1人だけ集合場所に戻って来なかった女子生徒がいたの、覚えてないか?

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秋芳洞なら、前月バイクで遊びに行ったところだ。

後藤は記憶の片隅を探り、小学校時代にそんなことがあったことに気づく。

だから彼は「ああ、なんとなく」と答えた。

中村が続ける。

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─警察沙汰にもなったにもかかわらず、結局その子見つからなかったんだけどさ、確か、その女子生徒の名前がS美だったんじゃないかな、、、

でももうあれからかなりの年数が経ってるわけだし、だいたい今生きてるのかさえも分からないその子がお前にラインしてくるなんて、あり得ないよな。

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中村との会話はここで終わった。

それから後藤は再びベッドに横たわると、またS美のことを考えだした。

しばらくすると彼の脳裏に、おぼろげだがおかっぱ頭をした地味な女の子の姿が浮かんできた。

ただその顔だけはどうしても思い浮かばなかった。

というのは同じクラスだったが、ほとんど会話をした記憶がないのだ。

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ラインでS美は、ずっと真っ暗で寒いところにいると言い、最後はこっちに来ても良いか?と言った。

ということは彼女には俺の居場所が分かっているのか?

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─そんなバカな、、、

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彼は一言そう呟き立ち上がるとベッドを離れ、再びリビングに戻る。

それからベランダに通じるサッシ扉を開く。

冬の到来を予感させる冷たい風が、サッと額を掠めた。

後藤はベランダの手すりのところまで歩くと、夜空を見上げた。

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無数の宝石をばら蒔いたかのような星たちの瞬きを眺めていると、何故だか彼はあのS美からのラインが、あのどこかから送られてきたのではないか?などというおかしな妄想に囚われた。

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しばらくその場に立ち尽くしていた彼だが、寒くなってきてリビングに戻るとサッシ扉を閉じて、カーテンを閉める。

そしてまた寝室に行く前にトイレを済まそうと、廊下へと歩いた時だ。

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shake

トン、トン、、、

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ふいに玄関のドアをノックする音がした。

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次の瞬間後藤の体は金縛りにあったかのように固まる。

そして廊下に立ち尽くしたまま、金属製の冷たい扉のノブをただじっと見ていた。

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fin

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